48-32 傍聴
蓬莱島に戻った仁は、真っ直ぐ司令室へ行くと、ロードトスを交えて、さっそく打ち合わせを開始した。
「まずは老君、奴らが逃げ出した先はどこだった?」
『はい、御主人様。セルロア王国のオノユニ山です』
「オノユニ山……オノユニ山……」
どこだったっけ、と考え込む仁に、老君はセルロア王国の地図を魔導投影窓に映し出した。
『御主人様。コーリン地方の北部に聳える山です。そこのグラファス鉱山近くの地中に基地があります』
今度は仁もよく理解できた。
「ああ、そうか。あそこの山か」
北回帰線より少し北あたりに聳える山だ。
そこには優秀な鉱山が3つあり、オノユニ山の南斜面にあるのがグラファス鉱山である。
『グラファス鉱山はせいぜい地下50メートルですが、敵基地は地下500メートルに作られています。文字どおり最後の砦のようです』
老君からの報告に、仁は頷いた。
「さすが老君だな。もうそこまで調べが付いているのか」
『おそれいります。正確には『最後の砦』というのはマルキタスが立て篭もったパンドア大陸のナキュー山にあった基地でしょうけれど』
そちらは『魔法連盟』の誰も知らないはずなので、と老君は付け加えた。
「確かにな。あそこは『始祖』の技術も使われたからな」
「その基地の規模や装備はどうなっているのですか?」
ロードトスが質問してきた。
『工廠もある大きな基地ですね』
彼等『魔法連盟』が使っていたゴーレムの大半を建造した工廠もあるという。
『当然、守備ゴーレムも多数おります。確認したのは43体です』
「……質問しておいて何ですけど、どうやって、と聞いてもいいでしょうか?」
『ええ、ロードトスさん。『覗き見望遠鏡』というものがあるのです』
そして老君は『覗き見望遠鏡』の作動原理を説明した。
ロードトスも魔法工作士であるから、その説明で理解できたようだ。
「な、なるほど。……腰を折って申し訳ない。続けて下さい」
『秘密基地ですので、外部への武装は貧弱です』
見つからないように、という思想のようだ、と老君は述べた。
『最大時で200体のゴーレムに守らせていたようです』
それだけの戦力があれば安心できていたのだろう、と仁は思った。
「それで、今は何人がそこにいるんだ?」
『はい、御主人様。5人です』
「少ないな?」
『はい、残党はまとまりがなく、勝手に行動しているようなのです』
そういうのが一番厄介だ、と仁は思った。
『この5人は全員が技術系のようです。『魔法連盟』の魔導具・魔導機・ゴーレムなどの大半を手掛けていたようです』
「すると、グラハム・ダービーはその中にいないのか?」
『はい、おりません。彼等の名前はガラケウス、ピッチェス、フォスマー、ブレッタ、ワーデンというようです』
技術系なので作戦の立案は苦手で、ゆえに今回のように稚拙な作戦しか立てられないようだ、と老君は説明した。
「だが、グラハム・ダービーが彼等5人と協力していたのは間違いないだろう?」
『アヴァロン』の元グラハム・ダービーの部屋に転移魔法陣があったことや、グラハム・ダービーが設置したと思われる転移魔法陣を使ってゴーレムや『ギガースモドキ』を送り込んできたのだから、と仁は言う。
『それは間違いないところですね。ですが、グラハム・ダービーの行方がわからない以上、それが洗脳されてのことなのか、あるいは自発的な行動だったのか、それは不明のままです』
「そうだな。……その5人はグラハムの行方を知っているんじゃないのか?」
『彼等の会話を傍聴している限りではその気配はありませんでした』
「そうか……」
世界中に散らばってしまった『魔法連盟』の残党。
全てを見つけ出し、対処するのは非常に困難であろうと思われた。
「洗脳されておらず、自由意思で参加していたのでしょうからね」
ロードトスも渋い顔で言う。
「おそらくは『魔法連盟』の理念に共感したと言うよりも、うまく立ち回って自分の利益を確保しようという奴らなのでしょう」
「ああ、そういう奴らっていそうだな」
仁もその意見に賛成だ。
「だとすると根絶は難しいな」
『ですが、御主人様。基盤がなければさしたることもできないでしょう』
「基盤?……ああ、そういうことか」
老君の言葉を反芻した仁はその言わんとすることに気がついた。
資金や拠点、バックアップなどがなければ、大したことはできない、ということである。
『そういう意味で、あの5人を捕らえ、ああした秘密の基地や拠点があとどのくらいあるかを知ることが肝要かと』
「そうだな。……あの廃坑奥にはそういった資料はなかったのかな?」
『はい、御主人様。そういう資料は持ち出されたか処分されたかで見つからなかったようです』
「それもそうか」
いくら技術系とはいえ、自分たちの足取りを辿られるような手掛かりを残すほどの素人ではなかったということだ。
「となると、マキナにやらせるか?」
これ以上この5人を放置しておかない方がいいだろうと仁は思っていた。
『いえ、蓬莱島戦力で片付けてしまいましょう』
マキナ3世は表に出る顔。あまり突き抜けたことはできない。
だが、蓬莱島が独自に動くなら、全力を投入することもできるのだ。
『この敵基地に関しては、まだ誰にも知らせておりませんから』
もっとも、老君の配下である『導師』は知ってはいるのだが。
『捕まえたあとでマキナに引き渡しましょう』
そして、独自に調べていた、ということにするわけだ。
「それで行くか」
仁としても、これ以上煩わされるのは勘弁してほしかった。かといって、ここまで関わっておいて放置というわけにもいかない。
『先遣隊として『忍部隊』を送り込んであります』
「さすが老君」
『まずは、敵基地内の様子を確認させます』
* * *
「次の目標はどうするか、だな」
『五人衆』は会議中であった。
「我等の勢力もかなり縮小してしまった。ここらで目標を見直すのも大事だと思う」
『忍部隊』の目と耳を通じて、蓬莱島の司令室ではリアルタイムにその様子を見聞きすることができた。
『覗き見望遠鏡』では音声までは拾えないので、この方法にも大きな利点があるわけだ。
「そもそも、我等は『魔法連盟』の思想に共感していたわけではないではないか」
「そのとおり。作りたいものを作らせてくれるからということで参加したのだ」
「それは私もだ。……そもそも、我々が行っているのは『物質』がなくては成り立たないのだから」
* * *
「……意外とまともな判断力はあるんだな」
送られてくる映像を見ながら、仁は独り言のように呟いた。
だが。
* * *
「最終兵器の完成……それはまだまだ先になるな」
「うむ。いまのところ50パーセントといったところだったな?」
「ああ、そうだ」
不穏な単語が飛び出してきて、仁は気を引き締めたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
異世界シルクロードを更新して終わった気になっていました……orz




