46-14 互角
「エレナが出て来たか!」
遺跡基地内で魔導投影窓を見ていたギジェルモ・マルキタスはほくそ笑んだ。
「奴なら『魔力模倣機』で操り人形にできる。……まあ、様子を見てみるか」
ノリジ湖畔に広がる草原にはゴーレムが集結しつつあった。
片やギジェルモ・マルキタスの戦闘用ゴーレム169体とサポート用ゴーレム1体。片や懐古党の新型戦闘用ゴーレム30体、そしてエレナ。
これらは、撮影用に放った専用の飛翔船から送られてくるのだ。これもまたサポート用ゴーレムの采配であった。
そして『魔力模倣機』が懐古党の新型戦闘用ゴーレムに向けて放たれた。
だが、
「やはり効かないか」
その様子を魔導投影窓で確認し、納得する様に頷くギジェルモ・マルキタス。
そして戦闘が開始された。
5倍以上の戦力差であるが、そこそこの質を数多く揃えたマルキタス側と、量より質の懐古党側。
まあ、懐古党側は、『魔力模倣機』対策をしたゴーレムをそれだけしか揃えられなかったということが大きい。
因みに、懐古党の『魔力模倣機』対策とは、『変調』といえばいいのか。
要は、1体1体、全てのゴーレムの基礎魔力波形を変えてしまうのである。
これにより、『魔力模倣機』を使っても、1体しか支配できないことになる。
そして『魔力模倣機』の波形を変えると、支配したゴーレムは復帰してしまうというわけだ。
それ以前に、魔力波形が読み取りづらくなっていた。
「『魔力模倣機』の特性を見抜いたな。まあ、物質に頼る以上、それくらいはしてくるだろう」
ギジェルモ・マルキタスは負け惜しみとも取れる言葉を呟いた。
マルキタス側と懐古党側のゴーレムは本格的な戦闘に突入した。
性能は懐古党側のゴーレムの方が上。おおよそ2倍の性能。
数はマルキタス側のゴーレムの方が上。その比率、5.63倍。
戦力比でいえば、懐古党側の方が不利にみえる。単純計算では、2倍の性能では3体同時に掛かってこられたら敵わないだろうからだ。
だが。
それなら、いっぺんに3体以上相手にしなければいい。
2倍の性能を生かし、個別撃破していく懐古党側のゴーレム。
判断力も上なのでこういった戦法が採れるのだ。
対するマルキタス側のゴーレムは、そうはいかない。分断され攪乱されて、組織だった行動を取れなくなっていた。そこを各個撃破されていく。
「いまのところはうまくやっているようだな……だが、エレナ様は……?」
ワッテス・シュレッツァは空中から見下ろしながら、エレナの心配をしていた。
そのエレナは、戦場を縦横無尽に駆け回っていた。
新しくなった愛剣を手に、敵ゴーレムを攪乱していく。その姿はかつての『黄金の破壊姫』そのものだった。
「まだまだ! ほらほら、こっちよ!」
風のように敵ゴーレムの間を縫うように移動し、膝関節を攻撃していく。
それだけで覿面に動きが鈍くなるのは、骨格を重要視していない量産型ゆえだ。
マルキタス側のゴーレムは、外装である鎧にも体を支える役目を持たせていた。
現代日本の航空機で言う『セミモノコック構造』に近いものがある。
万全な時には十分な強度を持ち、同時に構造の単純化、そして軽量化が期待できるが、部分的に破損してしまうとその影響は全体に及んでしまうのだ。
膝関節を破壊された外装は、反対側からの張力によりバランスが崩れてしまうのである。
結果、関節部の摩擦が増え、動作効率がコンマ数パーセント低下する。少ないと思うなかれ、破壊された膝関節の影響もあって、最早脅威ではなくなるのだ。
そうして、およそ100体を『処理』したエレナであったが。
「!?」
突然、彼女の剣が止められた。
瞬時にエレナは飛び退く。一瞬遅れて、彼女がいた場所にメイスが叩き付けられた。
「新型ですか?」
