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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
47 オノゴロ島の子孫篇
1736/4289

47-17 熱闘

 未だにトップはナタリア製作のゼッケン1。

『ゼッケン1、スタートから不動のトップ! 誰にも譲りません!! 猛追する9隻! 面白くなってまいりました!』

 ラックハルト・ランドルの、ノリのよいアナウンスが響く。

 観客もヒートアップしている。


 10隻は今、ジグザグコースに差し掛かっていた。

『2位に迫っていたゼッケン10、少し遅れはじめて4位転落! 代わってゼッケン7、ゼッケン8が上がってきました!』


 ゼッケン7はヴェルナー・ランドルのハイドロプレーン、ゼッケン8はフローレンス・ファールハイトの浅底船。

 どちらも小回りの効く船体だ。

 10Rという小さな半径で繰り返される連続カーブ。

 そこでも抜きつ抜かれつのデッドヒートが繰り広げられた。


「あ……?」

 画面を見ていたルビーナが呆けたような声を上げた。

 ゼッケン10が遅れ始めたのである。

 そう半潜水艇であるゼッケン10は、他の船よりも小回りが苦手だったのだ。

 その僅かな差が、連続するカーブで現れ、一時3位まで上がった順位を1つ落とし4位に。そして5位にまで転落したのである。


*   *   *


「やっぱりまだ子供だな。シチュエーションの予測が甘いか」

 微笑ましいものを見るような表情で仁が呟いた。

「やっぱり経験不足だなあ……」

 もちろん、ルビーナのことである。


*   *   *


 10隻はジグザグを抜けた。続くは短い直線とコーナーの組み合わせ区間である。

『ゼッケン1、不動の首位! 巧みに船を操り、後続に隙を見せません!』

 全船、噴射式推進器(ジェットスラスター)を使っているため、背後に付くのは不利である。

 それを積極的に利用する……抜こうとする後続の前に船尾を移動させることで、ただの邪魔ではなく、噴流による速度低下も見込めるのだ。

『ゼッケン10、6位転落! ゼッケン8、2位に上がりました!』

 浅底船は左右への転進が自由自在。それを利用して先行する船の間を縫うようにして、ついに2位にまで上がってきたのである。


*   *   *


「おお、船の特性を生かしているな」

 仁が見たところ、今回のコースに適しているのは2、3、5、7、8。

 安定性よりも機動性を重視した船体が有利。

「もう少しで1周か」

 仁は、コースを把握した2周目が見物みものだと思っている。

 そして10隻は最終コーナーであるR50へ。

 因みに、テクニカルコースの幅は30メートル程度で、3隻並走がやっと。

 対して、50Rを抜けたあとの直線は幅200メートルはあり、先行船の噴流を気にしないで済むエリアであった。


『10隻が1周して戻って来ました! トップはゼッケン1! 以下ゼッケン2、3、5と続きます!』

 テクニカルエリアでは、仁が思ったような順位になっているようだ。

『そして2周目に突入します! 各船、速度を上げていきます!』

 一際大きな水飛沫が上がり、急加速していく船。

 観客の声がいっそう高くなる。

 ゼッケン1は幅広いコースの真ん中を疾駆していく。

 そして後続の船はそれぞれ、先行する船の噴流を受けないようなコースを選んだ。

 若干のコース変更で僅かに遅れが生じるが、この先5キロメートルに及ぶ直線コースなら挽回のチャンスは十二分にある。

 実際、全力全開以上の出力を絞り出している船もあるようで、7位から10位の船の順位が目まぐるしく入れ替わっている。


『全船、全力全開っ! 激しいデッドヒートが繰り広げられております!! しかし、トップは不動のゼッケン1! 心なしか差が少し開いたか!?』

 ゼッケン1は全力で逃げ切る体勢に入った。最高速度は時速130キロメートルを超えている。

 それを追う各船もまた、同じくらいの速度を出している。

 人が操る船ならば既に危険な速度だが、操船者はゴーレム。恐怖を知らず、人間の数倍の反応速度を持っているのだ。

 さらに、出力と船体の挙動を監視する助手もまたゴーレム。

 推進器に魔力素(マナ)を供給している魔力炉(マナドライバー)や、自由魔力素(エーテル)をその魔力素(マナ)に変換している魔素変換器(エーテルコンバーター)の安定度もモニタしている以上、この最高速度は危険なものではない。

