47-07 おしおき
一斉に投げた、その数秒後に遙か彼方で水柱が上がった。
「今、ルビーナのゴーレムが投げた岩が着水」
マリッカが解説する。
そしてその数秒後。
「あー……今、『タイタン2』の投げた岩が着水したみたいね。私にもやっとだわ……もう少し飛んだら水平線の向こうになるわね」
結果、仁の勝ち。
「……〜〜〜〜……」
余程悔しいのだろう、何とも言えないような渋い顔をするルビーナ。
「こ、こんどこそ格闘よ! 行きなさい!」
いきなり格闘を命じるルビーナ。
巨大ゴーレムは『タイタン2』に掴み掛かった。
礼子は落ちついて『タイタン2』を操縦。両の手同士でがっちりと受け止めた。
そのまま力比べになる。
「やっちゃいなさい!」
ルビーナが声を上げるが、『タイタン2』はびくともしない。
礼子はちゃんと加減をしているようだな、と仁が思った瞬間。
「おおおお!」
見物していた者たちから歓声が上がり、『タイタン2』はルビーナの巨大ゴーレムをねじ伏せていた。
「…………」
呆然と立ちすくむルビーナ。
その時。
彼女の頭に拳骨が落ちた。
「いった〜い!」
「まったくこの子は!」
ルビーナを叱っているのは、ハンナの祖母、マーサにちょっと似た、恰幅のいい女性だった。
「アマンダ……ほどほどに、ね?」
マリッカが窘めるがアマンダと呼ばれた女性はそのままルビーナを抱え上げると、お尻を持ち上げさせ……。
ぱあん! といい音をさせた。
「いったーい!」
だがアマンダは止まらない。
「まったくこの子は!」
ぱあん!
「いたーい!」
「一人で突っ走って!」
ぱあん!
「はた迷惑というものを考えなさいといつも言ってるでしょう!」
ぱあん!
「ごめんなさい! ごめんなさい! おばあちゃん!」
ぱあん!
「よろしい」
ようやくルビーナが謝ったので、アマンダもお尻を叩く手を止めた。
「ご先祖様、申し訳ありません。孫が失礼しました」
アマンダが頭を下げる。
髪の色はルビーナと同じ赤毛だが、目の色はグレイ。雰囲気はマーサとミーネを足して2で割ったような感じだ。
「おしりいたいよー」
べそべそと泣いているあたり、年相応だなあと仁は思い、
「そのくらいにしてやってください」
とアマンダを宥めることに。
そしてしゃくり上げるルビーナに、
「もうこんなことしないな?」
と聞くと、
「……うん」
と泣きながら頷いたので、
「よしよし……『治療』」
と治癒魔法を掛けてやった仁である。
「ご先祖様はお優しくていらっしゃいますねえ」
とアマンダに言われてしまう仁。
「女の子が泣いているのって黙って見ていられないんだよ」
優しいと言うより甘い仁である。
「くすん……」
「ほら、もう泣くな」
「……」
さっきまで仁に突っかかっていたルビーナであるが、今は仁にしがみついてぐずっている。
ほとんど無傷の巨大ゴーレムを立たせた後に『タイタン2』から降りてきた礼子は苦笑いしてそれを見ていた。
「礼子、ご苦労さん」
仁は礼子を労った。
そんな仁にアマンダが頭を下げた。
「済みません、ご先祖様。この子は確かに天才だとは思うんですが、周りがちょっとちやほやしたらいい気になって……今日のことは薬ですよ」
本当に済まなそうなアマンダ。
「今日だって、ちょっと目を離した隙にゴーレムを連れていなくなっていたから……まあ、びっくりしました」
仁はしがみつくルビーナの頭を撫でた。
「……もうするなよ?」
「……うん」
アマンダに叱られ、大泣きしたことで却って落ちついたのか、ルビーナは少し素直になったようだ。
「それじゃあ、戻ろうか」
* * *
とんだ闖入者が入った懇談会は、1時間遅れで始まった。
せっかくなのでルビーナとアマンダも参加している。
「こうなったからには、まずはビーナの話から始めようか」
と切り出す仁。
ルビーナはなぜか仁の膝に座り、目を輝かせて聞く気満々だ。
「ビーナが住んでいたのはエゲレア王国のブルーランドで……」
仁は語り始めた。
「……初めて出会ったのは城外の露店だったな。彼女は病気の弟妹のために露店で魔導具を売ろうとしていたんだが、その当時はまだ腕がよくなくてね」
仁はちょっと躊躇った後、
「俺はその並べた魔導具を見て、『なんか、しょぼいな』って口にしたんだよな」
と、仁は頭を掻きながら言った。
「ああ、なんだか聞いたことがあります」
と、アマンダ。彼女もビーナの血を引いているのだ。
「それでちょっとした諍いになってな……まあ、その結果、俺はビーナの手伝いをすることにしたわけだ」
「そのちょっとしたこと、聞かせて」
ルビーナがせがんだ。他の者たちも聞きたそうな顔をしている。
そもそも大きなエピソードの間に挟まる小さな出来事の方が、往々にして聞いていて面白いものなのだ。
「え……ええとな、『悪気はなかった、思ったことを口にしただけ』、と言ったらさらに怒り出してな……確か、礼子が火に油を注ぐようなことを言ったんだ」
「はい。『本当のことを言って何が悪いのですか』と言いましたね。そうしたらビーナさんが『買う人が減るじゃない』と怒ったので、『元々買う人がいないのだからこれ以上減ることはない』と……」
皆、苦笑しながら聞いている。
「……そうしたら、ついに切れたビーナが『麻痺の杖』と言ったかな? ……で殴りかかってきたので……」
「私がそれを奪い取りまして、半分に折りました」
やはりこういう話の方がうけるようで、全員興味津々で耳を傾けていたのである。
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