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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
48 年末年始アヴァロン騒動篇(3899〜3900年)
1799/4280

48-28 小さな淑女

 1月3日の夜、ブルウ公爵邸にアーネスト17世がやってきた。

「ジン殿、先日は世話になった。今日は妹とティアを連れて来たぞ」

 アーネスト17世はそう言って、小さな淑女を紹介した。

「はじめまちて。ミミールともうしまちゅ。よろちくおみちりおきを」

 ピンク色のスカートをちょっと摘んで挨拶した小さな王女。兄アーネスト17世殿下とそっくりな金髪碧眼の美幼女だった。

 頭の左右で結んでツインテールにした髪が、どことなくリースヒェン王女を彷彿とさせる。

「『魔法工学師マギクラフト・マイスター』ジン・ニドーです。姫様」

「名誉従騎士レーコ・ニドーです、よろしくお願いいたします」

 仁と礼子も挨拶を返した。

「姫様、よろしくお願いいたします」

 ロードトスとブルウ公爵、イルミナ・ラトキンも同様に挨拶をする。


 そして王女のすぐ後ろには、青い髪の自動人形(オートマタ)——ティアがいた。

「お——」

 お久しぶりでございます、と言われる前に、礼子は素早く行動した。

 ティアの前へあっという間に移動し、その言葉を遮ったのである。

 そして、

「ティアさんですね。殿下からお噂は聞いております。お会いできて光栄です」

(ティアさん、お父さまは『3代目』ということになっておりますので、話を合わせてください!)

 ティアへの挨拶と同時に、人間には聞こえない超音波領域で、しかも50倍速で用件を伝えた礼子。

 それをきちんと理解したティアは、

「——目にかかれまして光栄に存じます。私はミミール王女殿下の自動人形(オートマタ)、ティアと申します」

 と、無難な挨拶を行ったのである。

 因みに、10歳くらいまでは幼名で呼ぶのがエゲレア王国の習わしで、社交界に出るようになると、幼名ではなく本名で、となるのだそうだ。


「ミミールはこの前誕生日を迎えたから満4歳になる。仲よくしてやってくれ」

 とアーネスト17世は目を細めて言う。歳の離れた末の姫君が可愛くてならないようだ。

「ええ、もちろんですよ」

 仁も、施設にいた頃の年少の子を思いだし、しゃがんで目線を合わせながら、

「王女殿下におかれましては、甘いものはお好きですか?」

 と尋ねた。

「あい、ジンしゃま、だいちゅきです!」

 期待をたっぷり含んだ目でそう答えた王女殿下に、仁は懐から綺麗な小箱を取り出して、ミミールに手渡した。堅い木と銀の金具でできた、筆箱くらいの小箱である。

「お近づきの印に。ですが、食べ過ぎてはいけません、お兄上かティアがいいと言ったら口にしてください」

「あい、わかりまちた」

「ジン殿、それは何だ?」

 『お兄上』、アーネスト17世が興味深そうに覗き込んできた。

「姫様への贈り物です。中身は……ご覧になってみてください」

 アーネスト17世に簡単な説明をした仁は、ミミールに向き直る。

「姫さま、箱はティアに預けるのがよろしいかと存じます」

「あい。……ティア、あじゅかってちょうだい」

「はい、姫さま」

 ティアもしゃがんでその箱をミミールから受け取った。

「ジン様、開けてみてよろしいでしょうか?」

「もちろん。開けてみてくれ」

 そこでティアはそっと小箱を開けてみた。

「これは?」

「わあ、きれいでちゅ」

「ジン殿、これは?」

 『ツノ』が生えた色とりどりの小さな粒……『金平糖』であった。

 グルメマンガで作り方を読んだことがあるような気がした仁の記憶を頼りに、家事担当のペリドたちが試行錯誤して完成させたのだ。


 斜めに傾けられた釜……『銅鑼どら』と呼ばれるものに核となるザラメをいれてゆっくり回転させる。そこに糖蜜を入れて、ゆっくりと攪拌する……のだが、とても言葉や文字にはできないほどのノウハウを必要とするようである。

