49-02 フリッツの話
カイナ村にある二堂城大広間では、仁の誕生日祝いが行われていた。
「ジン君も28になったのね」
「双子ちゃんも今年で5歳。私たちも歳を取るわけだわ」
そんな会話をしているのは、ヴィヴィアンとステアリーナである。
ヴィヴィアンは今年で40歳、ステアリーナは38歳になるはずだが、2人とも見た目は20代後半くらいに見える若々しさだ。
「平和っていいわね」
小競り合いはあっても、大きな紛争のなくなった今の時代。
「本当ね……『アヴァロン』も活躍しているみたいだし」
『世界会議』と『世界警備隊』は、世界に根を下ろしはじめ、平和の維持に貢献している。
ヴィヴィアンは『語り部』として各国を回っているので、そうした世情を目にすることが多いのだ。
今の既知世界は、10年前よりも格段に穏やかになっていた。
「『世界警備隊』は、各地で起きた災害では人命救助を、凶悪犯罪者は国境を越えた追跡を、と活躍しているわ」
そうした噂話も、ヴィヴィアンの耳に入ってきているのであった。
「フリッツさんといえば、この前の大雪の時は大活躍したみたいね」
ステアリーナが言うと、ヴィヴィアンは頷いた。
「そうね。ジンさんも陰から協力したって聞いたわ」
「ん、そう」
そこへエルザが顔を出した。兄の話題を耳聡く聞きつけたらしい。
「あら、聞いてみたいわ」
ステアリーナが言う。
「あ、あたしも」
「私も、聞いてみたいです」
そこへシオンとマリッカがやってきた。
「そうね、それじゃあせっかくだから……」
『語り部』ヴィヴィアンは、語り始めた……。
* * *
3464年1月20日の朝のことです。
『御主人様、報告がございます』
その日、珍しく老君は定時報告以外の時間に仁さんへと話し掛けました。これは、平時では珍しいことなのです。
「どうした、老君? 何かあったのか?」
仁さんも不審に思ったのか、いつもより鋭い口調で老君に尋ね返しました。
「何か危険が迫っているのか?」
『はい、御主人様。この蓬莱島に、ではありませんが、ショウロ皇国に』
「何だって!?」
ショウロ皇国には、仁さんの知り合い、友人が大勢います。何より、愛妻エルザさんの故国でもありました。
『セルロア王国との国境付近に大雪が降っております。それこそ、100年200年に1度、というような』
「何?」
老君は、観察衛星『ウォッチャー』からの映像を魔導投影窓に映し出しました。
セルロア王国とショウロ皇国を繋ぐ大動脈、通称を『干涸らび街道』というその付近は、通常なら赤茶けて乾燥した土地が広がっているのですが、今は真っ白に塗りつぶされていました。
「これは雪……なのか?」
『はい、御主人様。原因は数百年に数回レベルの大寒波と強い西風です』
ショウロ皇国とセルロア王国との国境、そこは北へと延びる山脈になっています。その山脈に向かって湿った南西の風が吹き付け雲を湧かせ、大寒波と相まって大雪になったものと老君は推測しました。
「原因はわかったが、現地は?」
『はい、御主人様。第5列の1人、レグルス21『ダッカル』がダンガの町におりまして、報告してくれておりますが、一晩で2メートルもの雪が積もったそうです』
「それは大変だな……」
『はい。付近一帯の交通はもちろん、生産活動、社会機能、全てが麻痺しております』
「だろうな……除雪は?」
『普段は極端に降水量の少ない地方なので、何の設備も用意もなく、お手上げ状態のようです』
「うーん……」
仁さんは考えた末、この情報をまずは『世界警備隊』に伝えることにしました。
「これは由々しき事態だ」
『世界会議』の2代目議長、クライン王国国王アロイス3世様は緊急議会を召集しました。
参加者たちは皆、昨年設置された転移門を使って『アヴァロン』に集結します。
この転移門はセルロア王国で発見されたもので、大量の魔力素を必要とするため、緊急時のみ使用することになっているものなのです。
