46-26 アヴァロンにて
「まあ、これが最善じゃないんだろうけどな」
蓬莱島の司令室では、仁がほっと溜め息をついていた。
『それでも、世界を襲った危機は、御主人様のお働きで回避されたわけです』
老君が仁を称えた。
「大したことをしたわけじゃないし、あまり自覚もないんだがな」
『それでも、です。このようなことがおできになったのは御主人様だけだったのですから』
「そんなもんか」
「お父さま、ただいま戻りました」
そこへ礼子が帰って来た。
『ペガサス2』に備え付けてある転移門で一足先に戻ってきたのだ。
その『ペガサス2』は、ホープによる操縦で、蓬莱島を目指していた。
超音速で飛行しているのでじきに戻るだろう。
「お帰り、礼子。ご苦労さん」
ミニ礼子が仁の膝から立ち上がり、ひとっ飛びに礼子の肩の上に飛び乗った。
「では、着替えてまいります」
ミニ礼子を肩に乗せ、礼子は奥へと引っ込んだ。そして1分ほどで戻ってくる。
鉢金をはじめとした武装を解いていつもの出で立ち、エプロンドレスだ。
「お父さま、お疲れではないですか?」
マルキタス騒ぎが起きてから6時間以上、仁は司令室に詰めっぱなしであった。
「そういえば、腹が減ったな」
「ソレイユとルーナがお食事の仕度を調えております。どうぞ行ってらしてください」
仁は席を立ち上がって背伸びをした。
「ああ、そうさせてもらおう」
そして食堂へと向かった。当然、礼子は付いていく。
仁と礼子を見送った老君は、これからの処理を考え始めた。
『今の御主人様は、以前にも増して目立ちたくないとお考えのようですね』
その証拠に、『ヘール移住計画』なるものを考えているほどである。
『今回の騒動を取り纏めたのは『デウス・エクス・マキナ三世』としましょうか。……従騎士レイは自動人形であると宣言することで昔どおりの容姿でも構わないでしょうし』
さらに、
『ロードトスさんの方は上手くやっていますかね』
* * *
第二次『仁ファミリー』のメンバー、『傀儡』のロードトスは今、『アヴァロン』にいた。
「お久しぶりねえ、トマックス」
そして『森羅』のマリッカも一緒だった。
「これは、せ、先生!」
マリッカは20年程前にこの『アヴァロン』で講師を務めていたこともあり、アヴァロン最高管理官のトマックス・バートマンは当時の教え子であった。
「本日はいったい、どんな御用で?」
「今、緊急を要する問題といったら一つしかないでしょう?」
「や、やはりパンドア大陸の?」
「そうです」
現在の時刻は午後5時。パンドア大陸とはおよそー11時間の時差があるので現地は午前6時頃のことである。
因みに、日付変更線は『大東洋』と呼ばれる、ラシール大陸とローレン大陸間の海……要は崑崙島に引かれている。
「一部隊が向かったようですが、相手はギジェルモ・マルキタス。敵うはずもありません」
マリッカの断定に、トマックス・バートマンは狼狽した。
「え!? そ、それは……」
そんなトマックスに、マリッカはにこりと笑いかける。
「落ちつきなさい、トマックス。30年経ってもそんなところは変わっていませんね」
「……は、はい、先生」
「『デウス・エクス・マキナ』が出動していますから大丈夫ですよ。現に、敵ゴーレム部隊はほぼ壊滅したようです」
「ほ、本当ですか! ……デウス・エクス・マキナ!? と、特別顧問の?」
「ここ数十年……いえ、100年くらい姿を現していませんでしたっけ? ええ、『その』デウス・エクス・マキナですよ」
「ほ、本人なのですか?」
再びマリッカは微笑む。
「そんな声が出るだろうと思って私が来たのです」
マリッカは『アヴァロン』創設者の一人であり、創成期から知っている数少ない生き証人であった。
「もうしばらくすれば、デウス・エクス・マキナがやって来るでしょうから、私から紹介します」
「え、ええと、ほ、本当に!? お、おいくつになるんです?」
その言葉でマリッカは、トマックス・バートマンが何を言いたいのかを察した。
「ああ、そういうことですか。もちろん、初代ではなく、3代目になりますね」
世襲制ではなく、能力で引き継ぐ、とマリッカは説明した。
「従騎士レイは自動人形ですので昔と変わってはいませんけどね」
「……そうなのですか」
そして、ようやく落ち着きを取り戻したトマックスを交えて、今後についての相談が始まった。
「むしろ、被害を受けたメルカーナ公国への支援と、この機会に『世界会議』への加盟を勧めるというのはどうでしょうね?」
「おお、先生、それはいい考えです。さっそく会議に諮り、手配します」
トマックスは独裁者ではない。『アヴァロン』は議会制なのだ。
マリッカはそうしてください、と頷いて見せた。そして傍らに控えるロードトスに話し掛ける。
「ロードトス、あなたはメルカーナ公国に何人か知り合いがいましたね」
「はい、マリッカ様」
「『アヴァロン』からの支援部隊と共に行き、説得に協力しなさい」
「わかりました」
* * *
『マリッカさんにお任せしておけば大丈夫でしょう』
『アヴァロン』の方は様子見であると老君は結論づけた。
『あとは御主人様のお知り合いをどうするかですね……御主人様はどうお考えになっていらっしゃるのでしょう』
その仁は、食堂にいた。
蓬莱島は真夜中、ゆえに消化のよい献立となっていた。
「このおじやはいい味だなあ」
仁が褒めると、ルーナが恐縮した。
「おそれいります」
「こっちの漬け物も美味いよ」
「ありがとうございます」
ソレイユも頭を下げた。
「お父さま、お茶をどうぞ」
そこへ礼子がほうじ茶を差し出す。もちろん、猫舌の仁にとって飲み頃に冷ましたものだ。
「ああ、美味い」
おじやを食べ終え、漬け物を齧りながらほうじ茶を飲む仁。
(……エイラやカチェアはこれからどうするんだろうなあ……)
老君が気を回していたように、仁自身もメルカーナ公国の知り合いに対してどうすべきか迷っていたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20171121 修正
(旧)
その『ペガサス2』は、ホープによる操縦で、仁の『分身人形』を乗せてアスール湖の浮沈基地を目指していた。
そこの巨大転移門を使えば、より早く帰還できるのだ。
(新)
その『ペガサス2』は、ホープによる操縦で、蓬莱島を目指していた。
超音速で飛行しているのでじきに戻るだろう。
位置的にアスール湖回ったら遠かったです
(旧)因みに、日付変更線は『大東洋』と呼ばれる、パンドア大陸とローレン大陸間の海に引かれている。
(新)因みに、日付変更線は『大東洋』と呼ばれる、ラシール大陸とローレン大陸間の海……要は崑崙島に引かれている。
(誤)『今回の騒動を取り纏めたのは『デウス・エクス・マキナ三世』としましょうか・……
(正)『今回の騒動を取り纏めたのは『デウス・エクス・マキナ三世』としましょうか。……
20220222 修正
(誤)「あとは御主人様のお知り合いをどうするかですね……御主人様はどうお考えになっていらっしゃるのでしょう」
(正)『あとは御主人様のお知り合いをどうするかですね……御主人様はどうお考えになっていらっしゃるのでしょう』




