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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
47 オノゴロ島の子孫篇
1753/4280

47-34 競技スタート

[皆様、長らくお待たせいたしました!]

 アナウンスが響き渡った。『拡声の魔導具(ラウドスピーカー)』によるものだ。

[これより、第155回ゴーレム競技(ゴンペテイション)を開催いたします!]

 観客席が歓声に包まれる。

「155回か……すごいな」

 仁も素直に感心している。

[では、簡単に競技内容をご説明致しましょう。……参加するゴーレムは全部で51体。全て自律型です]

 仁たちは内容を聞かされていなかったので、耳をそばだてた。

[およそ100キロメートルの指定コースを走ってゴールする、その速さを競います。ただし!]

 アナウンスはここで一息分の溜めを入れた。

[途中に設けた5箇所のチェックポイントにあるマーカーを手にしておりませんと不利となります。1個に付き10ポイントが加算されますから!]

「ほう」

 計算方法までは仁たちも聞いていなかった。

[因みに、順位ポイントは1位50点、2位49点、3位48点……そして50位1点、51位0点です]

「……なるほど」

 仁は頭の中でポイントを計算してみる。

[極端な例を挙げますと、マーカー0個で1位は50点。マーカー5個で51位は50点となります。……これは極端な例ですが、マーカー4個で1位よりもマーカー5個で5位の方が高得点となるわけですね]

 つまり、マーカーの確保が重要ということだ。

[マーカーはポイントごとに色の違う魔結晶(マギクリスタル)を使いますので、1箇所から5個持ち出すことはできません。それは即失格になります]

 だろうな、と仁も頷く。

[マーカーの保持は各ゴーレムが工夫して収納場所を設けているかと思われます]

 腹部に収納スペースがある者、口から呑み込む者、ベルトポーチのようなものを付けている者などが散見された。

[コースが残り3分の1付近になりますとバトル解禁エリアとなり、他者の持つマーカーを奪う行為も可となります!]

 仁たちも残り3分の1からというのは初耳だったが、それはそれで競技を盛り上げるためだろうと納得できた。

[競技の様子は、各所に設置した魔導監視眼(マジックアイ)、そして魔導監視眼(マジックアイ)を備えた専用ゴーレムが映像をお届けいたします]

 ここでまた拍手が沸いた。


[さあ、いよいよ選手ゴーレムが集合いたしました!]

 眼下は整地されたグラウンドのような場所。

 そこに、51体のゴーレムが横一線に並んでいる。スタートライン=ゴールラインであるようだ。

 ゴーレムなので、直接背中にゼッケンナンバーがペイントされている。

(野球選手みたいだな)

 と仁は感想をいだいた。


[……ゼッケン1は魔法技術相、レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアス殿謹製、『ヒューゲル』! 優勝候補であります!!]

「おお、なかなかバランスよさそうだ」

「格好いいです」

 『ヒューゲル』は身長2メートル程か。細マッチョといった体形である。

 以下、ゼッケン2、3、4と続いて紹介されていくが、仁たちの目を惹く機体はなかなかない。そして。

[……ゼッケン13は、今回初参加のガスレグ・ミヴァス、ゴーレム『ヴィクリー』!]

「お、あれはなかなか。だけどなあ……」

「ごついわね」

「ごついですね」

 身長2.5メートル、横幅もそれなり。体形としてはムキムキマッチョといえよう。

 だが、力強さと構成素材の上質さはみただけでそれと分かる程だった。

 そしてまた、特にこれといったゴーレムはなく。

[……ゼッケン51、今回特別にエントリーされたのはエゲレア王国『王室工房(ロイヤルファクトリー)』製、『アーロン』!]

王室工房(ロイヤルファクトリー)というのは、400年程前に当時第3王子だったアーネスト殿下が創設された工房なのですよ」

 ロードトスがこっそり教えてくれた。

「あのアーネストが……」

 ゴーレム好きだった若き王子を懐かしく思い出した仁であった。

 この『アーロン』も、なかなかバランスのいい体形をしていた。

「今回は来賓席ではなく、皇族席に国賓としていらっしゃいますのが第3王子で現王室工房(ロイヤルファクトリー)の名誉最高経営責任者(CEO)、アーネスト17世殿下ですよ」

 王室工房(ロイヤルファクトリー)の名誉最高経営責任者(CEO)は代々アーネストを名乗るのだという。

 振り向いてそちらを見やると、今のアーネスト17世は、奇しくも14歳くらいの少年だった。

 どことなくあのアーネストの面影があるな、と思う仁に気付いたようで、アーネスト17世は小さく手を振った。

 仁が驚いたのは、その背後に立つゴーレム。

(ロッテ……?)

