47-34 競技スタート
[皆様、長らくお待たせいたしました!]
アナウンスが響き渡った。『拡声の魔導具』によるものだ。
[これより、第155回ゴーレム競技を開催いたします!]
観客席が歓声に包まれる。
「155回か……すごいな」
仁も素直に感心している。
[では、簡単に競技内容をご説明致しましょう。……参加するゴーレムは全部で51体。全て自律型です]
仁たちは内容を聞かされていなかったので、耳をそばだてた。
[およそ100キロメートルの指定コースを走ってゴールする、その速さを競います。ただし!]
アナウンスはここで一息分の溜めを入れた。
[途中に設けた5箇所のチェックポイントにあるマーカーを手にしておりませんと不利となります。1個に付き10ポイントが加算されますから!]
「ほう」
計算方法までは仁たちも聞いていなかった。
[因みに、順位ポイントは1位50点、2位49点、3位48点……そして50位1点、51位0点です]
「……なるほど」
仁は頭の中でポイントを計算してみる。
[極端な例を挙げますと、マーカー0個で1位は50点。マーカー5個で51位は50点となります。……これは極端な例ですが、マーカー4個で1位よりもマーカー5個で5位の方が高得点となるわけですね]
つまり、マーカーの確保が重要ということだ。
[マーカーはポイントごとに色の違う魔結晶を使いますので、1箇所から5個持ち出すことはできません。それは即失格になります]
だろうな、と仁も頷く。
[マーカーの保持は各ゴーレムが工夫して収納場所を設けているかと思われます]
腹部に収納スペースがある者、口から呑み込む者、ベルトポーチのようなものを付けている者などが散見された。
[コースが残り3分の1付近になりますとバトル解禁エリアとなり、他者の持つマーカーを奪う行為も可となります!]
仁たちも残り3分の1からというのは初耳だったが、それはそれで競技を盛り上げるためだろうと納得できた。
[競技の様子は、各所に設置した魔導監視眼、そして魔導監視眼を備えた専用ゴーレムが映像をお届けいたします]
ここでまた拍手が沸いた。
[さあ、いよいよ選手ゴーレムが集合いたしました!]
眼下は整地されたグラウンドのような場所。
そこに、51体のゴーレムが横一線に並んでいる。スタートライン=ゴールラインであるようだ。
ゴーレムなので、直接背中にゼッケンナンバーがペイントされている。
(野球選手みたいだな)
と仁は感想を抱いた。
[……ゼッケン1は魔法技術相、レグレイ・ギブズ・フォン・ベスビアス殿謹製、『ヒューゲル』! 優勝候補であります!!]
「おお、なかなかバランスよさそうだ」
「格好いいです」
『ヒューゲル』は身長2メートル程か。細マッチョといった体形である。
以下、ゼッケン2、3、4と続いて紹介されていくが、仁たちの目を惹く機体はなかなかない。そして。
[……ゼッケン13は、今回初参加のガスレグ・ミヴァス、ゴーレム『ヴィクリー』!]
「お、あれはなかなか。だけどなあ……」
「ごついわね」
「ごついですね」
身長2.5メートル、横幅もそれなり。体形としてはムキムキマッチョといえよう。
だが、力強さと構成素材の上質さはみただけでそれと分かる程だった。
そしてまた、特にこれといったゴーレムはなく。
[……ゼッケン51、今回特別にエントリーされたのはエゲレア王国『王室工房』製、『アーロン』!]
「王室工房というのは、400年程前に当時第3王子だったアーネスト殿下が創設された工房なのですよ」
ロードトスがこっそり教えてくれた。
「あのアーネストが……」
ゴーレム好きだった若き王子を懐かしく思い出した仁であった。
この『アーロン』も、なかなかバランスのいい体形をしていた。
「今回は来賓席ではなく、皇族席に国賓としていらっしゃいますのが第3王子で現王室工房の名誉最高経営責任者、アーネスト17世殿下ですよ」
王室工房の名誉最高経営責任者は代々アーネストを名乗るのだという。
振り向いてそちらを見やると、今のアーネスト17世は、奇しくも14歳くらいの少年だった。
どことなくあのアーネストの面影があるな、と思う仁に気付いたようで、アーネスト17世は小さく手を振った。
仁が驚いたのは、その背後に立つゴーレム。
(ロッテ……?)
