表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
49 仁東奔西走篇(3464年)
1841/4321

49-30 アルキメデスの原理

 実験用、とはいうものの、仁が手がけたそれは小型の試作船とも言えた。

「おおー! これは快適だよ!」

 マルシアは快調にエルメ川を行き来している。

「おお、安定性はよさそうですな」

 ロドリゴも満足そうに眺めている。


 船体が3つに分かれたことがいい方向に働いているようだ、と仁は眺めていた。

 前方に1つ、後方に2つの船体があるので、川を遡る際には水の抵抗を考えると船首方向に向いて安定するのだ。

 川を下るときは水との相対速度が小さくなるのでさほど問題にはならない。


「舵は大きめに作ったほうがよさそうだね」

 いろいろ速度を変えて川を上り下りしながら、マルシアは改善点を拾い出していく。

「あとは小回りが利くといいかなあ……」

 方向転換をするにあたって、川幅の狭いところでも簡単にできるといいなあ、とマルシアは考えていた。

 完成品はもう少し大きな船体になるであろうから、なおさらだ。

 その他、細かい改善点は幾つかあったが、大きなものはこの2つだったようだ。


「わあ、楽しそう!」

 そんなマルシアを見て、年少の……といっても10歳から15歳くらいなのだが……カイナ村の女の子たちは羨ましそうな声を上げた。

(そういえば、カイナ村には、陸上はゴーレム馬、空はたまに飛行船に乗せてるけど、船はなかったなあ)

 船を見つめる女の子たちを見て、仁も思うところがあったようである。


*   *   *


「と、いうわけで俺からもマルシア工房に発注したい」

 お昼前になって、1度マルシアが実験船から上がってきた時、仁が言い出した。

「何がというわけなのか、わからないけどいいよ」

 二つ返事で引き受けるマルシア。同じ川で使う船であるから、1度に作ることで手間はかなり省けるのだ。

 それに何より、仁からの頼みである。

 また、カイナ村の女の子たちが乗りたがったから、と聞いては尚のこと。

「船の楽しさは多くの人に知ってもらいたいしね」

 そう言ってマルシアは笑った。

 そんな彼女を見て、

「マルシアさんは本当に船が好きなんだな」

 と、ティベリオ。

「そりゃあね、小さいときから乗ってるし」

 にこりと笑って答えるマルシアを、ティベリオはまぶしいものを見るかのように目を細めて見つめていた。


「まあここらでお昼にしよう」

 時間も11時半を回ったところ、朝からいろいろと動き回っていたのでそろそろお腹も空いてくる頃だろうと、仁は皆に声を掛けた。

 そしてそれは当たりだったとみえ、誰も異議は唱えなかったのである。


「おおー! これは何ですか!?」

 興味深そうに声を上げているのはティベリオである。

「すいとんだよ」

 仁が答えた。施設にいた頃、よく院長先生が作ってくれたものだ。

 それは、強力粉と薄力粉を半々で混ぜ、水で練った生地を手でちぎってすまし汁に入れて煮たものだった。

 具としては長ネギが入っていただけの簡単なものだったが、今出てきているのはそれをベースに工夫を加えたもの。

 薄力粉の割合を少し多めにして軟らかさを増してある。だが煮すぎると煮崩れしてしまうので、見極めが大事だ。

 すまし汁も出汁を取って仕上げたものだし、具もシャロト(長ネギ)の他に、カイナ村付近で採れる山菜をたっぷり入れている。


「これは美味しいですね! 変わった食感です」

 ティベリオは気に入ったようだ。

「これを食べるのは2度目かな? 美味しいねえ」

 以前マルシアには蓬莱島で出したことがあったが、その時好評だったので、今回のメニューとなったのである。

「うん、あの時より食べやすいですな」

 強力粉が多めだと煮崩れしにくいが、歯ごたえも強くなる。うどんくらいの太さならともかく、手でちぎった大きさだと少々硬く感じる人が多いのだ。

「うん、美味い」

 懐かしい味に一工夫加えた出来、仁も納得の味だ。

「お父さま、お代わりもございます」

「うん、頼む」

 仁用のものは少しだけ汁が冷ましてあったりする。このあたりは仁の嗜好を知り抜いた礼子ならではの気遣いであった。


*   *   *


「さて、それじゃあ改良点を検討しようか」

 すいとんを食べ終わり、食後のお茶が運ばれてくるや否や、マルシアが言い出した。立派なワーカホリックである。

「まあ、もうちょっと休んでからにしよう」

 自分のことは棚に上げてマルシアをいさめる仁。他人ひとのことはよく見えるようだ。

「う、わかったよ」

「……本当に、マルシアさんは船造りが好きなのだな……」

「あ、あはは」

「それじゃあ、せっかくだから船にまつわる蘊蓄うんちくでも聞かせようか」

 苦笑した仁が言い出すと、当然マルシアは電光石火の勢いで食いついた。

「うん、是非!」

 ロドリゴも、

「『魔法工学師マギクラフト・マイスター』のジン殿の話ですか、楽しみですなあ」

 と期待した顔を見せた。ティベリオは言わずもがな。


「……あんまり期待されても困るんだが」

 と前置きして、仁は語り始めた。

「船というのは、なぜ水に浮くか」

 仁は、『アルキメデスの原理』について語り始めた。ロドリゴも、詳しくは知らないので聞き耳を立てる。

「水に入れた物体は、押しのけた水の分だけ軽くなるんだ。だから、水に浸かっている船の部分と同じ体積の水の重さは、その船の重さに等しいんだよ」

「へえ……」

「同じことが『飛行船』にも言えるんだ。『コンロン2』とか『コンロン3』な。あの気嚢の中が空っぽだった場合、中に入るだけの空気の重さ分軽くなるから浮き上がるんだ」

「なるほど」

 だけどそうすると気圧で気嚢がつぶれてしまうから、やむなく次善の策として空気より軽い気体であるヘリウムを詰めるんだ、と補足する仁。

「……まあ、話を船に戻そう。物体の重さを体積で割った値、つまり単位体積当たりの重さを『比重』というんだが、基準として水の比重を1とする。船の重さを体積で割って、それが1より小さければ水に浮くし、大きければ沈むわけだ」

「なあるほど、わかります」

 ティベリオは何度も頭を振った。

「因みに計算で出しにくい物体の体積は、水をいっぱいに入れた容器にそれを沈めてみて、溢れた水の体積を調べればわかるよ」

 この方法で体積を求め、重さを量れば計算で比重がわかる。

 こうして古代ギリシャのアルキメデスは、王冠が純金なのかそれとも合金なのかを調べた、という。


「ははあ、面白いですなあ」

 仁は古代ギリシャとかアルキメデスという名前は出さずに説明したのだが、思いのほか受けがよかった。

「また是非聞かせてください」

 食後の休憩も適当にとれたので、いよいよ検討会である。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180403 修正

(誤)「舵は大きめに作ったようがよさそうだね」

(正)「舵は大きめに作ったほうがよさそうだね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