49-26 将来への縁
蓬莱島では、老君と仁が相談をしている。
もちろん、先ほどランドたちが出会った異形のゴーレムについてである。
『御主人様、彼らが拠点に戻り次第、『覗き見望遠鏡』で探りを入れてみます』
「そうだな、今のところ奴らの行動基準がわからないからな」
『判明し次第、報告いたします』
「うん、頼む」
異形のゴーレム、『モノ』『ジー』『テト』らが拠点に帰るまでには、まだ時間が掛かる。
仁は一旦司令室をあとにした。
* * *
「……と、いうわけなんだ」
「ん、不思議な、ゴーレム」
「ふうん、どんなゴーレムだったの?」
研究所から『家』に帰った仁は、遊びに来ていたハンナとエルザに説明をしていた。
双子はお昼寝中なので礼子がそばに付いている。
「腕が4本あって、頭部がない……戦闘に特化したようなデザインだね」
「ん、同感。頭部は、利点があると同時に弱点に、なる。利点をカバーできる設計なら、頭部をなくすというのは、合理的」
身体の中で最も高い部位にあるのが頭で、そこに五感の中でも情報量の多い『視覚』を司る『目』が付いている。
『視覚』は光に依存し、その光は直進性があるため、高い場所に『目』があるということは大きな意味がある。
また、眼球の移動と頭……首の捻転により、ほぼ360度の視界が得られることになる。
「おそらく超広角レンズもしくは魚眼レンズを用いた全周監視のセンサーと、標準レンズ的なメインの光学センサーがあるんだろう」
そしておそらく望遠レンズ的な機能も、と仁。
「……それを胸部と背部に配置することで頭部をなくした、わけ?」
「そうだろうな。そして4本の腕」
「ちゃんと制御できたらすごいよね。あたしも時々もう1本手があったら便利なのになーと思うことあるもん」
ハンナの意見に仁も同感だった。もっとも仁は工学魔法を使って何とかしてしまっているのだが。
「……まあとにかくだ。そういうデザインの戦闘用ゴーレムを作れる相手というのは侮れない」
4本の腕を自在に操る制御系を構築できるということは、相当な技術を持っているということになる。
少なくとも、今のアルス世界の一般的な技術では太刀打ちできないだろうと仁は思っていた。
「あの遺跡、閉鎖した方がいいのかな?」
心配そうな顔でハンナが言う。
「そうだな。もう調べるものは調べ終わったし。……シオンにも話しておくとするか」
仁は『仲間の腕輪』の通信機能を使い、シオンを呼び出して説明を行った。
『……ふうん……ジンがそう言うってことは、かなり危険な相手なのね?』
「ああ、そうなんだ。だから、不必要に刺激しない方がいい」
『わかったわ。レコナウスとトネリウスの兄弟にも言っておくわ』
「そうしてくれ」
仁からの直接の要請ということで、シオンはすぐに引き受けてくれた。これで北方民族の方はよしと、仁がほっとしたところで老君からの連絡が入る。
『御主人様、事態が進展しました』
「うん、どうした?」
『あの3体が拠点に戻ったのです』
「……早くないか?」
行きに比べ、帰りの時間が短すぎると仁は訝しんだ。
『それですが、彼らにも転移門のネットワークがあったようでして』
「なるほど」
仁がアルスの各所に転移門のネットワークを構築しているのと同様、『始祖』もまた、似たようなものを過去に作っていたらしい。
行きは目的地を探りながらだったので使わなかったが、帰りはその必要がないから転移門を使い、一気に帰還したということらしい。
『これ幸いと『覗き見望遠鏡』で調べまして、いろいろとわかったことがあります』
老君が説明してくれたが、なかなか感心させられるものだった。
まず帰還した場所であるが、ローレン大陸北部、ニューエル地方のアオバ湖、それは変わりない。
そこには人間そっくりだが腕が4本ある自動人形が10体待っていた。
そして彼らは、定期的に遺跡の巡回整備を行っているというのだ。
「なるほど、そうやって人知れず維持管理しているのか。10体もいれば、かなり安心だな」
そして仁は考える。
「その遺跡の利用価値はどうなんだ?」
『はい、特に目新しい技術はないかと』
「そうか……」
仁は考え込んだ。
「あなた、やっぱり遺跡は封印した、方が……」
「うん、あたしもそう思う」
エルザとハンナは封印した方がいいと言う。仁もそう思ってはいるのだが、問題は方法なのだ。
単に入口を閉鎖すればいいというものではない。
「やっぱり監視役を置くべきか……?」
『御主人様、マーカーさえあれば、私が定期的に監視できますが』
「ああ、それでもいいんだな。だが、老君の負担が増えるだろう。……だから、監視専門の補助機能を付けるか」
この方法には、エルザとハンナも賛成してくれたので、早速仁は老君に補助機能を増設した。
要は、ホームセキュリティのようなもので、何か起きる前に察知できればいいのである。
これにより、遺跡に近付く者があった場合すぐに老君が気づき、経過観察状態に入る。
そして遺跡を荒らす目的であった場合には即対処することになる。
そうでなく、たまたま通りかかっただけならそのままだ。
「『侵略派』か……700672号も何も言っていなかったな」
『知らない、あるいは知らされていないのでしょう』
あまりにも主義主張が異なる派閥なので接点も何もなく、完全に袂を分かっていたのだろうと老君は推測した。
「だけど、侵略派なら、どうして原住民を傷つけない主義なんだろう?」
無差別殺戮をしてもおかしくなさそうな派閥なのに、と仁は首を傾げた。
『もともと『始祖』は穏やかな種族でしたから、その中の侵略派とはいっても、多少過激なだけなのではないでしょうか』
老君の意見ももっともかもしれない、と仁は頷いた。
「それに、侵略イコール殺戮じゃない、と思う」
エルザも自説を口にした。確かにそうだ、侵略のやり方にもいろいろあるからな、と考え直す仁。
そして、この件は少々尾を引きそうだ、と仁は思ったのである。
* * *
仁たちがそんなことを話し合っていたとき、『森羅』のシオンは来客を迎えていた。
若い男で、一応礼儀はきちんとしている。
「ええと、あたしがシオンですが」
「初めまして、俺は『乖離』のティベリオと言います」
『乖離』氏族は中立派である。
「シオンさんは、ジン様と懇意にされていらっしゃると聞きまして」
「ええ、そうね」
「俺は、『造船』に興味がありまして、ジン様に教えを受けられないかと……」
「ああ、そういうこと」
シオンは少し考え込む。
「うーん、ジンは忙しいから、弟子入りは難しいかもね」
「そこを何とか!」
「何とかって言われても……」
困ったシオンは、とりあえず仁に尋ねてみるだけはしてあげよう、と思った。
これが思いもかけない縁を結ぶのだが、この時のシオンはそれをまだ知らない……。
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