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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
47 オノゴロ島の子孫篇
1767/4321

47-48 遠隔操縦自動車レース 序盤

 午後1時10分前。

『皆様、お待ちかね、『遠隔操縦自動車レース』決勝戦が開始されようとしております!』

 実況が開始された。

 午後1時ジャストには、決勝戦がスタートすることになっているので、実況は少し早めに始まるのだ。

『ポールポジションはゼッケン12、ロードトス様! その隣はゼッケン11、ジン様です!』

 歓声と拍手が沸き上がる。

 ラックハルトは出場者のスターティングポジションを説明していった。

 操縦者も、まだ操縦席に着かずに自分の車のそばに立って、手を振ったりお辞儀をしたりしていた。


 ポールポジションはコースの一番内側。以下順に外側へと向けて、横一線に並んでいる。

『1周400メートルのこのコースを30周して競います。各車の縮尺は8分の1ですから、1周はおよそ3.2キロメートル。走行距離は96キロメートルに相当するわけです』

 残った数分を用いて解説が行われる。

『予選を見た限りでは、1周およそ40秒ですので、30周しますと20分。遅くとも今から30分後には勝者が決まっていると言うことです!』

 またしても沸き上がる大歓声。

 そこへ、女性型ゴーレムが『スタート2分前』と書かれたプラカードを掲げた。

 操縦者はそれぞれの操縦席に着く。

 そしていよいよスタートへのカウントダウンが始まった。

 静まりかえる競技場に、音声だけが響く。

『10……9……8……7……6……5……』

 残り5秒目から、スタートを示す信号灯に赤いランプが灯っていく。

 それは下から上へと順に灯っていき……。

『……4……3……2……1……』

 最後の瞬間にあお色の表示に変わるのだ。

『0!』

 午後1時ジャスト、レーススタートである。


『各車一斉にスタートしました! スタートで飛びだしたのはゼッケン9! 最も小型、最も軽量なだけあって、加速も鋭い!』

『加速性能というのは予選ではわからないものですね』

 ラックハルトが興奮気味に喋れば、シオンは淡々と述べていく。そのコントラストがなかなかいい、と、仁は操縦しながら頭の片隅で思っていた。


 2番手はゼッケン10、ルビーナである。性格を反映しているというのか、ルビーナの車はパワーが有り余っていた。

 そのため、特に加速時にはタイヤがそのパワーを路面に伝え切れていないという状態になる、つまり『ホイルスピン』だ。

 そして、このコースは舗装路ではない。つまり。

「う、うわっ!?」

「きゃっ!?」

 真後ろに付いた車へ、砂利の雨が降り注いだのである。

「あーっ! ごめんなさあい!」

 気が付いたルビーナは謝るが、加速は緩めない。

 シュウとシーリーンのゼッケン2と5は、砂利の直撃を避けるために速度を緩めたため、最下位まで落ちてしまったのだった。


『あらあら、思わぬ副次効果ね』

 それを見たシオンが苦笑いをした。

『真っ先にコーナーに入ったのはゼッケン9! 続いてゼッケン10です! ゼッケン11は3位でコーナーに突っ込みました!』

 仁とルビーナの順位が入れ替わったのは、加速で抜かれた際に、ルビーナの後ろに付くことを嫌ってコースを外側に振ったからである。

(ルビーナのタイヤは摩耗を嫌ったせいか金属製だしな……あれじゃ砂利が飛んでくるわけだ)

 予選の時に仁が気付いたことである。

 練習走行の時は全力での加速などしていなかったので、誰も気付かなかったし、予選時にもほとんどの者はベストラップを出すのに夢中だったので、気が付いたのは仁くらいであろう。

 だが、この時点で全員が知ったことになる。

『ゼッケン10の真後ろに付くのは不利ね』

 シオンが言うように、今では全車……つまり当のルビーナの車を除いた12台が、ゼッケン10の真後ろを避けるように走行していた。

『車の大きさに対してコースが大きいから、インコースとアウトコースの差が小さいわね』

 このシオンの発言に対し、ラックハルトが詳しい説明を要求した。

『シオン様、どういう意味でしょうか?』

『ああ、ごめんなさい。差と言うより比と言った方がいいかしら?』

 つまり、と前置きをしてシオンは説明を始めた。


『わかりやすく、円形のコースで言うわね。……半径10メートルの円の円周と、半径11メートルの円の円周の差はどのくらいかしら? あ、面倒なので円周率は3にしていいわ』