 ルビーナの先祖、ビーナの面影を写した侍女ゴーレム、ロッテだったのだ。

(元気そうだな。……今の主人も、大事にしてくれているようだ。よかった)

 ロッテの外装には傷や錆び一つなく、ぴかぴかに磨かれているし、ちゃんと侍女服を着せてもらっている。その点を見ても、大事にされていることがわかるというものである。

 仁は胸の奥が温かくなるのを感じた。


[……さていよいよ、競技開始であります。秒読み開始。10、9、8、7、6、5……]

 会場は水を打ったように静まりかえった。

[……3、2……]

 ごくりと、誰かが飲んだ唾の音が聞こえた気がした。

[……0! スタートです!]

 静寂が大歓声と置き換わり、地響きを立てて51体のゴーレムが走り出した。

[一斉に走り出しました! ああっ、スタート直後の混乱で、3体……いや4体が転倒! それに巻き込まれてさらに2体が転倒しております!]

 やはりスタート直後のダンゴ状態は鬼門なのか、計7体が転倒し、遅れを取った。

 とはいえ総延長100キロメートルのコースを走り抜くレースでの1分程度は、この先いくらでも取り返しがつくと思われる。

 そして、そう考えたらしい5体のゴーレムは、スタートでダッシュをかけずにマイペースで走っていく。その後から転倒した7体が追いかけていった。


 そして画面が切り替わる。先頭集団は7体。

 ゼッケン1、3、13、31、40、49、51である。

[先頭集団、山道に差し掛かりました!]

 バクサ山の山頂まで通じている山道である。

 一直線の登りではなく、ジグザグ道。中腹に2箇所、チェックポイントとしてマーカーが置かれている。

 第1チェックポイントまでは約10キロ。時速30キロほどで駆けるゴーレムたちにとっては20分くらいで着ける距離である。


「お、アーロンも速いな」

 体格から見ると重量級は山道で不利である。その点、中量級ともいうべき『ヒューゲル』と『アーロン』は、軽快に山道を駆け上がっていた。


[ゼッケン1、トップで第1チェックポイントに到着! 赤いマーカーを手にしました! 続くはゼッケン51! 奇しくもゼッケン最小と最大が1、2位です!]

 その後、13、49、31、3、40の順でマーカーを手にした。残るマーカーは13個。

 第2集団を尻目に、7体のゴーレムは山道を駆けていった。


「単純にこれじゃあ面白くないよな? 何か仕掛けがあるんじゃないかな?」

 仁が呟く。

「ジン様、どういうこと?」

 ルビーナがその言葉を聞きつけ、仁に質問した。

「ん? ああ、今のままだと、トップが逃げ切って終わりそうな気がするんだよな。だから、もう少し混戦になるような何かがあるんじゃないかと思ってさ」

「そうですね、ジンさん。……ここなんかどうです?」

 ロードトスもその会話を聞きつけた。

 ボックス席には大会コースの地図も置かれていたのである。

「ええと、なになに……?」

「ほら、この第4チェックポイントの後、第5チェックポイントまでのルートです」

「ああ、なるほど」

 そこは、第5チェックポイントへ向かう道と戻る道が同じであった。

 つまり、先頭・後続が入り乱れる区間であり、しかもそこはバトル可のエリアである。

「ここは確かに混乱しそうだな」

 第5チェックポイントで手にしたマーカーを奪うにはもってこいのエリア。

 そこではまず間違いなく一波乱あるだろう、と仁はロードトスに賛成した。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20190131 修正

(誤)[途中に儲けた5箇所のチェックポイントにあるマーカーを手にしておりませんと不利となります。

(正)[途中に設けた5箇所のチェックポイントにあるマーカーを手にしておりませんと不利となります。


 20210427 修正

(誤)スタートでダッシュを駆けずにマイペースで走っていく。

(正)スタートでダッシュをかけずにマイペースで走っていく。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「王室工房ロイヤルファクトリーというのは、400年程前に当時第3王子だったアーネスト殿下が創設された工房なのですよ」 > ロードトスがこっそり教えてくれた。 あ~、やっぱそういうの作ったん…
[一言]  スタートの場面で、「スタートでダッシュを駆けずに」となっていますが、この場合は「掛けず」にすべきかと思います。  コースの仕掛けの部分で、「第4チェックポイントの後、第5チェックポイントま…
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