48-35 グラハム・ダービー
まず、礼子とランド101、102、103、104、105が出撃した。
「ここが敵基地ですね」
6体が送り込まれたのは資材置き場である。まだ簡易転移門が残っていたので移動は楽だった。
「ようこそ、お嬢様、陸軍の皆さん」
出迎えたのは職人301。彼がいるので、この資材置き場には敵がいないこともわかっていたのだ。
「忍部隊によれば、連中はまだとりとめもなく会議を継続中です」
「それは好都合ですね」
今回の作戦の隊長格、礼子が答えた。
「『麻痺』!」
まずは5人全員を気絶させるところから始まった。
5人は声も立てずに頽れる。それを、5体のランドが縛り上げ、拘束した。
「ただの洗脳ならこれで解除できるのですが、マルキタスが掛けたのなら不十分かもしれませんね」
だが、蓬莱島に連れて行くつもりは毛頭ない。この場で調べるのだ。
「『知識確認』」
脳内情報を読み出す礼子。その読み出し速度は速く、人間には認識できないが礼子なら可能。
「どうですか?」
ランド101が礼子に尋ねた。
「……ええ、やはり洗脳されていましたね。ごくごく軽いものだったので、今の『麻痺』で解除できたようです」
「それはよかったですね」
「ですが、このあとどうしましょうか……」
やはりマキナ3世の手柄にしておくのが無難かと、礼子は考える。
「お父さまが軽く扱われてしまうのが我慢なりませんが……仕方ないですね」
今の仁は、400年前以上に静かに暮らしたいと考えているようなのだ。
最終的には『ヘール』に隠居することさえ考えている。
「全ては、お父さまの御為に」
礼子はそう呟いて、老君に連絡を取った。
* * *
蓬莱島時間は1月5日午前7時。
早起きの仁は既に起きている。ロードトスもまた同様。
老君は2人が朝食を終えるのを待ち、報告を行った。
「そうか、今回の騒動も、かなり収束したな」
『はい、御主人様。残るはグラハム・ダービーとなります』
「手掛かりは?」
『それは礼子さんからお聞きください』
老君は礼子に手柄を譲った。
「……では」
礼子は語り始めた。
「あの5人を『知識確認』で調べてわかりました。具体的な居場所は誰も知ってはいませんでしたが、ここはという場所が3箇所ありました」
「ほう」
「1つ、エリアス王国のフロレンツ。2つめはクライン王国のラクハム。3つめがセルロア王国の首都エサイアです」
いずれも大きな都市である。
『第5列がいないのが残念です』
老君が口を挟んだ。
「いや、だが『覗き見望遠鏡』がある。なんとかそれで捜してみてくれ」
「承りました」
グラハム・ダービーの外見は『アヴァロン』の記録から判明している。老君はさっそく取り掛かった。
さすがにすぐ見つかるはずもなく、仁はロードトスと今後のことを相談することにした。
「もう少ししたら、また『オノゴロ島』に顔を出そうと思う」
そして仁は、例の『模型飛行機競技』の詳細を決めるつもりだ。
「私もご一緒します。大おばあさまとマリッカ様にも声を掛けましょう」
ロードトスが言った。
「お、そうだな」
『オノゴロ島』関係はそれでいいとして、『アヴァロン』関係はどうするべきかとの相談に移る2人。
「そうですね……向こうはマキナ3世にお任せ、でいいのではないでしょうか」
ロードトスも、仁があまり関わりたくなさそうだということを薄々感じているがゆえの意見であった。
実際、必要最低限だけでいいと仁は思っている。
「そうだなあ……ただ、例のグラハム・ダービーの件だけはちょっと気になっているんだよな」
「ああ、それはわかります」
関わってしまった以上、途中で投げ出すのはいただけない、と思っている仁であった。
『御主人様、お話の最中、申し訳ありませんが』
そこに、老君が割り込んできた。
『グラハム・ダービーの居場所が特定できました』
「早いな、さすがだ。ご苦労さん」
仁は一言、老君を労った。
『ありがとうございます。エリアス王国のフロレンツにいました』
最初に調べた都市にいたのは幸運でした、と老君。
「そこに潜伏しているのか?」
当然の仁の質問。しかし、返ってきたのは思い掛けない答えであった。
『いえ、御主人様。グラハム・ダービーは病床にあります』
「何?」
『フロレンツは彼の実家があった都市だったようですね。そこで彼は治癒院に入院中でした』
「……」
思ってもみなかった現状に、仁も言葉が出なかった。
「そ、そうだ。病名は? なんで寝込んでいるんだ?」
『はい。原因は不明。症状は意識不明、だそうです』
「原因不明の意識不明か……」
何でそんなことになっているんだろう、と仁は顔を顰めた。
「もしかして、マルキタスと何か関係が?」
ロードトスが思い付きを口にした。
「洗脳隷属魔法の副作用かもしれません」
『ロードトスさんの推測が当たっているかもしれませんね。意識不明になったのは、マルキタスが没した直後らしいですから』
「うーん、マルキタスが定期的に何かしていて、それが途絶えたから意識不明になった、ということか?」
『はい、御主人様』
まるで麻薬だな、と思わなくもないが、『脳内麻薬』と言われる物質もあることだし、と少々的外れなことを思う仁。
ドーパミンやエンドルフィンなど『脳内麻薬』と言われる物質は、確かに多幸感をもたらすが、一般的な麻薬と違って、それの服用しすぎで廃人になるというような副作用はない。
閑話休題。
『御主人様、エルザ様の研究結果によりますと、ある種の洗脳魔法は、その意図する行動を取った時に多幸感を与える、というような働きをしているようですので、ある意味『脳内麻薬』によりコントロールされているとも言えます』
「ほう、なるほど」
今は亡き愛妻エルザは治癒のエキスパートであった。そのため、仁から得た知識を元に、魔法関連・非関連関係なしに多くの研究成果を残していたのであった。
『脳内麻薬によると言うより、脳内麻薬を分泌する機能およびそれに関連する脳細胞が異常を来した可能性は大です』
「そういうものか」
『はい。いかが致しますか?』
「……そう聞くと言うことは、グラハム・ダービーを治せる可能性が高いんだな?」
『仰るとおりです』
エルザの研究成果は全て老君のライブラリに厳重保存されており、必要に応じて医師(治癒師)自動人形『リーゼ』や、看護用自動人形『ナース』などにダウンロードして利用することができる。
「……よし、やってみよう」
そう決めた仁は、『リーゼ』に治癒方法をダウンロードさせたのである。
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20180227 修正
(誤)「そうか、今回の騒動も、かなり集束したな」
(正)「そうか、今回の騒動も、かなり収束したな」




