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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
50 オノゴロ島競技決着篇(3900年)
1863/4280

50-04 低速競技!

 ゼッケン11、仁の『ゼロ』はゴールラインを通過。

『今、ゴーール! 『ゼロ』、タイムは15秒9! 16秒を切りました! およそ時速226キロ!!』

 割れんばかりの歓声と拍手が沸いた。

「まあまあ、かな」

 操縦席から立ち上がり、手を振る仁。『ゼロ』は礼子が回収してきてくれた。

「お、ありがとう」

 礼子の頭を撫でた仁は、次のフライトに注目した。


『ゼッケン12はロードトス様! テーパー翼機『スワロー』、スタート!!』

 『スワロー』はわずかな滑走後、ふわりと浮き上がった。

「おお、翼面加重が小さそうだもんな」

 それを見た仁は思わず独り言を漏らした。それほど軽い動きだったのだ。

 おまけに、なんと2重反転プロペラが付いていた。

『速い速い! ぐんぐんと加速しております!!』

 さらに、『スワロー』は、強力なエンジンを積んでいるらしく目を見張る加速を見せた。

「機体が軽いから、反トルクの影響を受けやすい。それを嫌って2重反転プロペラにしたわけか」

 安定した飛行を見せる『スワロー』はポールをくるりと回った。

「軽いから小回りも利いているな」

 結界による無風という条件を最大限に生かした設計だな、と仁は感心していた。

『今、ゴーールです! タイムは15秒9! ジン様と同タイムです!!』

 再び会場は割れんばかりの歓声に包まれた。


『さあ、最後のフライトはゼッケン13、マリッカ様です! テーパー翼機『イーグル』! 今、スタート!!』

 この機体も、その大きさの割に重量が軽いようで、ふわりと浮き上がったあとは軽快に速度を上げていく。

『おおっ、これも速い!』

『空気抵抗をできるだけ抑えた設計のようですね』

 解説の言葉どおり、マリッカの『イーグル』は、参加した機体の中で最も細身であるし、主翼も薄いようだ。

 これは、大きくなった機体の空気抵抗を減らすためと思われる。

 そのためか最高速の伸びもよく、ポールを回る姿勢も安定していた。

『速い速い! これも凄い記録が出そうです! 今、ゴーール!』

 マリッカのタイムは16秒フラット、およそ時速225キロであった。


 これで全員の飛行が終わった。

 結果、

 1位 仁

 1位 ロードトス

 3位 マリッカ

 と、図らずもゲストの3人で1位から3位を独占してしまったわけである。

 以下、

 4位ルビーナ・ギャレット     (競技順位対象者1位)100点

 5位ヴェルナー・ランドル     (競技順位対象者2位)80点

 6位フローレンス・ファールハイト (競技順位対象者3位)60点

 7位シュウ・ニドー        (競技順位対象者4位)40点

 8位シドニー・マレク       (競技順位対象者5位)20点

 9位ナタリア

 10位エルヴィス・アルコット

 11位グリーナ・クズマ

 12位ユージン・フォウル

 13位シーリーン・エッシェンバッハ

 となっている。


*   *   *


「ああ、間に合ったわ」

 次の競技、『低速飛行』に入る前、『森羅しんら』のシオンがやってきた。

 ノルド連邦の方で外せない用事があったため、速度競技の開始には間に合わなかったが、ようやく今駆けつけてきたのだ。

『シオン様がいらしてくださいました!』

 司会のラックハルトがアナウンスすると、観客席からは拍手が起きた。

『それでは、シオン様にも解説をお願いすることにいたします』

『あたしの場合は技術的なことは言えないから、感想的なことになると思うけどね』

 それでもシオンの人気は高く、拍手はなかなか鳴り止まなかった。


『ええ、シオン様にも解説をしていただくことになりました。あらためまして、競技その2、『低速飛行競技』を開始します!』

『空気力学を使って浮いている飛行機ですから、低速になるほど難しいですね』

『そのため、今回は3回のトライが行われ、最も遅いタイムで競われることになります。そして、前回の速度競技とは異なり、離陸後にタイム測定を開始します』

『わざと離陸を遅らせてタイムを稼ぐ、というような策は使えませんね』

 ここでシオンが質問をした。

『墜落に対しては何か対策しているのかしら?』

 低速なので失速して墜落、という可能性もあるからだ。

『はい、地上50センチのところに結界がありまして、受け止めるようになっております。もちろん接触したら失格です』

『なるほどね』

『そして、大回りによる時間稼ぎができないよう、コース外側にも結界がありまして、そこに接触したら失格となります。ちなみにコース幅は10メートルほどとなっております』

