47-22 招待することに
12月12日になった。
仁は、オノゴロ島研究所にある、ルビーナの工房に来ていた。朝食後、半ば強引に引っ張ってこられたのだ。
「ねえジン様、あたしのゴーレムを見て!」
「ん?」
作業台の上には、2体のゴーレムが停止し、横たわっていた。
「一昨日、ジン様の船に乗せてもらって、やっと未熟さを痛感したの。だから、この2人を見て、まずいところを指摘してほしいのよ」
「ほう」
ルビーナが『2体』ではなく『2人』と言ったので、仁は少し感心した。それで、
「わかったわかった。見てやろう」
と、彼女の頭をぽんぽんと叩いて返事をしたのである。
「どれどれ」
軽く分解してあったので、仁は手間を掛けずに内部を確認することができた。
「骨格はステンレス鋼か。ちゃんと関節にはアダマンタイトコーティングしてあるな」
そのあたりは基本をきっちり守っているようだった。
「魔法筋肉は……面白い素材だな」
仁も初めて目にする魔物系素材である。
「それ、『ボウォール』よ」
「ボウォールか! 使ったことなかったから気がつかなかった」
ボウォールは、巨大なクジラのような魔物である。
北の海に住むが、まれに南へ回遊してくる。体長は大きな物で20メートル、通常10メートル。
魔物の中ではおとなしい部類だが、大きな浮遊物を敵と思って体当たりする習性がある。これで船がやられることもある。通常の遊泳速度は時速30キロメートルくらい。
「ああ、自由魔力素濃度分布が補正されたからか」
北方に棲む魔物が南へ進出してくるケースが増えてきているらしい、と仁はシオンだったかロードトスだったかに聞いた覚えがあった。
「で、ボウォールの革……いや、筋肉繊維そのものか」
「うん。オノゴロ島では、これが主流なの」
「なるほど」
『分析』で調べると、『竜頭ウナギ』や『砂虫』の素材以上の効率があることがわかった。
「筋肉そのもの、ということもあるんだろうな」
だが、筋肉は皮革に比べて保存性が悪いはずだ、と仁は指摘した。
ルビーナはそれを肯定する。
「うん、そうなの。1年くらいでボロボロになっちゃうから、その都度交換するのよ」
ボウォール1頭でゴーレム100体分の魔法筋肉が取れるので、そういう使い方ができるのだという。
「確かに、交換しやすそうな取り付け方をしているのもそれで納得だ」
さらに仁は解析を進めていく。
「『魔素変換器』と『魔力炉』の精度と同調が今一つかな」
「……そう?」
「ああ。これだと、変換ロスが少し大きい。……だが10歳でこれだけ作れればたいしたものだ」
自分は……と思い返し、10歳の頃はまだ日本にいて魔法なんて使えなかったことに気がつく仁である。
その他、いくつか細かい点で指摘する箇所はあったが、概ねいい出来だと仁は評した。
「85点ってところだな」
「ありがとう、ジン様。あたしの足りないところが少しわかったわ」
仁から見た場合、やはり『粗い』のだ。だが、仁の持つ円熟さがないのは致し方ない。何せ彼女はまだ10歳なのだから。
「これからたくさん、いろいろなものを作っていけばいいさ」
「うん、頑張る」
ルビーナは仁に見守られながら、2体のゴーレムを再組み立てしていく。もちろん、指摘箇所は手直ししたので、以前より2〜3割性能アップが見込めるようだ。
* * *
「ちょっと思いついたことがあるんだが」
ルビーナのゴーレムをチェックした後、仁は再度トライハルトに相談をしていた。
「昨日のレースの3位までを蓬莱島に一泊二日で連れていってやろうかと思ってる」
「蓬莱島に、ですか?」
「ああ。大勢は無理だから、3位入賞者までということで。どうだろう?」
「すごくいいと思います!!」
トライハルトは賛成……というより、大喜びだった。
「羨ましいくらいですよ!」
「そ、そうか」
希望者全員を連れて行ってやりたいが、大人数になるから、まずは少人数で……ということだ。
* * *
「本当ですか!? あの伝説の蓬莱島へ?」
「行きたいです! 是非!!」
「行く行く行く! 連れてって!!」
案の定、3人共大乗り気だった。
「じゃあ明日、行くから」
「わかりました!!」
一泊なので身の回りの品だけ持っていけばいいと言う仁の声を背中で聞きながら、3人共仕度をしにすっ飛んでいった。
「ゴーレムと自動人形も連れてっていいからなー」
と仁が追加で言うと、
「はーい」
と、遠くから返事がきた。
苦笑した仁は、トライハルトにも、
「お目付役として来てくれるか?」
と聞いたのである。彼が即承諾したのは言うまでもない。
* * *
そして12月13日の『夜』の8時。
『しんかい』経由蓬莱島行きの転移門は既に設置してあったので、それを使って移動だ。
「ふわああ、ここ、何!?」
ルビーナは初めて見る『しんかい』内部に興味津々だが、そうそうゆっくりもしていられないので急かせて蓬莱島への転移門へと向かった。
出た場所は研究所の地下。
「さあ、こっちだ」
仁は先頭に立って一行を案内する。
まずは一旦外へ。
「あれ……あ、そうか」
オノゴロ島は夜の8時だったが、こちらは朝の8時である。
一瞬面食らうルビーナたちだったが、時差を思い出して納得していた。
「なるほど、ジン様が時差ボケ予防に眠くなくても昼寝しておけと仰った理由が実感できます」
ナタリアがうんうんと頷いている。
そして仁は定番の言葉を口にする。
「ようこそ、蓬莱島へ」
いつもお読みいただきありがとうございます。
お知らせ:2017年12月17日昼過ぎまで不在です。
その間レスできませんので御了承ください。
20171217 修正
(誤)だが、仁の持つ円熟差がないのは致し方ない。
(正)だが、仁の持つ円熟さがないのは致し方ない。
(旧)
「筋肉そのもの、ということもあるんだろうな」
(新)
「筋肉そのもの、ということもあるんだろうな」
だが、筋肉は皮革に比べて保存性が悪いはずだ、と仁は指摘した。
ルビーナはそれを肯定する。
「うん、そうなの。1年くらいでボロボロになっちゃうから、その都度交換するのよ」
ボウォール1頭でゴーレム100体分の魔法筋肉が取れるので、そういう使い方ができるのだという。
「確かに、交換しやすそうな取り付け方をしているのもそれで納得だ」
魔物の筋肉をそのまま使うと劣化が早いと書きましたので……orz
20181019 修正
(誤)通常の遊泳速度時速は時速30キロメートルくらい。
(正)通常の遊泳速度は時速30キロメートルくらい。
orz
20200308 修正
(誤)……だが10歳でこれだけだけ作れればたいしたものだ」
(正)……だが10歳でこれだけ作れればたいしたものだ」