 2分そこそこで5キロメートルの直線を走破したゼッケン1は、ほとんど速度を落とさずに第1コーナー20Rへと突っ込んだ。

『おお、見事! ゼッケン1、1周目とは比べものにならない速度で第1コーナーをクリアしていきます! そして、続くゼッケン2、3!』

 だが。

『い、意外! ゼッケン10が3位に上がっていました!!』

 ルビーナの半潜水艇が、この直線で再び挽回していたのである。

 その最高速度、実に時速140キロメートル。

 観客の目は、画面に釘付けである。


*   *   *


 そして仁も、このレースを楽しんでいた。

「いやあ、妨害が入らないレースってのはいいなあ」

 思わずそんなセリフを漏らすと、

「ジン様、妨害が入らない方が普通なのではないでしょうか」

 と、右隣のトライハルトからツッコミが入った。

「まあなあ。でも、マルシアとのレースの時はバレンティノの妨害やら凶魔海蛇(デス・シーサーペント)やらがなあ……」

 遠い昔を懐かしむように、苦笑混じりの仁はそう呟いた。

 そしてゼッケン10の追い上げを見て、

「ルビーナは、ほんとに惜しいな。経験を積めば、間違いなくもっと伸びると思う」

 とも呟いた。


*   *   *


 10隻は大きな弧を描き、第2コーナーである500Rへと突っ込んでいく。

『ゼッケン1、トップは譲らず! 今、先頭で500Rをクリア! 2番手はゼッケン3、そして2、5と続きます!』

 この頃になると、第1グループは1、2、3、5の4隻になっていた。4、6、7、8、9はやや遅れている。

 この差は船体の形状、完成度、安定度、出力、そして操船などが組み合わさった結果だった。

 それぞれの項目の差はほんの僅か。だが、それらを総合してみると、相乗効果といえばいいのか、

 それがこの結果に繋がっているのだ。

 仁が、観客が、夢中になるわけである。ぶっちぎりのレースなど、ある意味面白味に欠けるのだ。……仁としては耳が痛いだろうが。

 この段階では、ルビーナのゼッケン10は海中を進んでいるので何位なのかはっきりしなかった。


 10隻は高速エリアから、テクニカルエリアへと向かって行く。

 コース幅も狭まっていき、今は50メートルほど。

『さあ、いよいよ面白くなってまいりました!』

 第2グループが追い上げに入ったのだ。


『ジグザグコースを見事に抜けていくのは……なんと! ゼッケン10だ!』

 ルビーナの作った半潜水艇が、その隠された力を発揮し出したのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20171212 修正

(誤)対して、50Rを抜けたあとの直線は幅200メ−トルはあり、先行船の噴流を気にしないで済むエリアであった。

 しかし、50Rを抜ければ、5キロメートルに及ぶ幅200メートルの直線区間が待っているのだ。

(正)対して、50Rを抜けたあとの直線は幅200メ−トルはあり、先行船の噴流を気にしないで済むエリアであった。


(旧)

 仁が、観客が、夢中になるわけである。ぶっちぎりのレースなど、ある意味面白味に欠けるのだ。……仁としては耳が痛いだろうが。

(新)

 仁が、観客が、夢中になるわけである。ぶっちぎりのレースなど、ある意味面白味に欠けるのだ。……仁としては耳が痛いだろうが。

 この段階では、ルビーナのゼッケン10は海中を進んでいるので何位なのかはっきりしなかった。


20171214 修正

(誤)対して、50Rを抜けたあとの直線は幅200メ−トルはあり、

(正)対して、50Rを抜けたあとの直線は幅200メートルはあり、

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