49-18 あちらとこちらで
『遺跡』についての検討会はまだ続いている。
『マリッカ様、質問よろしいでしょうか?』
ここで老君がマリッカに質問した。
「あ、ど、どうぞ」
『ありがとうございます。……『その一部は』と先ほどおっしゃいましたが、残りの武器の行方はわからないのでしょうか?』
いまだこの世界のどこかで眠っているかもしれず、それとわからずに発掘して動かしてしまうということがないとも限らない、と老君。
「残念ですが、それは『テスタ』も知りませんでした」
『そうですか……』
『ゴルグ』などは、おそらく蓬莱島の戦力以外では止めようがない。もしも暴走したら危険すぎるのだ。
だが、わからないものは仕方がない。老君は、この点についても留意するよう、各地に散らばった第5列に指示を出すことにした。
「あと1つ、見逃せない内容がありました」
マリッカはさらなる説明を始めた。
「それは、あの遺跡を管理していた者がいるらしいんです」
これには仁も驚きを隠せない。
「何だって? 誰にも会わなかったぞ。老君だって、『覗き見望遠鏡』で確認したんだろう?」
『はい、御主人様』
だが、これにもちゃんと理由があるようだった。
「ですから、その者は『通って』いるようなんです』
『テスタ』によればその謎の管理者は外部に住み、時折通って来てはチェックを行っている可能性が高いという。
そのサイクルは不明。1日おきなのか1年おきなのか10年おきなのか……。
確かに、あまりにも内部……特に最初の階層は綺麗だった。それは、時折メンテナンスをしていたからかもしれない。荒らされていた階層は、もう用済みと見なされ、維持管理の対象から外されていたのだろう。
「待てよ? だとしたら、あの遺跡を探索し続けるのは危険かもしれないな?」
『はい、御主人様。もし今、その存在が戻ってきたら、ハンナさん、サキさんたちの身に危険がないとは言い切れません』
老君も仁の言葉に賛成した。
「だな!」
仁は立ち上がり、礼子に声を掛けた。検討会を打ち切ってでも、今はハンナたちの安全を守るための行動が優先だった。
「礼子、ハンナたちを迎えに行くぞ」
「はい、お父さま」
そして老君にも。
「老君、『コンロン3』を転送機でノルド連邦へ送ってくれ。時間が惜しい」
『わかりました』
「よし、行くぞ」
そして仁はエルザに一言声を掛けると、『コンロン3』に乗り込み、ノルド連邦へと飛んだのであった。もちろんシオン、マリッカも一緒だ。
* * *
そして『ノルド連邦』で、ハンナ、サキ、グースたちと合流した仁が、状況を説明していた。
「……やっぱり、侵略派の遺跡だったんだね」
「ああ、そうなんだ。間に合ってほっとしたよ」
間が悪く、仁がいないときに管理者が戻ってきてハンナたちを襲う……などということがそうそうあるはずもなく。
今は全員、遺跡の外で仁からの報告を聞いていた。
「うーん、そうか。そういうことなら、これ以上ここにいるのは危険かもしれないねえ」
「だねー」
「まあ、だいたい満足したかな」
ハンナもグースも、いろいろ見て回って満足したようだ。
「じゃあ、帰るとするか」
と仁が言うと、特に反対はなかった。
「うん」
ということで仁は、ハンナ、サキ、グース、そして職人1、ナースアルファ、ランド隊らと共に蓬莱島へ引き上げたのであった。
レコナウス・トネリウス兄弟にはシオンとマリッカから説明がなされている。『テスタ』のことはうまくぼかされているようだ。
2人もまた、
「そうですね、ジン殿から聞いた話では、そばにいるのも危険そうなので、我々も引き上げますよ」
と、素直に従うことになった。
ただマリッカは、『オノゴロ島』から監視用のゴーレムを1体、派遣してもらうことにしている。
なぜわざわざオノゴロ島からかといえば、仮にここの管理者が戻って来た場合、できる限り『始祖』の技術で対処するのがよさそうだと判断したからに他ならない。
ただこのことはシオンにのみ告げただけで、レコナウス・トネリウス兄弟には黙っていたマリッカである。もちろん、仁にはこのあと説明する予定だ。
* * *
その遺跡は、うち捨てられたものだった。
ただ、風化させてしまうのは惜しいという理由で、10年に1度、管理自動人形が『巡回』しているのだった。
そう、『巡回』である。
うち捨てられた遺跡は全部で3箇所あり、1つは『ノルド連邦』にあって先日発見されたが、残る2つはまだ誰にも発見されていないのである。
その2つのうち1つは、旧レナード王国にあった。
その北端にある海岸線に、である。
その遺跡は、まだ生きていた。というよりも、使用可能な兵器が残っていた、というべきかもしれない。
そこに残されていたのは、仁が見たら『潜水艦』と呼んだであろうもの。
ただし、人が乗るものではなく、制御核を持つ、つまり一つのゴーレムであった。
人が作りしものであるがゆえに、不滅ではありえず、定期的な整備を必要としていた。
そして、それを担っているのは先ほど述べた管理自動人形である。
もちろん、それは1体ではない。それでは、己を整備してくれるものがいないからだ。
ゆえに管理自動人形は10体いる。そしてそのことごとくは、自らの身を守るだけの力も備えていた。
彼らは10年に1度『巡回』する。
仁がこの世界にやって来たのは8年前。
まだ彼らと仁とは、お互いを知らない。
1:《10年ぶりだな、『2』》
2:《そうなるな『1』よ》
1:《皆、不調はないか?》
3〜10:《大丈夫だ。20年前に徹底的なオーバーホールをしたからな》
1:《違いない》
2:《では、行くとするか》
1:《うむ》
* * *
クライン王国では、重鎮たちの再編成が始まっていた。
現国王、アロイス3世が、3年後に退位し、第2王子アーサーにその位を譲ると宣言したからである。
アロイス3世、アロイス・ルクス・クラインは58歳、そろそろ引退してもおかしくない年齢であった。
それに伴い、第1王子エドモンドは公爵位を贈られ、軍の最高司令官である大元帥となる予定。
そのための再編成であり、古きを廃し、新しきを興すため、首都アルバンはいろいろな意味で賑わっていた。
商人たちもまた、この機会に少しでも利益を上げようと画策していた。
「いやあ、てんてこ舞いですな」
「おたくは上層部と繋がりがあってうらやましい」
「いえいえ、今回の組織替えでどうやりますやら……」
今までの上得意が、これからもそうとは限らない。そしてまた、その逆もありうる。
利にさとい商人たちは、この先登用されそうな貴族に目星をつけ、今のうちに交誼を結んでおこうとしているのだった。
「……新顔が増えたな」
「そうですね、商会長」
「だが、商売の基本は『売り手と買い手、互いの利益』だ。ここぞとばかりに儲けようとして火傷をしてはならん」
アルバン1の大商会であるラグラン商会でもまた、今後の方針について話し合っていた。
そこへ、
「エリック様が戻られました」
との知らせが入り、打ち合わせは1度中断。
それは、血縁者が帰ってきたからではなく、あの『カイナ村』の情報を少しでも早く知りたいが故であった。
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