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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
45 あの人は今篇
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45-18 マルシア その4

凶魔海蛇(デス・シーサーペント)の巡航速度は時速30キロくらいなのか……」

 上空から追跡する『コンロン3』の中で、マルシアは凶魔海蛇(デス・シーサーペント)の観察をしていた。

「思ったとおり、小回りは利きそうもないね」

「ああ。だが、奴らは瀕死になると『大津波(タイダルウエイブ)』を使うから、倒すなら一気にやる必要がある」

 仁がそんな説明をしているうちに、『コンロン3』は凶魔海蛇(デス・シーサーペント)の真上に来た。

「奴らは雷属性に弱い。だけど、海の中では効果が弱まるから、中級以上の魔法を選ぶか、ピンポイントで狙うかする必要がある」

 そう前置いて、

「礼子、『雷撃(サンダージャベリン)』だ」

「はい、お父さま」

 『コンロン3』船室キャビン床の非常ハッチを開いた礼子は、真下の凶魔海蛇(デス・シーサーペント)を目掛け、雷撃(サンダージャベリン)を放った。

「『雷撃(サンダージャベリン)』『雷撃(サンダージャベリン)』」

 雷撃(サンダージャベリン)は雷属性魔法上級の中。対象に真っ直ぐ向かう雷を放つ魔法だ。その速度はおおよそ秒速200キロメートル。これは実際の雷のステップトリーダーレベルである。

 それは狙い過たず凶魔海蛇(デス・シーサーペント)に命中。高電圧に撃たれた2匹は動きを止める。

 気絶もしくは麻痺するが、絶命させるには至らない。

 海中にいるので電撃の大半が海水という導体に逃げるからである。音響爆弾(ソニックボム)などで海上におびき出せばまた話は違ってくるが。

 とはいえ、礼子が『本気』で雷撃(サンダージャベリン)を放てば、凶魔海蛇(デス・シーサーペント)を黒こげにもできるのだが、通常は仁の指示で魔力反応炉(マギリアクター)の出力を3パーセントに抑えているので、魔法の威力もそれに見合っただけしか出ない。およそ中の上クラスの魔導士レベルと言えよう。


「だが効果は短い。じきに動き出す。その前に攻撃する必要がある。ああしてぷかぷか浮いているなら火属性魔法だな。……礼子!」

「はい、お父さま。……『炎の槍(フレイムランス)』『炎の槍(フレイムランス)』!」

 炎の槍(フレイムランス)は火属性魔法上級の下。槍状の炎を発射する魔法である。距離に反比例して威力は弱くなるので近づいて放った方が効果が高い。なので『コンロン3』は高度を30メートルまで落としていた。


「見てのとおり、動かない相手なら『炎の槍(フレイムランス)』で十分仕留められる。ご苦労さん、礼子」

「いえ」

「ジン、参考になったよ。ありがとう」

「……」

 あまりと言えばあまりの手際のよさに、ドルーセンは言葉もないようだった。

「さあエドガー、助けに行こう」

「はい、ジン様」

 『コンロン3』は回れ右。再びトリュ島を目指した。

 浮かんでいる凶魔海蛇(デス・シーサーペント)は後回しだ。日没が迫る今、救出の方が優先される。


 日没前に『コンロン3』はトリュ島に到着した。

「あ、あそこに!」

 マルシアが指差す方に、船の破片が浮いていた。

「ここで船がやられたとするなら、逃げた乗員もこのあたりにいるはずだ」

 トリュ島の大半はびっしりと木が生い茂った密林状態。

 避難した人たちは奥までは行かないだろうが、海岸に留まっているとも思えない。

「ここは呼び掛けた方がいいな」

 仁はそう判断し、『拡声の魔導具(ラウドスピーカー)』を起動した。

「ドルーセンさん、貴方から呼び掛けてください。……ドルーセンさん?」

「あ、ああ、済みません。ちょっと放心してました」

 頭を掻きながら、ドルーセンは拡声の魔導具(ラウドスピーカー)への入力側に口を近づけた。


[こちらはポトロック沿岸警備隊だ! 凶魔海蛇(デス・シーサーペント)の脅威は去った! 救助するから出てきてくれ!]