ルビーナの先祖、ビーナの面影を写した侍女ゴーレム、ロッテだったのだ。
(元気そうだな。……今の主人も、大事にしてくれているようだ。よかった)
ロッテの外装には傷や錆び一つなく、ぴかぴかに磨かれているし、ちゃんと侍女服を着せてもらっている。その点を見ても、大事にされていることがわかるというものである。
仁は胸の奥が温かくなるのを感じた。
[……さていよいよ、競技開始であります。秒読み開始。10、9、8、7、6、5……]
会場は水を打ったように静まりかえった。
[……3、2……]
ごくりと、誰かが飲んだ唾の音が聞こえた気がした。
[……0! スタートです!]
静寂が大歓声と置き換わり、地響きを立てて51体のゴーレムが走り出した。
[一斉に走り出しました! ああっ、スタート直後の混乱で、3体……いや4体が転倒! それに巻き込まれてさらに2体が転倒しております!]
やはりスタート直後のダンゴ状態は鬼門なのか、計7体が転倒し、遅れを取った。
とはいえ総延長100キロメートルのコースを走り抜くレースでの1分程度は、この先いくらでも取り返しがつくと思われる。
そして、そう考えたらしい5体のゴーレムは、スタートでダッシュをかけずにマイペースで走っていく。その後から転倒した7体が追いかけていった。
そして画面が切り替わる。先頭集団は7体。
ゼッケン1、3、13、31、40、49、51である。
[先頭集団、山道に差し掛かりました!]
バクサ山の山頂まで通じている山道である。
一直線の登りではなく、ジグザグ道。中腹に2箇所、チェックポイントとしてマーカーが置かれている。
第1チェックポイントまでは約10キロ。時速30キロほどで駆けるゴーレムたちにとっては20分くらいで着ける距離である。
「お、アーロンも速いな」
体格から見ると重量級は山道で不利である。その点、中量級ともいうべき『ヒューゲル』と『アーロン』は、軽快に山道を駆け上がっていた。
[ゼッケン1、トップで第1チェックポイントに到着! 赤いマーカーを手にしました! 続くはゼッケン51! 奇しくもゼッケン最小と最大が1、2位です!]
その後、13、49、31、3、40の順でマーカーを手にした。残るマーカーは13個。
第2集団を尻目に、7体のゴーレムは山道を駆けていった。
「単純にこれじゃあ面白くないよな? 何か仕掛けがあるんじゃないかな?」
仁が呟く。
「ジン様、どういうこと?」
ルビーナがその言葉を聞きつけ、仁に質問した。
「ん? ああ、今のままだと、トップが逃げ切って終わりそうな気がするんだよな。だから、もう少し混戦になるような何かがあるんじゃないかと思ってさ」
「そうですね、ジンさん。……ここなんかどうです?」
ロードトスもその会話を聞きつけた。
ボックス席には大会コースの地図も置かれていたのである。
「ええと、なになに……?」
「ほら、この第4チェックポイントの後、第5チェックポイントまでのルートです」
「ああ、なるほど」
そこは、第5チェックポイントへ向かう道と戻る道が同じであった。
つまり、先頭・後続が入り乱れる区間であり、しかもそこはバトル可のエリアである。
「ここは確かに混乱しそうだな」
第5チェックポイントで手にしたマーカーを奪うにはもってこいのエリア。
そこではまず間違いなく一波乱あるだろう、と仁はロードトスに賛成した。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20190131 修正
(誤)[途中に儲けた5箇所のチェックポイントにあるマーカーを手にしておりませんと不利となります。
(正)[途中に設けた5箇所のチェックポイントにあるマーカーを手にしておりませんと不利となります。
20210427 修正
(誤)スタートでダッシュを駆けずにマイペースで走っていく。
(正)スタートでダッシュをかけずにマイペースで走っていく。