 ただ幸いなことに、2週間ぶっ続けの作業も、ゴーレムである彼女たちには大した負担ではないことだ。


 とにかく、赤、白、黄色、桃色、橙色、緑、青、水色、紫……と、色とりどりの小さな星のような金平糖が箱の中に入っていたのである。

「これは『金平糖』っていって、甘いお菓子なんだ」

「ジン殿、食べられるのか!?」

 アーネスト17世はびっくりしている。

「はい。……そうだティア、1粒毒見して差し上げたらどうだろう?」

「わかりました」

 仁の言葉に、ティアはさっそく白い金平糖を1つ、口に入れた。

「……ほとんどがお砂糖の塊ですね。それに色づけしている微量の天然色素。害になる物質はございません」

 それを聞いたミミール王女は、さっそくその小さな手を伸ばして桃色の金平糖を口に含んだ。

「あ……あまいでしゅ! おいしいでしゅ! ジンしゃま、ありがとございまちゅ!」

 横で見ていたアーネスト17世も味が気になったようで、

「ミミール、私にも1つくれないか?」

 と妹に懇願した。

「あい。おにいちゃま、どうじょ」

 ミミールは青色の金平糖を、そのモミジのような小さな掌に乗せ、兄に向けて差し出した。

「ありがとう!」

 とろけそうな笑顔でその金平糖を受け取ったアーネスト17世は、さっそく口に放り込む。

「……うむ、これは美味いな。ジン殿、妹にいいものをくださった。感謝する」

「ねえねえティア、もうひとつちょうだい!」

「姫様、今日はあと1つですよ?」

「うん!」

 金平糖を気に入ったらしいミミール王女は、小箱を持つティアにせがんで、この日2つめの金平糖を口にしていた。

 イルミナ・ラトキンは、その様子を羨ましそうに見ていた……。


*   *   *


 ひとしきりミミール王女ははしゃいでいたが、時刻が夜の8時をまわると眠そうな顔になった。

「姫様、そろそろお休みください」

「うん……」

 目をこすりながら王女は返事をした。

「では、こちらへ」

 何度か遊びに来ているということで、ブルウ公爵邸には、王族専用の寝室も用意されているらしい。

 ミミール王女は一緒に来た侍女に連れられて行ったのだった。

「さてジン殿」

 アーネスト17世はあらためて仁に向き直った。

「先日、少しだけお願いしたが、ティアの具合を見てやってほしい」

「わかりました」

「ジン殿、それならば工房を使ってくれ」

 公爵邸には、小さいながらも自前の工房があるようだ。仁は有り難く使わせてもらうことにした。


「礼子、手伝ってくれ。ロードトスもいいか?」

 礼子とロードトスに声を掛けた仁は、ティアと共にその工房へと向かう。なんとブルウ公爵自ら案内してくれた。アーネスト17世も付いてきている。

「ここを使ってくれ」

 仁が思った以上に、なかなか設備も整った工場であった。

「よし、それではティア、そこに横になってくれ」

「はい、ジン様」

 ティアを作業台に横にさせた仁は、まず礼子に指示を出してティアの服を脱がせてもらった。

「お、おお……」

 アーネスト17世とブルウ公爵が顔を赤らめる。

 そういうシーンを見たくて付いてきたんじゃないのか、と仁は頭の片隅で思いながら、魔法外皮(マジカルスキン)を剥がしていった。

 ティアの内装が露わになる。

(……あの後、誰も手を加えていないようだな……)

 あの後、とは、400年前に仁がクライン王国で、当時のティアの主人、リースヒェン王女に懇願されて修理した後、という意味だ。

 400年という歳月を重ねても、ティアの身体はさほど傷んでいなかったのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180220 修正

(旧)

「ジン殿、それは何だ?」

(新)

「ジン殿、それは何だ?」

 『お兄上』、アーネスト17世が興味深そうに覗き込んできた。

「姫様への贈り物です。中身は……ご覧になっていてください」

 アーネスト17世に簡単な説明をした仁は、ミミールに向き直る。

※王子からの質問に答えない仁もまずいので。


(旧)「はじめまちて。シャノン・エレア・ミミールでちゅ。

(新)「はじめまちて。ミミールともうしまちゅ。

(旧)ピンク色のスカートをちょっと摘んで挨拶したシャノン王女。

(新)ピンク色のスカートをちょっと摘んで挨拶した小さな王女。

 ※エゲレア王国では、王族は (名前・雅名・幼名・身分) ですので、社交界デビューしていない王女は幼名のミミールで呼ぶことにします。

 以下、

(旧)シャノン

(新)ミミール


(誤)小箱を持つティアにせがんで、この日3つめの金平糖を口にしていた。

(正)小箱を持つティアにせがんで、この日2つめの金平糖を口にしていた。


 20190406 修正

(誤)「姫様への贈り物です。中身は……ご覧になっていてください」

(正)「姫様への贈り物です。中身は……ご覧になってみてください」

(誤)とろけそうな笑顔で、その金平糖を受け取ったアーネストは、さっそく口に放り込む。

(正)とろけそうな笑顔でその金平糖を受け取ったアーネスト17世は、さっそく口に放り込む。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >金平糖を気に入ったらしいミミール王女は、小箱を持つティアにせがんで、この日2つめの金平糖を口にしていた。 >イルミナ・ラトキンは、その様子を羨ましそうに見ていた……。 甘いものが好…
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