 同じことを3度繰り返すと、しばらく待とう、と言って入力側から顔を離した。

「お父さま、人です」

 5分くらいの後、薄暗くなった海岸に人影が4つ現れた。

「よし、『光の玉(ライトボール)』」

 仁が明かりを灯すと、人影がくっきりと照らされ、表情までわかるようになった。

「間違いなさそうだ。だが、なぜ4人なんだろう?」

「いえ、もう1人いますよ」

 ドルーセンの言葉に、礼子が異を唱えた。

「もう1人は真ん中の人が背負っています」

「怪我でもしたんだろうか?」

 そう言っている間にも『コンロン3』は高度を下げていく。

「海岸は狭いな。着陸できそうもないか……どうするかな」

 『コンロン3』は救助用ではないので、ウインチやホイストといった救助用器具は積んでいない。

「よし、ロープを垂らして引き上げよう」

 考えた末、仁の出した結論はそれであった。

 係留する他、いろいろな用途があるため、ロープは標準装備である。

 仁はそれをちょいと加工して先端を輪にした。

「エドガー、できる限り高度を落とせ。そうしたら『力場発生器フォースジェネレーター』を使って位置を固定しろ」

「わかりました」

 ドルーセンには聞こえない程度の声でやり取りをする仁とエドガー。

 最終的に、エドガーは『コンロン3』を高度3メートルまで降下させた。


「よし、十分だ」

 仁は床の非常用ハッチを開き、そこから先程のロープを垂らす。

 ロープを操っているのは礼子だ。

「1人ずつ、それに足を掛けて掴まれ!」

 この距離なら肉声が届く。4人はすぐに反応した。

「わかりました!」

「助かった!」

 輪になった部分に足をかけ、ロープを掴んだ男1人を、礼子は易々と引き上げる。

 それを4回。4回目は、怪我人を担いだ男だった。

「船を壊された時に破片が頭にぶつかったようなんです」

 同僚が説明をした。


「礼子、頼む」

「はい、お父さま。……『診察(ディアグノーゼ)』」

 エルザが使うショウロ皇国式の詠唱で診察する礼子。

「大丈夫です。脳や内臓に損傷はありません。ただ気絶しているだけです」

「そうか、それならよかった。……よし、エドガー、ポトロックへ戻るぞ!」

「はい、ジン様」

 『コンロン3』は高度を30メートルまで上げ、ポトロックを目指す。助けられた4人はその速度に目を丸くする。

「す、すげえ!」

「空をこんな速さで飛べるのか!」

「いったいこの乗り物はなんなんだ?」

 そんな彼等に説明したのはマルシアだった。

「ゴドノーフさん、彼は世界でただ1人の『魔法工学師マギクラフト・マイスター』にして『崑崙君』、ジン・ニドー殿ですよ。この乗り物は彼が作った飛行船、『コンロン3』です」

「ああ、誰かと思ったらマルシアじゃないか。『魔法工学師マギクラフト・マイスター』? あの有名な? そんな人が俺等を助けてくれたのか……」

 仁も今ではかなりの有名人になっていた。

「運がよかったよ、ゴドノーフさんたちは。たまたまジンが来ていたからよかったんだ」

「ああ、まったくだ。ジンさん、感謝しますぜ」

 助けられた5人を代表してゴドノーフが頭を下げた。

「私からもお礼を言わせてください、ジン殿」

「いえ、できることをしたまでですよ」

 仁は頭を掻きながらそれを受けたのだった。


 因みに、退治された2匹の凶魔海蛇(デス・シーサーペント)は、翌日回収され、仁が権利を放棄したので素材としてポトロック町の役に立てられたということである。


 また、この時以降、『コンロン3』には、救助用のホイスト(巻上機)が備え付けられたのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20171006 修正

(誤)『魔法工学師マギクラフト・マイスター」? あの有名な? 

(正)『魔法工学師マギクラフト・マイスター』? あの有名な? 


(追加)

 文章末に

 また、この時以降、『コンロン3』には、救助用のホイスト(巻上機)が備え付けられたのであった。

 を追加しました。


 20171214 修正

(誤)『コンロン3』は高度を30メートルまで上げ。ポトロックを目指す。

(正)『コンロン3』は高度を30メートルまで上げ、ポトロックを目指す。


 20180426 修正

(旧)

「気絶もしくは麻痺するが、絶命させるには至らない」


 電撃の大半が海水という導体に逃げるからである。

(新)

 気絶もしくは麻痺するが、絶命させるには至らない。

 海中にいるので電撃の大半が海水という導体に逃げるからである。音響爆弾(ソニックボム)などで海上におびき出せばまた話は違ってくるが。


 20220621 修正

(誤)「思ったとおり、小回りは効きそうもないね」

(正)「思ったとおり、小回りは利きそうもないね」

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[気になる点] 小回りは効きそうもないね 小回りは利きそうもないね
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