エレナの前に現れたのは『サポート用ゴーレム』であった。彼女にとっては初めて見る相手である。
ごつい戦闘用ゴーレムとは違い、身長は170センチほどで、ボディラインは人間に近い。
そこへ、懐古党のゴーレムが飛びかかった。
だが、サポート用ゴーレムは軽くかわし、手にしたメイスを懐古党のゴーレムに叩き込んだ。
後頭部に一撃を受けたゴーレムは頭部をひしゃげさせ、行動不能になる。
「なかなかの高性能ですね」
エレナは、こいつは私が相手します、と周囲にいた懐古党側のゴーレムに告げた。
〈なるほど、賢明ですね〉
「喋れるのね? あなたはギジェルモ・マルキタスが作ったゴーレムではないでしょう?」
〈ええ。私はサポート用ゴーレム。マルキタス様に仕えてはいますが、私を作ったのは始祖と呼ばれる人々です〉
「始祖ですって?」
当然、エレナもその呼称は知っていた。
「……これは、強敵かも知れませんね」
エレナは慎重にいくことにした。
ただ、相手はメイスを持っている。威力は高いが、エレナの速度を以てすればかわすことはできる。
いかに自分はダメージを受けずに、相手にダメージを与えるか。それが問題だった。
〈ではまいりますよ〉
サポート用ゴーレムの方から先に攻撃を仕掛けてきた。メイスによる横薙ぎだ。
エレナは体勢を低くしてそれをかわす。ジャンプしたのでは、空中にいる所を攻撃されたが最後、逃げようがないからだ。
体勢を低くしたエレナは、そのまま剣でサポート用ゴーレムの足首を狙った。
だが、サポート用ゴーレムは素早く後退し、その剣閃をかわした。
「手強いですね」
エレナは今、仁に改造してもらった出力の80パーセントを使っていた。
「では、本気でいきます」
それを100パーセントまで引き上げたのだ。
なぜ躊躇っていたのかというと、一般的な魔導機は、100パーセントの出力を長時間発揮した場合、その反動でガタが来たり、オーバーヒートを起こしたりするケースが多いからだ。
仁の場合はそれに当てはまらないのだが、これまでの経験がエレナに100パーセントの出力を出すのを躊躇わせていたのであった。
「——!」
声を発することなく……エレナは自動人形なので気合いや息吹といった呼吸法とは無縁なのだが……振り抜かれた剣。
それは、サポート用ゴーレムが持っていたメイスの柄に半ばまで食い込んだのだった。
〈驚くべき性能ですね。あなたを作ったのは『デウス・エクス・マキナ』という人物なのですか?〉
「いいえ、違います」
そんな会話を交わしながらも、2体の攻防は衰えを見せないどころか、激しさを増していく。
サポート用ゴーレムは、もはやエレナの剣を受け止めることはせずに受け流しているし、100パーセントの出力を発揮したエレナは速度において優位に立っているため、余裕で敵の攻撃をかわせるようになった。
〈確かにあなたはマルキタス様が敵視するだけのことはある〉
「それはどうも、ありがとうございます」
さらに加速する攻防。
エレナは剣、サポート用ゴーレムはメイス。
一撃一撃は軽くても、速さと手数で攻めるエレナ。
速さを犠牲にしているが、一撃の威力に勝るサポート用ゴーレム。
戦場の一角では、互角の戦いが続いていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20171109 修正
(誤)これらは、撮影用に放った専用の飛翔機から送られてくるのだ。
(正)これらは、撮影用に放った専用の飛翔船から送られてくるのだ。
20171214 修正
(誤)ノリジ湖畔に広がる草原にはゴーレムが終結しつつあった。
(正)ノリジ湖畔に広がる草原にはゴーレムが集結しつつあった。
終わってどうする orz




