50-04 低速競技!
ゼッケン11、仁の『ゼロ』はゴールラインを通過。
『今、ゴーール! 『ゼロ』、タイムは15秒9! 16秒を切りました! およそ時速226キロ!!』
割れんばかりの歓声と拍手が沸いた。
「まあまあ、かな」
操縦席から立ち上がり、手を振る仁。『ゼロ』は礼子が回収してきてくれた。
「お、ありがとう」
礼子の頭を撫でた仁は、次のフライトに注目した。
『ゼッケン12はロードトス様! テーパー翼機『スワロー』、スタート!!』
『スワロー』はわずかな滑走後、ふわりと浮き上がった。
「おお、翼面加重が小さそうだもんな」
それを見た仁は思わず独り言を漏らした。それほど軽い動きだったのだ。
おまけに、なんと2重反転プロペラが付いていた。
『速い速い! ぐんぐんと加速しております!!』
さらに、『スワロー』は、強力なエンジンを積んでいるらしく目を見張る加速を見せた。
「機体が軽いから、反トルクの影響を受けやすい。それを嫌って2重反転プロペラにしたわけか」
安定した飛行を見せる『スワロー』はポールをくるりと回った。
「軽いから小回りも利いているな」
結界による無風という条件を最大限に生かした設計だな、と仁は感心していた。
『今、ゴーールです! タイムは15秒9! ジン様と同タイムです!!』
再び会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
『さあ、最後のフライトはゼッケン13、マリッカ様です! テーパー翼機『イーグル』! 今、スタート!!』
この機体も、その大きさの割に重量が軽いようで、ふわりと浮き上がったあとは軽快に速度を上げていく。
『おおっ、これも速い!』
『空気抵抗をできるだけ抑えた設計のようですね』
解説の言葉どおり、マリッカの『イーグル』は、参加した機体の中で最も細身であるし、主翼も薄いようだ。
これは、大きくなった機体の空気抵抗を減らすためと思われる。
そのためか最高速の伸びもよく、ポールを回る姿勢も安定していた。
『速い速い! これも凄い記録が出そうです! 今、ゴーール!』
マリッカのタイムは16秒フラット、およそ時速225キロであった。
これで全員の飛行が終わった。
結果、
1位 仁
1位 ロードトス
3位 マリッカ
と、図らずもゲストの3人で1位から3位を独占してしまったわけである。
以下、
4位ルビーナ・ギャレット (競技順位対象者1位)100点
5位ヴェルナー・ランドル (競技順位対象者2位)80点
6位フローレンス・ファールハイト (競技順位対象者3位)60点
7位シュウ・ニドー (競技順位対象者4位)40点
8位シドニー・マレク (競技順位対象者5位)20点
9位ナタリア
10位エルヴィス・アルコット
11位グリーナ・クズマ
12位ユージン・フォウル
13位シーリーン・エッシェンバッハ
となっている。
* * *
「ああ、間に合ったわ」
次の競技、『低速飛行』に入る前、『森羅』のシオンがやってきた。
ノルド連邦の方で外せない用事があったため、速度競技の開始には間に合わなかったが、ようやく今駆けつけてきたのだ。
『シオン様がいらしてくださいました!』
司会のラックハルトがアナウンスすると、観客席からは拍手が起きた。
『それでは、シオン様にも解説をお願いすることにいたします』
『あたしの場合は技術的なことは言えないから、感想的なことになると思うけどね』
それでもシオンの人気は高く、拍手はなかなか鳴り止まなかった。
『ええ、シオン様にも解説をしていただくことになりました。あらためまして、競技その2、『低速飛行競技』を開始します!』
『空気力学を使って浮いている飛行機ですから、低速になるほど難しいですね』
『そのため、今回は3回のトライが行われ、最も遅いタイムで競われることになります。そして、前回の速度競技とは異なり、離陸後にタイム測定を開始します』
『わざと離陸を遅らせてタイムを稼ぐ、というような策は使えませんね』
ここでシオンが質問をした。
