47-17 熱闘
未だにトップはナタリア製作のゼッケン1。
『ゼッケン1、スタートから不動のトップ! 誰にも譲りません!! 猛追する9隻! 面白くなってまいりました!』
ラックハルト・ランドルの、ノリのよいアナウンスが響く。
観客もヒートアップしている。
10隻は今、ジグザグコースに差し掛かっていた。
『2位に迫っていたゼッケン10、少し遅れはじめて4位転落! 代わってゼッケン7、ゼッケン8が上がってきました!』
ゼッケン7はヴェルナー・ランドルのハイドロプレーン、ゼッケン8はフローレンス・ファールハイトの浅底船。
どちらも小回りの効く船体だ。
10Rという小さな半径で繰り返される連続カーブ。
そこでも抜きつ抜かれつのデッドヒートが繰り広げられた。
「あ……?」
画面を見ていたルビーナが呆けたような声を上げた。
ゼッケン10が遅れ始めたのである。
そう半潜水艇であるゼッケン10は、他の船よりも小回りが苦手だったのだ。
その僅かな差が、連続するカーブで現れ、一時3位まで上がった順位を1つ落とし4位に。そして5位にまで転落したのである。
* * *
「やっぱりまだ子供だな。シチュエーションの予測が甘いか」
微笑ましいものを見るような表情で仁が呟いた。
「やっぱり経験不足だなあ……」
もちろん、ルビーナのことである。
* * *
10隻はジグザグを抜けた。続くは短い直線とコーナーの組み合わせ区間である。
『ゼッケン1、不動の首位! 巧みに船を操り、後続に隙を見せません!』
全船、噴射式推進器を使っているため、背後に付くのは不利である。
それを積極的に利用する……抜こうとする後続の前に船尾を移動させることで、ただの邪魔ではなく、噴流による速度低下も見込めるのだ。
『ゼッケン10、6位転落! ゼッケン8、2位に上がりました!』
浅底船は左右への転進が自由自在。それを利用して先行する船の間を縫うようにして、ついに2位にまで上がってきたのである。
* * *
「おお、船の特性を生かしているな」
仁が見たところ、今回のコースに適しているのは2、3、5、7、8。
安定性よりも機動性を重視した船体が有利。
「もう少しで1周か」
仁は、コースを把握した2周目が見物だと思っている。
そして10隻は最終コーナーであるR50へ。
因みに、テクニカルコースの幅は30メートル程度で、3隻並走がやっと。
対して、50Rを抜けたあとの直線は幅200メートルはあり、先行船の噴流を気にしないで済むエリアであった。
『10隻が1周して戻って来ました! トップはゼッケン1! 以下ゼッケン2、3、5と続きます!』
テクニカルエリアでは、仁が思ったような順位になっているようだ。
『そして2周目に突入します! 各船、速度を上げていきます!』
一際大きな水飛沫が上がり、急加速していく船。
観客の声がいっそう高くなる。
ゼッケン1は幅広いコースの真ん中を疾駆していく。
そして後続の船はそれぞれ、先行する船の噴流を受けないようなコースを選んだ。
若干のコース変更で僅かに遅れが生じるが、この先5キロメートルに及ぶ直線コースなら挽回のチャンスは十二分にある。
実際、全力全開以上の出力を絞り出している船もあるようで、7位から10位の船の順位が目まぐるしく入れ替わっている。
『全船、全力全開っ! 激しいデッドヒートが繰り広げられております!! しかし、トップは不動のゼッケン1! 心なしか差が少し開いたか!?』
ゼッケン1は全力で逃げ切る体勢に入った。最高速度は時速130キロメートルを超えている。
それを追う各船もまた、同じくらいの速度を出している。
人が操る船ならば既に危険な速度だが、操船者はゴーレム。恐怖を知らず、人間の数倍の反応速度を持っているのだ。
さらに、出力と船体の挙動を監視する助手もまたゴーレム。
推進器に魔力素を供給している魔力炉や、自由魔力素をその魔力素に変換している魔素変換器の安定度もモニタしている以上、この最高速度は危険なものではない。
2分そこそこで5キロメートルの直線を走破したゼッケン1は、ほとんど速度を落とさずに第1コーナー20Rへと突っ込んだ。
『おお、見事! ゼッケン1、1周目とは比べものにならない速度で第1コーナーをクリアしていきます! そして、続くゼッケン2、3!』
だが。
『い、意外! ゼッケン10が3位に上がっていました!!』
ルビーナの半潜水艇が、この直線で再び挽回していたのである。
その最高速度、実に時速140キロメートル。
観客の目は、画面に釘付けである。
* * *
そして仁も、このレースを楽しんでいた。
「いやあ、妨害が入らないレースってのはいいなあ」
思わずそんなセリフを漏らすと、
「ジン様、妨害が入らない方が普通なのではないでしょうか」
と、右隣のトライハルトからツッコミが入った。
「まあなあ。でも、マルシアとのレースの時はバレンティノの妨害やら凶魔海蛇やらがなあ……」
遠い昔を懐かしむように、苦笑混じりの仁はそう呟いた。
そしてゼッケン10の追い上げを見て、
「ルビーナは、ほんとに惜しいな。経験を積めば、間違いなくもっと伸びると思う」
とも呟いた。
* * *
10隻は大きな弧を描き、第2コーナーである500Rへと突っ込んでいく。
『ゼッケン1、トップは譲らず! 今、先頭で500Rをクリア! 2番手はゼッケン3、そして2、5と続きます!』
この頃になると、第1グループは1、2、3、5の4隻になっていた。4、6、7、8、9はやや遅れている。
この差は船体の形状、完成度、安定度、出力、そして操船などが組み合わさった結果だった。
それぞれの項目の差はほんの僅か。だが、それらを総合してみると、相乗効果といえばいいのか、
それがこの結果に繋がっているのだ。
仁が、観客が、夢中になるわけである。ぶっちぎりのレースなど、ある意味面白味に欠けるのだ。……仁としては耳が痛いだろうが。
この段階では、ルビーナのゼッケン10は海中を進んでいるので何位なのかはっきりしなかった。
10隻は高速エリアから、テクニカルエリアへと向かって行く。
コース幅も狭まっていき、今は50メートルほど。
『さあ、いよいよ面白くなってまいりました!』
第2グループが追い上げに入ったのだ。
『ジグザグコースを見事に抜けていくのは……なんと! ゼッケン10だ!』
ルビーナの作った半潜水艇が、その隠された力を発揮し出したのであった。
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20171212 修正
(誤)対して、50Rを抜けたあとの直線は幅200メ−トルはあり、先行船の噴流を気にしないで済むエリアであった。
しかし、50Rを抜ければ、5キロメートルに及ぶ幅200メートルの直線区間が待っているのだ。
(正)対して、50Rを抜けたあとの直線は幅200メ−トルはあり、先行船の噴流を気にしないで済むエリアであった。
(旧)
仁が、観客が、夢中になるわけである。ぶっちぎりのレースなど、ある意味面白味に欠けるのだ。……仁としては耳が痛いだろうが。
(新)
仁が、観客が、夢中になるわけである。ぶっちぎりのレースなど、ある意味面白味に欠けるのだ。……仁としては耳が痛いだろうが。
この段階では、ルビーナのゼッケン10は海中を進んでいるので何位なのかはっきりしなかった。
20171214 修正
(誤)対して、50Rを抜けたあとの直線は幅200メ−トルはあり、
(正)対して、50Rを抜けたあとの直線は幅200メートルはあり、




