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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
49 仁東奔西走篇(3464年)
1819/4280

49-08 初会談

 疲れた晩餐会の翌日、つまり5月2日。

 昼過ぎに仁は、エルザと礼子、そして新作自動人形(オートマタ)を連れて宮城(きゅうじょう)へ向かった。


 まずはいつもの執務室へ。

 歩く廊下も、掛けられているタペストリーや絵画の何割かが新しいものに変わっていた。これも新体制の象徴なのだろう。

 とはいえ、すれ違う侍女や女官の大半は顔見知りである。

「一気に入れ替えは、無理が出る」

 エルザの言葉に、仁も頷いた。

「そうだよな」

 宮城(きゅうじょう)の侍女は、その大半が、騎士爵、準男爵、男爵といった下級貴族の子女である。

 行儀・家事見習いの意味もある上、宮城(きゅうじょう)勤めであったということは一種のステータスになるのだ。

 有力な貴族と知り合いになる機会もあるし、運がよければ見初められて夫人に……と言うケースも。


 対して女官は、中級貴族の子女が多い。

「……でも、女官長はフローラさんじゃ、なくなるみたい」

 彼女は、元近衛女性騎士であったが、真面目な性格を買われて、女皇帝付きの女官となり、女官長にまで昇った。


 フローラ・ヘケラート・フォン・メランテの実家は子爵家で、ロイザートの屋敷のお向かいさんになる。それで、エルザもいろいろと噂話が聞けるらしい。

「近衛騎士の方と一緒になるそう。つまり寿退職」

「へえ。それはおめでたいな」

 エルザは、ロイザートの屋敷で過ごしているときは、ご近所づきあいとして近所の奥方たちのお茶会に招かれており、そういった場で聞いたという。

「なるほどなあ」

 貴族同士でも奥方は噂好きだなあ、と感心した仁であった。


 そして執務室に到着。

 重厚な扉の前に立つ近衛騎士に一声掛けると、

「伺っております。ジン様、エルザ様、レーコ様、そして……?」

「ああ、この子は太上皇帝陛下に献上するために連れて来ました」

「は? ……す、すると自動人形(オートマタ)ですか! いやあ、すばらしい。……どうぞ、お通りください」

 騎士は扉を開けてくれた。

「ジン・ニドー、入ります」

「いらっしゃい」

 仁の声に答えたのは、聞き慣れた女皇帝……否、太上皇帝の声だった。

「失礼致します」

「待っていたわ、ジン君、エルザ、レーコちゃん」

 そこにいたのは太上皇帝と新皇帝、そして宰相、それに初めて見る女官が一人。

 驚いたことに太上皇帝は執務机の中央に収まっていた。だが、

「……陛下、ごめんなさいね。これで最後。最後に一度だけ、ジン君たちを自分で迎えたかったのよ」

 と言って立ち上がり、席を譲る。

「いえ叔母上、気にしないでください」

 新皇帝はにこりと微笑んで、本来の自分の席に腰を下ろした。


「早速来てくれて嬉しいわ。まあ、座ってちょうだい」

「はい、失礼します」

 女官が用意してくれた椅子に腰を下ろす仁とエルザ。

「……ええと、何から始めましょうか」

 そんな太上皇帝は、仁の後ろに控える礼子、そのさらの後ろにいる自動人形(オートマタ)にちらりと目をやった。

 それを知った仁は、

「ではまず、この子を紹介しましょう」

 と言って、自動人形(オートマタ)を手招きした。

「最新の子です。太上皇帝陛下に献上するために作りました」

「まあ!!」

 太上皇帝は、その子をまじまじと見つめる。

「かわいいわ……! この子の名前は?」

「まだ付けていません。付けてあげてください」

 太上皇帝はしばし考えたあとで、

「あなたは『アルル』よ」

 と名前を呼んだのであった。

「はい、私はアルルです」

 そして自動人形(オートマタ)はそれを受け入れる。

 ここに、主従関係は決定した。

「陛下、末永く可愛がってやってください」

「ええ、もちろんよ、ジン君、エルザ、ありがとう」

 満面の笑みの太上皇帝に、仁とエルザは贈ってよかった、と思ったのである。


 そして。

「これからの皇国のことを説明しておきますね。……そのまえにこの子の紹介をしておかないと」

 太上皇帝は女官を手招きした。

「この子はリゼット・アウエンミュラー。私が育てていた子の1人よ」

 明るい茶色の目と髪をした小柄な子だった。小柄だが、スタイルはいい。

「リゼット・アウエンミュラーと申します、ジン様、エルザ様、レーコ様。以後よろしくお願い申し上げます」

 リゼットは生真面目な性格らしく、礼子にもきっちりと頭を下げて挨拶をした。

「こちらこそよろしく。……陛下、育てていた、とは?」

 その言葉に引っかかりを覚えた仁が質問する。

「そうね、それも話しておこうかしら。というより、それが今日の主題なんだけどね」

「叔母上、私から話させてもらえませんか?」

 それまで1人蚊帳の外に置かれていた感のある新皇帝が発言した。

「ああ、そうね。……陛下、お願いいたします」

「……では」

 こほん、とわざとらしく咳をして、新皇帝ヴァイスベルグ・エルンスト・フォン・ショウロは語り始めた。

「先程叔母上が仰ったが、我が国では数年来の教育の成果が出始めている。その教師はもちろんジン殿……ニドー卿が寄贈してくれた『指導者(フューラー)』である」

 後ろでは宰相が無言のまま頷いている。

「『指導者(フューラー)』によって教育を受けた者たちが、そろそろ教師役になって生徒を教え始めているのだ。また、教師だけではなく、国の要職に就く者もいる」

 その1人がリゼット・アウエンミュラーだ、と新皇帝は言った。

「そういうことでしたか」

「うむ。教育の重要さは、今や我が国の貴族ほとんど、そして一般庶民にも浸透しつつある。そこでだ」

 新皇帝は一拍置いてから仁を真っ直ぐ見据えて、

「新しい教育機関を作ろうと思っている。その相談役になってもらいたい」

 と言ったのだった。


「そういうことですか」

 仁は納得した。新皇帝となり、体制が新しくなったこの機会に、教育機関の充実を図ろうということだろう、と。そしてそれを新皇帝の業績としたいのだろう、と。

「どうだろうか。もちろん、長時間の拘束はしない。ニドー卿がそういうことを好まないのは知っているからな」

「どうかしら、ジン君」

 仁は少し黙考した後に答えを口にした。

「わかりました、協力させていただきます」

 これには太上皇帝、新皇帝、宰相、女官皆が顔を綻ばせた。

「おお、さっそく承知してくれてかたじけない」

 ここで宰相が口を開き、仁に礼を述べた。

 これについては後日、仁の都合に合わせて第1回目の会合を持つことになる。


「そして、あと1つは、私の隠居場のことね」

 元女皇帝……太上皇帝が微笑みを浮かべながら切り出したのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180312 修正

(誤)

「へえ。それはおめでたいな」

「なるほどなあ」

 エルザは、ロイザートの屋敷で過ごしているときは、ご近所づきあいとして近所の奥方たちのお茶会に招かれており、そういった場で聞いたという。

(正)

「へえ。それはおめでたいな」

 エルザは、ロイザートの屋敷で過ごしているときは、ご近所づきあいとして近所の奥方たちのお茶会に招かれており、そういった場で聞いたという。

「なるほどなあ」

 orz


(旧)こほん、とわざとらしく咳をして、新皇帝エルンストは語り始めた。

(新)こほん、とわざとらしく咳をして、新皇帝ヴァイスベルグ・エルンスト・フォン・ショウロは語り始めた。

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