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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
49 仁東奔西走篇(3464年)
1857/4280

49-46 閑話83 憧れと目標

 今を去ること7年前の3457年3月、エゲレア王国の首都アスントにて、第3王子アーネストの誕生会として『ゴーレム園遊会(パーティー)』が行われた。

 その際に、反社会的組織『統一党(ユニファイラー)』が、その力を見せつける目的でテロを仕掛けた。

 お披露目されたゴーレム、元から城にあったゴーレム、そのほとんど全てを支配下に置き、国家転覆を企んだのだ。

 だが、支配されなかったゴーレム『ロッテ』と『黒騎士(シュバルツリッター)』、そして自動人形(オートマタ)『礼子』の活躍により、その目論見もくろみついえた。

 当時のエゲレア王国重鎮たち、警護騎士、兵士たち、そして魔法工作士(マギクラフトマン)たちは皆、『ロッテ』『黒騎士(シュバルツリッター)』『礼子』に感謝と畏敬の念を抱いたものだ。

 そして、いつの日か3体を超えるゴーレムを作りたいという大望を抱いた者も幾人かいたという。


 魔法工作士(マギクラフトマン)オードリー・『レッド』・ハンクスもその1人であった。

 その整った顔立ちに加え、ポニーテールにまとめた赤毛が印象的な女性技術者だ。

 彼女は師であり伯父でもあるグラディア・ハンプトンと共に『ゴーレム園遊会(パーティー)』に参加していたのだが、その際にテロに遭ったのだ。

 当時の彼女はまだ駆け出しの12歳。何が起こったのかもわからず、命の危険を感じ、震えて泣いていた時、礼子の活躍によって救われたのだった。

 その時の礼子は、仁が急造したメイスを振り回し、狂ったゴーレムたちを文字どおり吹き飛ばしたのである。

 その圧倒的な強さと信じがたい光景は、今も彼女のまぶたに焼き付いていた。

 そんな彼女は礼子の強さに憧れ、目標に向かって邁進し、19歳となった今ではエゲレア王国の王国魔法工作士ロイヤルマギクラフトマンとして『レッド』の雅名を賜り、爵位はないとはいえ貴族待遇を受けているのだ。

 

「ドリー、それが新しいゴーレムかい?」

 ドリーというのはオードリーの愛称である。尋ねたのは同僚で先輩のグレゴリー・ブラッドレー。

 短く刈った茶色の髪にグレイの目。彼もまた王国魔法工作士ロイヤルマギクラフトマンである。

「ええ、そうよ」

 オードリーは短く答えた。

 今日、彼女は最新のゴーレムを完成させ、性能試験をするため練兵場へとやって来たのだ。

「ふうん、これまでのものとの違いがわからないが……君はなぜ、小型に拘るんだい?」

 グレゴリーが不思議そうに尋ねた。

「そうね……小型の利点を生かしたいから、かしら」

「利点、とはなんだい?」

「力の集中と効率ね」


 魔法のある世界とはいえ、物理法則は厳然として存在する。

 小柄で体重の軽い礼子が大きく重いゴーレムを吹き飛ばせるのは、下から上へ力を加えているということが大きい。

 これが上から下へ力を加えるのでは身体が浮いてしまうが、下から上への場合は地面に押しつけられる力が分力として働くため、しっかりと大地に立てるのだ。

 もっともそれだけではなく、摩擦力を十二分に発揮する靴底や、力場発生器フォースジェネレーターの併用などもあって、礼子は巨大な相手に立ち向かえるのである。

 さらに、力場発生器フォースジェネレーターがまだ搭載されていなかった時は、土属性魔法を使って足を地面に固定したりもしていたのだが、そこまではオードリー・レッド・ハンクスといえど気付いていなかった。


