46-15 漆黒
『互角のようですね』
「そうだな。……あのエレナと互角とは、やはり『始祖』のゴーレムはさすがというべきか」
蓬莱島では、仁が魔導投影窓を見つめ、唸っていた。
『始祖』は戦闘を嫌う種族である。ゆえに戦闘用ゴーレムは作らなかった。単なる『サポート用ゴーレム』でこの性能なのだ。
「こっちの準備はどうだ?」
『はい、御主人様。『ペガサス2』、あと30秒で現場に到着します』
『ペガサス2』の操縦はもちろんホープである。
「よし」
現場到着後、転移門で『分身人形』をペガサス2に送り込めば、こちらの準備は完了だ。
「通常レベルの敵なら任せておこうと思ったが、『始祖』の技術まで出てきたらこっちの出番だよな」
『御主人様の『分身人形』、準備完了』
「よし。……礼子、おまえはどうする?」
蓬莱島で仁のそばにいるのか、それとも『分身人形』と共に出撃するのか、と仁は尋ねた。
「出撃します」
間髪入れず、礼子が答えた。
「代わりにこの子を置いていきます」
「え?」
礼子は、身長30センチほどの自動人形を差し出した。礼子そっくりである。
「これは?」
「ミニ礼子、とお父さまは呼んでいらっしゃいました」
「呼んでいた、ということは、400年前の俺が作ったんだな?」
「はい」
先日、400年前に帰った仁が、帰還後に作ったのならこちらの仁は知らないのも道理である。
「こういう時にお父さまのおそばに置いていただければ」
『お父さま、よろしくお願いします』
「お、喋れるのか?」
礼子は頷いた。
「はい。この子は、わたくしの『小型分身人形』とでも申しましょうか、わたくしが遠隔操作できるのです」
「へえ……俺も面白いもの作ったんだな」
この大きさなら、手荷物の中にも潜り込める、と礼子は言う。
「なるほど、さすが俺」
これも自画自賛というのか、変な感心の仕方をした仁であった。
「それはいいが、礼子にも防具を着けさせてやりたいな」
世界最高レベルの強度と耐久性を誇る素材でできている礼子であるが、仁としては戦場へ向かわせるなら防具を、と考えたのだ。
昔、作ったことはあるが、礼子自身の性能が高すぎて一度使ったきりなのである。
「それも、以前お父さまが作り直してくださいました」
胸当てと籠手、脛当て、それに『鉢金』と呼ばれる、額周りを保護する鉢巻状の防具を、礼子は取り出して見せた。
エプロンドレスとのバランスもまあまあ悪くない。……ように見える。
まあ、どっちも仁であるから、デザインセンスは同じだ。
「400年前の俺か……よくやった!」
そして、礼子は防具を装備し、愛刀『桃花』を背負った。
「では、行ってまいります」
「ああ、気を付けてな」
仁の『分身人形』と礼子は転移門で『ペガサス2』へと移動した。
* * *
「まだ真っ暗だな」
「ですが、東の空がうっすらと明るくなってきています」
操縦士のホープが答えた。
蓬莱島とパンドア大陸の時差は6時間前後。こちらは午前5時くらいだろうか。
「お父さま、下方にノリジ湖、見えます。わたくしはエレナの支援を行い、それからマルキタスの基地へ向かおうかと思います」
「わかった」
そして礼子は『ペガサス2』から飛び降りた。
50メートルほどの高度からこともなげに着地した礼子は、即座にエレナが戦っている方角へ最短距離で掛けだした。出力は10パーセント。
最短距離、すなわち直線。行く手を阻む敵ゴーレムは跳ね飛ばした。
エレナとサポート用ゴーレムの元に駆けつける。
とりあえず、エレナを取り囲んでいた敵ゴーレムの大半をはね除けておくことにした礼子であった。
* * *
エレナとサポート用ゴーレムの戦いは膠着状態が続いていた。
エレナの剣も、サポート用ゴーレムのメイスもぼろぼろである。
そして共に、浅い傷を全身に負っていた。
〈この時代にも優れた技術者がいるのですね〉
一旦距離を取ったサポート用ゴーレムが、エレナを窺うように口を開いた。
「いつまでもそういう上から目線でいると、足下を掬われますよ?」
エレナが嗤う。
〈それは仕方がないのです。私はこういう風に作られたのですから〉
