48-04 マキナ3世
「そろそろ見えるはずだ」
『アヴァロン』では、デウス・エクス・マキナ3世が来るというので、空港に重要人物が集まっていた。
『最高管理官、機影が見えました!』
管制塔からの連絡が入った。
「おお、そうか。時間どおりだな」
前回の訪問は各国で使われている『双胴式飛行船』であったため、今回もそうであろうと最高管理官トマックス・バートマンをはじめとする『アヴァロン』の面々は思っていた。
だが。
『こ、これは?』
「どうした?」
『は、はい。初めて見るタイプの機影でして』
「何? ……ま、まあ、最新技術を持つというマキナ殿だ、そういうこともあるだろう」
トマックス・バートマンは努めて平静を装って言った。
だが、近付いてくる機影を見て、冷や汗が流れてくる。
それは、全長が100メートルもある飛行船であった。
しかも、気嚢部分が扁平である。
現代地球で『世界最大の航空機』と呼ばれるハイブリッド飛行船『エアランダー』よりもさらに一回り大きな船体を誇る巨大飛行船であった。
これは、400年前の仁が作ったマキナ専用機で、『コンロン3』同様宇宙船仕様になっており、真空中でも飛行できる。
乗員は全てゴーレムで、コスモスシリーズと同型で色違いの『スペース』1から20。
船の名前は『アリストテレス』。演劇をまとめる手段としての『デウス・エクス・マキナ』を批判した哲学者アリストテレスの名を付けたのはただの偶然である。
「こ、こんな凄い飛行船を所有するのか……デウス・エクス・マキナ3世は……」
思わず呟いてしまったトマックス・バートマンだが、それはこの場にいる全員の思いだったろう。
巨大飛行船は、まるで重さがないかのように空港に着陸した。
船室の下部からは伸縮式の着陸脚が出て船体を支えている。
ハッチが開くと、黒いゴーレムが10体現れ、5体ずつ左右に分かれて整列した。
「おお……」
「素晴らしいゴーレムだ……」
人間そっくりなボディラインを持つ黒いゴーレムに、居並ぶ人々は感心している。
そして2つの人影が現れた。
1つはデウス・エクス・マキナ3世、もう1つは従騎士レイである。
「デウス・エクス・マキナ3世殿、ようこそ!」
最高管理官トマックス・バートマンが進み出て歓迎の意を表した。
「トマックス殿、一月半ぶりだろうか。元気そうで何よりです」
胃が痛くてたまらないんだよ、と言いたくても言えないトマックス・バートマンは、笑顔を浮かべながらマキナと握手を交わした。
「……しかし、途轍もないものに乗っていらっしゃいましたな」
『アリストテレス』を見上げながらトマックスが言った。その声はほんの少しだけ震えている。
「ある程度技術をお見せしておこうと思いまして」
「は、はあ」
十分過ぎる! とトマックス・バートマンは心の中で思った。
「こ、これをご自身でお作りになったわけですな」
「ええ、そういうことですね」
実際には400年前に仁が作ったのだが、仁=デウス・エクス・マキナとするなら嘘ではない。
「……本日は何の御用で?」
デウス・エクス・マキナ3世と従騎士レイを案内しながらトマックスが訪ねた。
もちろん歩きではなく、ゴーレム自動車に乗っての移動である。このゴーレム自動車は、『アヴァロン』内移動用に特化した小型車である。
「視察と、今後の支援について話し合いたいと思いましてね」
「支援ですか、それは正直助かります」
駄目出しや批判ではないことにほっとしたトマックスは、特に技術的な指導をしてもらえたら、と言った。
「そうですね。ですが、まずは現在の『アヴァロン』を見てみないことにはなんとも」
「それはそうですな」
そんな話をしているうちにゴーレム自動車は建物の中に入り、広い通路を進んでいく。
広い通路を抜け、最高管理官トマックス・バートマンの執務室の前で停止。
「まずは、こちらへ」
「お邪魔しますよ」
マキナは、トマックスの執務室へと入った。従騎士レイも無言でそれに続く。
執務室には秘書ゴーレムが2体いた。
「ああ、これは……『サフィ』ベースのゴーレムですね」
サフィは、400年前に『アヴァロン』で世界会議が行われた際、仁とマキナから寄贈された青銅製の侍女ゴーレムである。
とはいえ、サフィは当時の世界最高水準であるし、今現在でも『ほぼ』最高レベルである。
それを元にした秘書ゴーレムなので、当然高性能であった。
「ようこそ、マキナ様」
ちなみに、『アヴァロン』内に自動人形はほとんどいない。働いているのは全てゴーレムである。
それというのも、有事の際に人間と見分けがつきにくいということがマイナス要因にならないようにという配慮からだ。
例外は育児関係に従事する自動人形である。
閑話休題。
「どうぞ」
「ありがとう」
秘書ゴーレムがお茶を2人の前に置いた。
トマックスがまず口を付け、マキナも続いてお茶を飲んだ。
「実は本日、5時間後くらいに『懐古党』のエレナ殿がお見えになることになっておりまして」
「ほう、それはそれは」
「で、明日は『3代目魔法工学師』ジン・ニドー殿と、ノルド連邦から『森羅』のマリッカ様、シオン様、それに『傀儡』のロードトス様がおいでになると……」
「千客万来ですね」
マキナ3世は笑ったが、トマックスは渋い顔をしている。
「もてなす側としては胃が痛い思いですよ」
「はは、なるほど」
苦笑したマキナは、
「そうなりますと、重要な話は全員揃ってからの方がよさそうですね」
と言った。
それを聞いてトマックスの顔が青ざめた。
「え、ええと、……重要なこととはいったい何なのでしょう? 概要だけでもお聞かせ願いないでしょうか?」
心の準備が、とは言わなかったが、トマックスの心中は穏やかではないのがその表情から見て取れる。
「……構いませんよ。……『魔法連盟』のその後とか、今なぜ私や『3代目魔法工学師』が姿を見せたのか、などですね」
「な、なるほど」
「まあ、一言でいうと『魔法連盟』の脅威が去ったからなんですが」
「そ、そうなのですか?」
「そのあたりの経緯をお伝えするのが主眼ですかね」
「……」
悪い報せではないことを悟ったトマックスの顔は元の色を取り戻した。
「そ、そういうことでしたか……」
そして目の前のお茶を一気に飲み干した。
「熱っ!」
かなり熱かったようだが、辛うじて吹き出すのはこらえたようだ。
「で、では、視察を行いますか?」
「そうですね、頼みます」
一方マキナは優雅にお茶を飲み干し、にこりと笑って答えたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
お知らせその1:
今週末より新連載『異世界シルクロード(Silk Load)』を始めました。
異世界で養蚕を中心とした内政をする話です。虫注意。
土日10時更新。
https://ncode.syosetu.com/n5250en/
となります。お楽しみいただけたら幸いです。
お知らせその2:
27日(土)早朝から28日(日)夕刻まで帰省してまいります。
その間レスできませんので御了承ください。