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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
49 仁東奔西走篇(3464年)
1842/4321

49-31 物作りするわけ

 場所を小会議室に移して、船の検討会が始まった。

「ふむ、舵と小回りか……」

 まずはマルシアが洗い出した大きい改善点2つ。

「舵は、直進安定性と旋回性の両立が望ましいかな」

 マルシアが補足する。

「……そんな舵ってできないかな?」

「単純に面積を大きくすれば効果は上がるけどな……」

 仁も思案顔だ。

 そこへティベリオも発言する。

「数を増やす手もありますね」

「そうだな。ただし問題は、面積を大きくすると重量も重くなるが、操作も重くなることかな」

 仁が解決すべき問題点を指摘すると、マルシアとロドリゴは頷き、ティベリオも考えてみて納得したのか、少ししてから頷いた。

「操作の方はパワーアシストでなんとでもなるし、重量アップも材質でどうにかできると思う」

「おお!」

 仁が補足するとロドリゴが声を上げた。

「小回りに関してはサイドスラスターでなんとかしたいな」

「そうだね……」

 こちらに関しては『白鷺エグレッタ』で使った実績もあり、問題はない。

「先頭の船体に魔法型水流推進機関マギウォータージェットを配置して、そこからサイドスラスター用の噴流を引いてくればいいかな」

「その際、後方の船体との接続梁の中に噴流を通すパイプを入れれば……」

 マルシアとロドリゴは既に頭の中に構造を思い描き始めたようだ。

「そうなると、やっぱり舵か。操縦席は先頭の船体に設けるとして、舵は後方の船体に1つずつ、だろうな」

 ここでティベリオが質問してきた。

「先頭の船体、その先端に舵を付けてはいけないのでしょうか? 船の向きを変えるなら効果があると思うんですが」

 仁は頷いてみせたあと、問題点を指摘する。

「うん、おそらく効果はあるだろうな。だけど見逃せないデメリットがあるんだ」

「それは?」

「壊れやすいんだよ」

「あっ」

 そう、船首部分は、ぶつける・ぶつかるなどして最も壊れやすい場所なのである。

 そこに舵を付けたら、例えば接岸時に破損させてしまう事態が続出するだろう、と仁は説明した。

 これを防ぐためには、カバーを付ける、位置を変える、などの工夫が必要になるが、そうすると当初の意図から外れてしまうことになる。

「難しいものですね……」

 少し項垂れるティベリオであったが、

「いや、そういう発想は大事なんだ。逆に常識に凝り固まってしまうのも設計者としては避けたいところだからな」

 と、仁に言われて少し持ち直した。


 そんなこんなでいろいろあったが、3時のティータイムを挟んで午後5時まで検討会は続けられ、おおよそのスペックが決定したのであった。


*   *   *


 検討会の後は風呂に入って疲れを癒し、夕食という流れ。

 この日の夕食は、ご飯、グラスボアカツ(トンカツ)、コロッケ、クルム(アサリ)の味噌汁、野菜サラダ、冷や奴、お新香。

 マルシアはグラスボアカツがお気に入り、ロドリゴはコロッケが気に入っている。

 そしてティベリオはクルムの味噌汁は初めて食べたらしく、貝がこんなに美味しく食べられるとは思わなかったと言って3杯もお代わりをした。

 そんなティベリオは箸の使い方がうまいな、と仁は感心していたりする。

 最後はほうじ茶で締め。

「ごちそうさまでした」

「ああ、やっぱりジンのところのご飯は美味しいね。やっぱり材料からして違うのかな?」

 マルシアが満足そうな顔で言った。

「そうだな……貝類の場合は、あまり出汁は取らないでいいんだ。貝そのものからいい出汁が出るからな。うちでは昆布系の出汁を隠し味程度に少し加えるだけだと思う」

「なるほど、その隠し味がいいのかもな」

「はあ……ジン様は料理にもお詳しいのですねえ」

 ティベリオがほうじ茶を飲みながらしみじみと言った。

「いや、詳しいというか、美味いものを食べたいからと言えばいいか」

 仁は、結局はそれだと思う。

 美味しいものを食べたいから努力する。食材を探す。調味料を工夫する。調理法、調理手段を作り出す。皆、美味しい食事のためだ。

「物作りも結局それだろう?」

 仁は自説を口にした。

「必要なものがあるから、欲しいものがあるから、あると便利だから。そういった想いが原動力になるんだ」

「確かにそうかもしれませんな」

「わかるよ、それ」

 ロドリゴとマルシアも共感してくれた。

「作れない人は、お金を出して買うか、誰かに頼んで作ってもらうわけですね」

 ティベリオもわかってはいるようだ。

「そういうことになるな」

「でも、やっぱり自分で作れるといいですね」

「そう思うだろう?」

 仁としても、工作好きの気持ちに同意してもらえるというのは嬉しいものだ。


「……で、どうだい?」

 仁はティベリオに、足かけ2日の感想を聞いてみた。

「そうですね、船造りというものが難しいものということが理屈ではなくわかりました。その上で、やはり船造りをしたいと思いますよ」

「そうか、それはよかった」

 ティベリオの答えに仁は満足し、

「歓迎するよ。造船工(シップライト)の世界へようこそ、ティベリオさん」

 マルシアもまた、笑顔でティベリオに手を差し出した。

「よろしく、マルシアさん、ロドリゴさん」

 少しはにかみながらティベリオはその手を握ったのである。


*   *   *


「それじゃあマルシア、よろしく頼む」

 翌19日、仁はティベリオをマルシアに任せ、一旦カイナ村を離れ、蓬莱島に戻った。

 ユウとミオが熱を出したと連絡があったからだ。


「ユウ! ミオ! 大丈夫か!!?」

「あ、あなた」

 『家』に帰ると、布団に寝かせた双子をエルザが看病していた。

麻疹はしかだと思う。この前行ったロイザートでうつされた可能性がある」

 でも、もう治癒は掛けたから大丈夫、とエルザは言った。

 仁が見ると、2人とも発疹はなく、すやすやと眠っている。

「完全に治してしまうと、抗体ができないから、ごく軽い症状まで、にしておいたの」

 さすがにワクチンを作ることはできないので、エルザの処置も仁は理解できた。仁自身は幼い頃に罹患りかんしているので心配はないのだが。

「ごめんなさい」

 双子の病状を説明したあと、エルザは仁に謝った。

「心配掛けて、しまって」

 そんなエルザに、仁は優しく言葉を掛けた。

「いや、エルザが付いていてくれたから、早い対処ができたんだと思う。それより、エルザは大丈夫なのか?」

「ん、私は、小さい頃に掛かってる、から」

「そうか。……看病で疲れてるんじゃないか? 少し代わるよ」

「大丈夫。ソレイユとルーナも手伝ってくれているから」

「そうか。でも無理はするなよ?」

「ん、ありがとう」


 この後、ロイザートを中心に麻疹が流行しかけるのだが、いち早く仁とエルザが手を打ったので、1人の死亡者も出さずに済んだ、という。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180404 修正

(誤)そしてティベリオはクラムの味噌汁は初めて食べたらしく、

(正)そしてティベリオはクルムの味噌汁は初めて食べたらしく、


 20180406 修正

(誤)貝類の場合は、あまり出汁は取らないでいいんだ貝そのものからいい出汁が出るからな。

(正)貝類の場合は、あまり出汁は取らないでいいんだ。貝そのものからいい出汁が出るからな。

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