「……ということよ」

「なるほどなあ。それはそれで頷けるか」

 もちろん、小さく作った時の弊害も存在する。

 まず、筋肉の断面積が小さくなるので、出せる力の上限が低くなること。

 骨格もそれに応じて細くなるので、強度が低くなること。

 小さい分、やや作りにくくなること。

 等が、今グレゴリーが思いつくマイナス面であった。

 とはいえ、これらは解決策がないというわけではなく、作る側の判断に委ねられる問題である。

 そして、オードリーはそれらをほぼ解決していた。


「まあいい。新型のテストを行うんだろう?」

「ええ」

「是非立ち会わせてくれ」

「どうぞご随意に」

 素っ気ない返事であるが、これがオードリーの素である。あまり人付き合いは上手くないのだ。

「28号、走ってみせなさい」

「はい」

 28号と呼ばれたゴーレムは練兵場を走り出した。その速度は人が走るくらい。

「いいわね。……もっと速く!」

 動作に澱みがないことを見て取ったオードリーは、スピードアップを命じた。

「おっ!」

 一緒に見ていたグレゴリーは、思わず声を出した。28号の速度がどんどん上がっていくのである。

 砂煙を巻き上げて疾駆する28号。その速度は推定で時速200キロほどもあろうか。

「速いな」

 だがオードリーはまだ不満そうな顔をしている。

「走り方や足裏の形状を工夫すればもっと速くなりそうなんだけど」

 オードリーの茶色の目には、『ゴーレム園遊会(パーティー)』の時の礼子の姿が焼き付いている。あの時礼子は目にもとまらない速さで、並み居る強力なゴーレムを蹴散らしていたのだ。

「げほっ、げほっ……28号、もういいわ。戻りなさい」

 28号が巻き上げた砂埃がひどくなってきたので、走行試験は終わりとするオードリー。

「今度は力を試すわ。あの重りを持ち上げてみなさい」

「はい」

 力試し用の重りは、バーベルやダンベルではなく、直方体状に整形された金属の塊である。

 28号は、200キロのそれを軽々と持ち上げた。

「おお、すごいな」

 子供体形の28号がそれを行うと、非常にシュールな光景である。が、オードリーはまだまだ、という顔だ。

 さらに28号は300キロを持ち上げた。

「す、凄い」

 成人型のゴーレムでも、300キロを持ち上げられるものは半数くらいである。28号がいかに卓越した性能を持っているかがわかる。

 だがオードリーはさらに重い重りを持ち上げさせた。

 400キロ。これも持ち上げた。

 500キロも、なんとか持ち上げることに成功する。足下の敷石にひびが入っていた。

 550キロ。……1度では持ち上げられず、持ち方を変えて4度目のトライで、なんとか成功した。

 600キロ。……持ち上げることかなわず。

「こ、この大きさで550キロを持ち上げるというのは驚異だ!」

 立ち会ったグレゴリーは手放しで賞賛したが、オードリーは、

「まだまだ満足できないわ。……満足したら、それで終わりだから」

 と言って、次のテストに取り掛かった。

 10体の戦闘用ゴーレム相手の模擬戦である。


「掛かれ!」

 号令と共に、剣の代わりの棒を持った10体のゴーレムが28号に襲いかかった。

 ここで『小さい』ことのもう一つの利点が生きてくる。

 攻撃対象が小さいため、その分当てにくいのだ。しかも、足下付近というのは視認性が悪く、攻撃も防御もしづらい。

 28号はそれを十分に理解しているようで、低い体勢から突き上げるような拳打を放った。

「おおっ!」

 グレゴリーが驚嘆の声を上げる。28号の拳打により、戦闘用ゴーレムが吹き飛んだのだ。

 それが連続で3体。5メートル以上も浮き上がり、地面に落下して動かない。

 これは壊れたのではなく、『模擬戦』ということで、一定以上のダメージを受けた場合はこうして戦線を離脱するよう指示されているのである。

「うーん、まだまだね」

 小さく呟いたオードリーの声に、グレゴリーは驚いた。28号は間違いなくこのエゲレア王国でトップレベルに入るゴーレムだ。にも関わらず彼女は満足していないことを知ったのだから。

 だが、オードリーが目標としているのは礼子。メイスの一振りで10体以上のゴーレムを吹き飛ばす、紛れもない世界一の自動人形(オートマタ)だ。

 礼子なら、同じように模擬戦をさせたなら、瞬時に10体を10メートル以上吹き飛ばして終わりにしてしまうだろうと思っている。

 そしてそれは当たっている。ただし、『20パーセントの出力』時の礼子であるが。

「これ以上は、素材も変えなければ無理かも」

 10体目の戦闘用ゴーレムを倒した28号を見つめながら、オードリーは難しい顔で呟いたのだった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180419 修正

(旧)去る3457年3月、

(新)今を去ること7年前の3457年3月、

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