サポート用ゴーレムはメイスを風車の如く振り回し始めた。速度を乗せた一撃を叩き込む気なのは明白だ。
〈そろそろ決着をつけましょうか〉
(あれを受けたら無事ではいられませんね……)
消耗した剣で受け流すことも危険だ。かわす以外の選択肢はない。
人間が振り回すのなら隙もできるが、サポート用ゴーレムの振り回す速度は尋常ではない。
それはまさに物理的な結界ともいえる。
〈行きますよ!〉
サポート用ゴーレムはメイスを振り回しつつ踏み込んできた。エレナは一歩……いや、三歩下がる。
メイスの風圧でエレナの金色の髪がなびいた。
(このままではまずいですね……)
後退しながら、エレナは打開策を考える。だが、この場でいい手は浮かばなかった。
(せめてもっと狭い場所なら)
だが、ここはノリジ湖畔、平原である。
(そうだ、足下の悪い場所なら)
ぬかるんだ湿地なら、体重の重いサポート用ゴーレムの方が不利だろうと、エレナは湖側へと退避する。だが。
〈その方法は通用しませんよ〉
エレナの背後から、敵戦闘用ゴーレムが襲いかかった。仕方なくエレナは湖と反対側へ向かわざるを得なかった。
〈これは一対一の戦いではありませんしね〉
(……厳しくなってきましたね……)
戦闘用ゴーレム3体とサポート用ゴーレム、計4体がエレナに襲いかかった。
戦闘用ゴーレムの方は問題なく凌げるのだが、そちらにかまけているとサポート用ゴーレムのメイスが迫ってくるのだ。
一度、エレナがかわしたメイスが、戦闘用ゴーレムの頭部にかすった。と、そのゴーレムは頭部をひしゃげさせて吹き飛んだのである。
(あんな目には遭いたくないですね……)
敵戦闘用ゴーレムは2体に減ったが、エレナはメイスを避けることに専念することにした。
(うまくあのメイスを敵ゴーレムに当てるように誘導していけば勝機はありそうね)
敵戦闘用ゴーレムの数を減らし、同時に敵の武器を消耗させる。エレナが取ったのはそういう戦法だった。
それはそこそこうまくいき、まとわりつく残った敵戦闘用ゴーレム2体も排除することができた。
〈なかなかやりますね〉
メイスを振り回すことはやめずにサポート用ゴーレムがエレナに言った。
〈ですが、ここまでです〉
エレナの背後には、新たに5体の敵戦闘用ゴーレムが立っていたのである。
前に出ればメイスの餌食になる。後ろに下がれば戦闘用ゴーレムにつかまる。左右も同様。
〈これで終わりです〉
サポート用ゴーレムはエレナ目掛けメイスを叩き付けた。
そしてぐしゃりと鈍い金属音が響き……。
ひしゃげたメイスは砕け散り、また5体の戦闘用ゴーレムも吹き飛んでいた。
「あなたは……」
「エレナさん、こういう輩の相手は、わたくしにお任せなさい」
『漆黒の破壊姫』が戦場に降臨したのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20171110 修正
(誤)「それも、以前お父さまが作ってくだいました」
(正)「それも、以前お父さまが作ってくださいました」
orz
20181113 修正
(旧)
「それも、以前お父さまが作ってくださいました」
胸当てと籠手、脛当て、それに『鉢金』と呼ばれる、額周りを保護する鉢巻状の防具を、礼子は取りだして見せた。
(新)
昔、作ったことはあるが、礼子自身の性能が高すぎて結局使わなかったのであるが。
「それも、以前お父さまが作り直してくださいました」
胸当てと籠手、脛当て、それに『鉢金』と呼ばれる、額周りを保護する鉢巻状の防具を、礼子は取り出して見せた。
20200615 修正
(誤)一旦距離を取ったサポート用ゴーレムが、エレナを伺うように口を開いた。
(正)一旦距離を取ったサポート用ゴーレムが、エレナを窺うように口を開いた。
20210424 修正
(誤)速度を載せた一撃を叩き込む気なのは明白だ。
(正)速度を乗せた一撃を叩き込む気なのは明白だ。
20240726 修正
(誤)昔、作ったことはあるが、礼子自身の性能が高すぎて結局使わなかったのであるが。
(正)昔、作ったことはあるが、礼子自身の性能が高すぎて一度使ったきりなのである。




