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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
48 年末年始アヴァロン騒動篇(3899〜3900年)
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48-15 二場面で

 仁たちが巡洋艦『淀』でタツミ湾を出港した同日、場面は再び『アヴァロン』にて。


 デウス・エクス・マキナ3世とエレナ一行はまだ滞在中であった。

「……それは、本当ですかな?」

 痛む胃を抑えながら、『アヴァロン』最高管理官トマックス・バートマンがエレナに尋ねた。

「ええ、残念ですが」

「……うむ……」

 エレナが彼に告げたのは、前最高管理官グラハム・ダービーが、『魔法連盟』の一員であった、という事実である。

「これは、『魔法連盟』から本部を奪還した際に確保した資料から明らかになったことなのです」

 同様に、そうした情報は各国首脳へ伝えられており、その結果、各国の政府から『魔法連盟』の影響はなくなりつつあった。

「お伝えするのが遅くなったのは、こうした情報は全て暗号化されていたからなのですわ」

 重要な情報は一旦暗号化されてから記憶装置に収められていたのだとエレナは説明した。

 その解読に時間が掛かったのだ、とも。

「……マリッカさんたちがお帰りになってからお伝えしたのは、彼女たちを気遣ってのことであるということをご理解ください」

 エレナは軽く頭を下げた。トマックスはそんなエレナを手で制した。

「謝罪の必要はありませんよ。……私でもそうしたでしょう」

 グラハム・ダービーもまた、マリッカの教え子である。言うことを聞かず、独善的であったため、非常に手のかかる教え子であったろう、とトマックス・バートマンは昔を思い出した。

 そんなグラハムにも、マリッカは丁寧に……いや、だからこそ丁寧に教え、気に掛けていたのだ。

「あいつが実は敵の回し者だったと知ったら、先生は悲しまれるでしょうから」

 グラハムとトマックスは同期だったのである。

「確かに、あいつが『魔法連盟』の回し者だったとすれば説明が付くことも多々ありますが」

 それでも、共に学んだ級友が敵対組織の回し者であったという事実を受け入れるにはいささか……いや、かなり抵抗があったのである。

 とはいえ、トマックス・バートマンも、今は最高管理官。私情を排除し、論理的に思考することはできる。

「では、この『アヴァロン』にも、未だ奴の影響が?」

 エレナは頷いた。

「そうです。それこそが、本日の主題であり、マキナ様にも同席願った理由ですわ」


「なるほど。少し大げさにいえば『アヴァロン』存続の危機というわけだからな」

 マキナは大仰に頷いた。

 マキナ3世を操縦している『導師』は、どうやらマキナの性格付けを、やや尊大に設定したらしい。

「……となると、そのグラハム・ダービーとやらに近い立場にいた者をはじめ、多くの構成員を疑ってかかる必要がありそうだ」

「そうなのです。ですが、一人一人尋問するわけにもいきません。時間と手間が掛かりすぎますし、なにより結束が揺らぎます」

「それはよくわかる」

 暗に、何かいい方法はないかと聞きたいトマックス・バートマンなのである。

 そして、それを察したらしいエレナが口を開いた。

「一気に洗い出すのは難しいと思いますし、軋轢を生じさせる可能性もありますので得策ではないでしょうね」

「ううむ……」

 トマックスの胃は、まだ苦労から解放されないようだ。


*   *   *


 一方、仁たちは巡洋艦『淀』で海を満喫していた。

「うわあ……やっぱり、水平線って丸いんですね!」

「潮風が気持ちいいな!」

 カチェアとエイラは艦橋横の展望台から海を眺めていた。

「これだけの高さから眺めるとまた格別ね」

「小さな船とは違いますね」

 シオンとマリッカも楽しんでいるようだ。

「ロードトス様、いい眺めですね」

 リュドミラはロードトスと一緒に船縁に立って海を眺めている。

「大おばあさまとご一緒できて嬉しいです!」

 ヴィータはシオンとマリッカに挟まれて船旅を楽しんでいた。

「……全長100メートルの全金属船か……それを作れるドックを作るだけでも大変だろうにな……」

 そして、グローマはグローマで、色々思うところがあるようだ。


 ひととおり満喫したところで、甲板上にテーブルを並べてお茶の時間にする。

 煎茶と羊羹を出したところ、

「何だいこれ! 甘い! 美味い!」

 エイラは羊羹をいたく気に入ったようだった。

「甘いです……美味しいです……」

 もちろんカチェアも。

 そしてグローマも、

「羊羹も美味いが、このお茶も美味いな……」

 と、結局3人には、煎茶と羊羹は大好評だった。

「あまり食べるとお昼が入らなくなるぞ」

 と仁が忠告したが、エイラの手は止まらなかった。カチェアはもう少し食べたそうな顔をしつつも食べるのを止めたのだが……。


 一方で、シオンとマリッカ、ロードトスは食べたことがあったため、そこまで大げさな反応はしなかったが、気に入っていることが一目で分かる顔をしていた。

「おいしーい!」

「美味しいです……!」

 だが、ヴィータとリュドミラは初めて食べたようで、その顔は嬉しそうにほころんでいた。


「ああ、しかし、ジンはこれを先代から譲り受けたんだろう?」

「まあ、そうだ」

 巡洋艦『淀』を作ったのは400年前の仁なので先代といって差し支えない。

「元々は、1400年前に活躍した初代『魔法工学師マギクラフト・マイスター』、アドリアナ・バルボラ・ツェツィが蓬莱島を見つけて整備したところから始まるわけだがな」

「アドリアナ・バルボラ・ツェツィ殿か……大昔過ぎてちょっと想像が付かないな」

 エイラはそういって微笑み、残った煎茶を飲み干した。


「でも、そうした積み重ねがあってこそ、こうした船も作れるわけだな」

 グローマは感心したような、感動したような声音で呟くように言った。

「グローマはフソー出身だったな?」

 そんなグローマに、ロードトスが声を掛けた。

「ええ、師匠。でも、もう20年以上帰っていませんしね」

「え、そうなのかい?」

 エイラが驚いたように尋ねた。こういう話をするのは初めてだったようだ。

「ああ、そうなのさ。小さい頃に孤児になった俺は、ちょうどやって来ていた行商人に頼んでミツホへ連れていってもらったんだ。そこから別の商人に頼んでショウロ皇国へ行き、さらにいろいろあって、師匠に学ぶことができたんだ」

「……グローマもいろいろ苦労していたんだな」

 エイラが少し驚いたというような顔をしていた。

「あたしも身寄りはないしな」

 しんみりした話になりかけたところに、艦長である海軍(ネイビー)ゴーレム、マリン31が報告を行ってきた。

『右舷前方にボウォール発見。脅威になる距離ではないと判断します』

 その声に、皆揃って右舷から海を見つめた。

 確かに、水平線手前に黒い点が見える。

「あれがボウォール? よくわからないな」

 グローマがそう言うと、

「こちらをお使いください」

 と、乗組員であるマリンたちが双眼鏡を全員に配った。

「これは?」

「こうやって使うんだ」

 使い方を知らないエイラたちに、仁が使ってみせる。

「ここでピント……見え方を調節するんだ」

「どれどれ……ああ、よく見える。これがボウォールか!」

 倍率は7倍。手持ちで使える倍率である。あまり倍率が大きいと、手ぶれの影響で視界が定まらなくなるのだ。

 ちなみに、ゴーレム式望遠鏡というのもあって、そちらは手ぶれ防止機能も付いている。

「へえ、これはボウォールなのか」

 時ならぬ『ボウォールウォッチング』を楽しんだ一同であった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

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