『はあ。直径掛ける円周率ですので、60メートルと66メートルですね。ですから6メートルですね』

『じゃあ、半径100メ−トルの円と半径101メートルの円の円周の差は?』

『ええと、600メートルと606メートルですからやはり6メートルですね』

『差はそうよね。じゃあ比は?』

『……ああ、そういうことですか』

 前者の比は60:66≒0.91、後者は600:606≒0.99、となる。

 つまり、コーナー半径が大きいほど、インコースとアウトコースの影響が小さくなる、とシオンは言いたかったのだ。


 別の言い方をすると、400メートルトラックで8分の1スケールの自動車競技というのはスケール的にミスマッチなのである。

 皆、経験的にインコースを取ろうとしているが、アウトコースを取ってもさほどタイムには影響がない。

 ここで、先程のシオンの発言、『車の大きさに対してコースが大きいから、インコースとアウトコースの差が小さいわね』となる。


 まわりくどく説明したが、要はゼッケン10の後ろを避けて走ってもさほど不利にはならないのではないか、とシオンは言いたかったのだ。

 しかしそれでも差は依然として存在する。

 シオンの予想どおりになるのかどうか。それはわからなかった。


*   *   *


 そして、実況とゲストがそんな話をしている間にも、レースは進んでおり、1周目が終わらんとしていた。

 順位は12、9、11、10、8、6、7、4、5、1、13、2、5。

 予選のタイムどおり、ロードトスの車がトップに立っていた。

 ラップタイムは40秒前後。まだ皆様子見と言ったところだ。

 そんな中、ロードトスのゼッケン12は独走態勢に入らんとしている。

(ロードトスは逃げ切り型か)

 追い上げるときに実力以上を出せるタイプと、逃げるときに実力以上を出せるタイプ。ロードトスは後者のようだ。

 プレッシャーが嫌いなので、リードを取ったことによりのびのびと行動できる。

 それが逃げ切り型である。

 実は仁もそうである。同じであるがゆえによく理解できていた。

 仁は、前を行くゼッケン9を見据えていた。

「よし、ここだ!」

 コーナー手前で減速を遅らせ、一気に前へ。

 急なステアリング操作で鋭角的なターンを行い、ゼッケン10の前を横切るようにしてコーナー出口へ向かう。

「きゃあ!」

 目の前を横切った仁の車。十分距離はあるのだが、焦りによって急制動を掛けてしまうルビーナ。

「あ、しまった!」

 その減速により、8、6、7に抜かれてしまう。

「ううう、やられたわ!」

 焦ってフルスロットルにすると、またホイルスピンが起き、砂利を跳ね飛ばしてしまう。今度は後方に車がいなかった。

「あ、い、いけない!」

 慌てて少し戻すが、時既に遅く、ゼッケン4にも抜かれてしまった。

「うううう!」


『ルビーナの課題は冷静さね』

 その様子を見ていたシオンが呟いた。

 まだレースは始まったばかりである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20180119 修正

(誤)このシオンの発現に対し、トライハルトが詳しい説明を要求した。

(正)このシオンの発言に対し、トライハルトが詳しい説明を要求した。

 ……いで?

(誤)しかしそれでも差は以前として存在する。

(正)しかしそれでも差は依然として存在する。


(誤)午前1時ジャスト、レーススタートである。

(正)午後1時ジャスト、レーススタートである。


(誤)その減速により、8、9、7に抜かれてしまう。

(正)その減速により、8、6、7に抜かれてしまう。


(誤)走行距離は25.6キロメートルに相当するわけです』

(正)走行距離は96キロメートルに相当するわけです』

 orz


 20180301 修正

(誤)トライハルト → (正) ラックハルト (3箇所)

 解説はトライハルトの息子であるラックハルトでした……orz

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