「街道沿いの村や町を大至急救援しなければならない」
これについては満場一致で決まりました。『世界警備隊』の出番です。
とはいえ、まだ『世界警備隊』はできあがったばかり。組織としての体裁もまだまだ調ってはおりません。
しかし、それでもやらなければならないのです。
「隊長、フリッツ・ランドル」
「はっ!」
「副隊長、グロリア・オールスタット」
「はっ!」
「2人はゴーレム小隊を率い、直ちに現地へ飛べ。救援物資は揃い次第、第2陣で送る」
こういうわけで、幹部候補生であるフリッツ・ランドルさんとグロリア・オールスタットさんの2名は、ゴーレム小隊を率いて現地へと向かったのです。
使うのは『コンロン2』と同型の飛行船2隻。それぞれフリッツさんとグロリアさんが船長として乗り込み、5体ずつのゴーレムと若干の救援物資を積んでいます。
2隻は時速80キロで空を翔け、7時間足らずで現地付近の上空に到着しました。
「これは……」
見渡す限り白一色の世界に、フリッツさんは戦慄を覚えました。どこから手を付けていいか、見当が付かなかったのです。
いえ、それ以前に、どこに家があり、どこが道なのか、上空からでは判別できません。弱くなったとはいえ、まだ雪は降り続いており、視界も悪い状態です。
「……これは大ごとだ……」
フリッツさんは元々軍人であり、戦術・戦略についての教養もあります。
しかし、このような事態は経験したことがありませんし、教本にも載ってはおりません。
隊長としてのフリッツさんは途方に暮れたのでした。
* * *
そこでヴィヴィアンは一旦語りを中断し、はちみつラモン(レモン)で喉を潤した。
「……ん、確かにそう聞いている。さすがの兄さまも途方に暮れた、って」
エルザも頷いている。
「そうよねえ。見渡す限り雪の広野……どこから手を付けていいかわからないわよねえ」
ステアリーナがしみじみと言った。自分だったらどうするだろう、と考えてみたらしい。
「ん。だから、そうだろうと思った老君が手を打っていた」
「そうなの?」
「ええ、そう聞いたわ。……」
ヴィヴィアンは、再び語り始めた……。
* * *
その時、双胴の大型飛行船が近付いてきました。
《こちらはデウス・エクス・マキナ。フリッツ殿に助力する》
風属性の魔法を応用し、声を離れた場所まで伝えているのです。
《大雪の範囲は広大だが、最も差し迫った危機を迎えているのはもう少し北のロックゴーだ》
ロックゴーは大ディバイド川の東側にある町です。そこは積雪が3メートルを超え、潰れる家が出そうだとマキナさんは言いました。
そのあたりの家は石造りが多く、なんとか雪の重みに耐えてはいるようでしたが、これ以上積もったらどうなるかわかりません。
そこでフリッツさんはマキナさんの誘導に従い、ロックゴーを目指したのでした……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20180306 修正
(誤)『世界会議』と『世界警備隊』は、世界に根を下ろしはじめ、平和の維持に交換している。
(正)『世界会議』と『世界警備隊』は、世界に根を下ろしはじめ、平和の維持に貢献している。
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(誤)2隻は時速80キロで空を掛け、7時間足らずで現地付近の上空に到着しました。
(正)2隻は時速80キロで空を翔け、7時間足らずで現地付近の上空に到着しました。
(旧)「ジン君も28になるのね」
(新)「ジン君も28になったのね」
(旧)ショウロ皇国とセルロア王国との国境、そこは北へと延びる山脈になっております。
(新)ショウロ皇国とセルロア王国との国境、そこは北へと延びる山脈になっています。
(誤)転移魔方陣
(正)転移門
2ヵ所修正。