『墜落に対しては何か対策しているのかしら?』
低速なので失速して墜落、という可能性もあるからだ。
『はい、地上50センチのところに結界がありまして、受け止めるようになっております。もちろん接触したら失格です』
『なるほどね』
『そして、大回りによる時間稼ぎができないよう、コース外側にも結界がありまして、そこに接触したら失格となります。ちなみにコース幅は10メートルほどとなっております』
『ありがとう。だいたい理解できたわ』
そして、いよいよ低速競技開始である。
実のところ、仁としてはこちらの競技こそ腕の見せ所だと思っている。
ゆえに3回のトライができるように決めたのだ。
『ゼッケン1ナタリア、三葉機『ハルシオン』号! 今、スタートしました!』
離陸し、『墜落判定高度』を越えたところでタイム測定開始だ。2周して同じ位置に来た時点で終了となる。
この測定はゴーレムが行い、人間的な誤差を可能な限り小さくしている。
『……ほんと、ゆっくり飛ぶわね』
『競技場内は風の結界により無風状態になっておりますので、風の影響は無視できます』
司会のラックハルト、解説のシオンとステイハルトの掛け合い。なかなかバランスがいい、と仁はのんびりしたことを考えていた。
だが観客は固唾をのんで低速で飛ぶ飛行機を見つめている。
高速競技と同じく2本のポールを周回するのだが、今回のポール間隔は25メートル。2周で100メートルになる計算だ。
ふよふよ、という擬音が似合いそうなのんびりした飛行で、『ハルシオン』はポールを回った。
『うまく回ったようです! 低速でのターンは失速したり高度を落としたりしやすいのですが、ナタリアはうまく操縦しております!!』
「深いバンク角でも高度を下げないで回っているな……」
仁も感心している。かなり練習したのだろう。
『こうした低速飛行というのも見応えがありますねえ』
普通なら屋内でやるような競技であるが、結界のおかげでアウトドアで行うことができている。
『まもなくゴールです。……今、ゴーーーール!! タイムは33秒5! およそ時速10.7キロです!』
最高速は時速200キロ前後、最低速が時速10キロ前後。これは凄いことに違いない。
「やっぱり面白いな」
仁はわくわくしている。
『ゼッケン2シュウ・ニドー、後退翼機『電光』スタートしました!』
『ああ、ちょっと安定悪いわね』
『後退翼機は、まず高速での使用が前提ですからね』
若干ふらつく『電光』。そして、ターンの際に失速し、高度が下がってしまい、失格となってしまったのだった。
結界により機体が壊れないというのはいい対策である。
『残念でしたが、あと2回トライできるので期待しましょう』
『ゼッケン3ユージン・フォウル、テーパー翼機、スタート!』
『若干速度が速い気がしますね』
『あら、ほんと。でも安定しているわね』
その評価どおり、テーパー翼機はターンも安定してこなし、25秒2というタイムでゴールした。時速はおよそ14.3キロ。
「まずは1度、完走……いや完飛行を目指したのかもな」
それもまた作戦だ、と仁は思った。
『ゼッケン4グリーナ・クズマ、楕円翼機『テンペスト』スタート!!』
『安定いいわね』
『速度もゆっくりですね』
三葉機ほどではないが、かなりゆっくり飛ぶ『テンペスト』。
そのタイムは30秒9、時速はおよそ11.7キロ。
彼女もまた、まずは完飛行するところから始めたようだ。
参加者たちは皆、この低速飛行が技術の……操縦技術と製造技術の見せ所だと張り切っていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20180425 修正
(誤)離陸し、『墜落判定高度』を超えた次点でタイム測定開始だ。
(正)離陸し、『墜落判定高度』を越えたところでタイム測定開始だ。
(誤)ノルド連邦の方で外せない用事があったため、速度競技お開始には間に合わなかったが
(正)ノルド連邦の方で外せない用事があったため、速度競技の開始には間に合わなかったが