『ありがとう。だいたい理解できたわ』

 そして、いよいよ低速競技開始である。

 実のところ、仁としてはこちらの競技こそ腕の見せ所だと思っている。

 ゆえに3回のトライができるように決めたのだ。


『ゼッケン1ナタリア、三葉機『ハルシオン』号! 今、スタートしました!』

 離陸し、『墜落判定高度』を越えたところでタイム測定開始だ。2周して同じ位置に来た時点で終了となる。

 この測定はゴーレムが行い、人間的な誤差を可能な限り小さくしている。

『……ほんと、ゆっくり飛ぶわね』

『競技場内は風の結界により無風状態になっておりますので、風の影響は無視できます』

 司会のラックハルト、解説のシオンとステイハルトの掛け合い。なかなかバランスがいい、と仁はのんびりしたことを考えていた。

 だが観客は固唾をのんで低速で飛ぶ飛行機を見つめている。

 高速競技と同じく2本のポールを周回するのだが、今回のポール間隔は25メートル。2周で100メートルになる計算だ。

 ふよふよ、という擬音が似合いそうなのんびりした飛行で、『ハルシオン』はポールを回った。

『うまく回ったようです! 低速でのターンは失速したり高度を落としたりしやすいのですが、ナタリアはうまく操縦しております!!』

「深いバンク角でも高度を下げないで回っているな……」

 仁も感心している。かなり練習したのだろう。

『こうした低速飛行というのも見応えがありますねえ』

 普通なら屋内でやるような競技であるが、結界のおかげでアウトドアで行うことができている。

『まもなくゴールです。……今、ゴーーーール!! タイムは33秒5! およそ時速10.7キロです!』

 最高速は時速200キロ前後、最低速が時速10キロ前後。これは凄いことに違いない。

「やっぱり面白いな」

 仁はわくわくしている。


『ゼッケン2シュウ・ニドー、後退翼機『電光』スタートしました!』

『ああ、ちょっと安定悪いわね』

『後退翼機は、まず高速での使用が前提ですからね』

 若干ふらつく『電光』。そして、ターンの際に失速し、高度が下がってしまい、失格となってしまったのだった。

 結界により機体が壊れないというのはいい対策である。

『残念でしたが、あと2回トライできるので期待しましょう』


『ゼッケン3ユージン・フォウル、テーパー翼機、スタート!』

『若干速度が速い気がしますね』

『あら、ほんと。でも安定しているわね』

 その評価どおり、テーパー翼機はターンも安定してこなし、25秒2というタイムでゴールした。時速はおよそ14.3キロ。

「まずは1度、完走……いや完飛行を目指したのかもな」

 それもまた作戦だ、と仁は思った。


『ゼッケン4グリーナ・クズマ、楕円翼機『テンペスト』スタート!!』

『安定いいわね』

『速度もゆっくりですね』

 三葉機ほどではないが、かなりゆっくり飛ぶ『テンペスト』。

 そのタイムは30秒9、時速はおよそ11.7キロ。

 彼女もまた、まずは完飛行するところから始めたようだ。


 参加者たちは皆、この低速飛行が技術の……操縦技術テクニック製造技術テクノロジーの見せ所だと張り切っていた。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180425 修正

(誤)離陸し、『墜落判定高度』を超えた次点でタイム測定開始だ。

(正)離陸し、『墜落判定高度』を越えたところでタイム測定開始だ。


(誤)ノルド連邦の方で外せない用事があったため、速度競技お開始には間に合わなかったが

(正)ノルド連邦の方で外せない用事があったため、速度競技の開始には間に合わなかったが

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