45-12 アーネストとリースヒェン その1
3460年5月19日。
エゲレア王国第3王子、アーネスト・リルム・アンドリュー16歳。
クライン王国第3王女、リースヒェン・フュシス・クライン。15歳。
2人は目出度く結婚式を挙げることとなった。
式の要諦である誓いの言葉は、城の奥において、王族とその親族だけで行われたが、その後の披露宴は賑やかなものになる。
城の奥から人々に祝福されつつ、2人が披露宴会場である大広間へとやって来た。
その昔、ゴーレム園遊会が行われた場所だ。
暫くは破壊の爪痕が残っていたが、今ではすっかり綺麗に修復されていた。
「おめでとうございます、両殿下!」
「おめでとうございます!」
「ありがとう」
「ありがとう!」
2人とも、この世界では成人となる年齢。
アーネスト王子は背も伸びて凛々しい若者となり、リースヒェン王女はたおやかな淑女となっていた。
城に勤める騎士、女官らに祝福されつつ、2人は広い会場の正面に設えられた壇上中央に立った。その後ろには各国国王らが並んで座っている。
《さて、ご来場の皆様、これよりエゲレア王国第3王子アーネスト殿下と、クライン王国第3王女リースヒェン殿下の結婚披露宴を開催いたします》
魔導具による声が響き、広い会場は拍手に包まれた。
《まずは各国代表の方からの祝辞をいただきます。……ショウロ皇国皇帝陛下》
女皇帝が立ち上がり、2人に優しく微笑むと、祝いの言葉を述べ始めた。
「おめでとうございます。エゲレア王国、クライン王国両国へ、慶賀の気持ちを込めて」
一旦言葉を切った女皇帝は、列席者にも会釈を行う。そして挨拶を続ける。
「……この佳き日に、若いお2人を祝える喜びを、列席者の方々全員と分かち合いたく思います。どうか末永くお幸せに。ショウロ皇国皇帝、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロ」
拍手が沸いた。
そしてセルロア王国国王セザール・ヴァロア・ド・セルロア、フランツ王国国王ロターロ・ド・フランツ(旧姓ラファイエット)、クライン王国国王アロイス・ルクス・クラインらが祝いの言葉を一言ずつ述べていく。
最後がエリアス王国国王、アルフォンス・アルバ・エリアス。
父王が長いこと寝たきりだったので、かつてはほとんどの国政は彼が行っていたのだが、今や正式に位を譲り受け、やり手の国王となっている。
《ありがとうございます。来賓の方々から、お祝いの言葉をいただきました。もう一度、拍手をお願いいたします》
大広間に集まった人々から、惜しみない拍手が贈られた。
《続きまして、来賓の方々からのお祝いを……》
賑やかに披露宴は進んでいった。
* * *
(相変わらず、こういう式は疲れるなあ)
来賓の1人、仁は幸せそうな2人を見つめつつもぼやいていた。
2人が立つ壇の一段下は広くスペースが取られており、そこではいろいろな出し物が行われているところ。
(お、ステアリーナだ)
今はステアリーナのクリスタルゴーレム3体が歌と踊りを披露しているところ。
赤いルビーゴーレム、黄色のシトリンゴーレム、そして水色のブルートパーズゴーレムが歌い、舞い、踊る様は圧巻であった。
(あの時はクリスタルゴーレムのセレス、だったっけ)
初めてステアリーナと出会った、かつてのゴーレム園遊会を懐かしく思い出す仁であった。
(今度はラインハルトか)
黒騎士『ノワール』が、模擬剣と盾を掲げ、豪快な演武を披露している。背後ではショウロ皇国の軍楽隊が雄壮な音楽を奏でていた。
ゴーレム・自動人形が好きなアーネスト王子のため、比較的それに関連した出し物が多かったが、中には普通の人間が歌を歌ったり、詩を朗読したりという出し物もあった。
人間の出し物の中で仁の目を引いたのは寸劇。
こういう場向けなのだろう、男女のペアが面白おかしく掛け合いをしていく内容で、仁は『夫婦漫才』を思い出した。
《続きまして、懐古党代表、エレナ殿》
「お?」
仁は注目した。
何と、エレナが出席していたのである。
「エレナと申します。懐古党の名誉顧問をさせていただいております」
昔と変わらぬ、鈴を転がすような声で挨拶したエレナは、ゆっくりと舞いながら歌い始めた。
「青い空 白い雲
まばゆく輝く太陽 静かに光る月
煌めく星々 世界を渡る風
巡る癒しの水 燃えさかる炎
恵みの大地 実りの森
花咲く草原 切り立つ山々
静かなる湖……」
観客は皆、息をすることも忘れたかのようにエレナを見つめていた。
「このよき日に 縁を結びし二つの魂に幸あらんと願う……」
最後は祝詞のような文句で締められた。
エレナがカーテシーでお辞儀をすると、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。
(エレナもやるなあ)
今は『魅了』の効果を持つ瞳は持っていないが、その仕草は一般の人を魅了して止まないようだった。
* * *
出し物のあとは、贈り物の披露である。仁はこちらだ。
幾つかの魔導具や美術品が披露されたあとのこと。
《魔法工学師、ジン・ニドー卿より、自動車です》
おお、という声が上がった。
かつて女皇帝に献上した自動車と同型である。
デザイン的にはクラシックカー。『ホースレスキャリッジ』と呼ばれることもある。つまり、『馬なし馬車』だ。
最高速度は時速20キロほどなので、実用品というよりは趣味のものといえるだろう。
実際には時速60キロくらいまでは出せるものにすることは可能なのだが、万が一王族に怪我でもされたら困るので思いきりデチューンしている。
こうしたところから普及してくれれば、いつかは……と思わなくもない。
(400年後もそれほどは普及していなかったなあ)
文化的にゴーレム馬の方が受け入れられやすく、自動車よりはゴーレム馬が牽く馬車の方が普及していたことを思い出す仁であった。
* * *
披露宴は夜まで続いた。立食パーティーである。
「ジン! ようやく話ができるね!」
「ジン! よう来てくれたのう」
アーネスト王子とリースヒェン王女が仁のところへやって来て、少し疲れた笑顔を見せた。やはり王族にもこのパーティーは堪えるらしい。
「この度はおめでとうございます」
公の場なので、仁もやや固い言葉で挨拶をした。
「ありがとう」
「エルザも連れてきたかったんですが、まだなにぶんにも子供が小さいので」
「おお、そうじゃったな! 双子が生まれたと言うておったな」
「はい、ユウとミオといいます」
「いつか会いたいなあ」
そこへラインハルトとステアリーナもやってきた。
「おお、ラインハルト!」
「ステアリーナも、久しぶりじゃのう」
昔なじみとひとときの談笑を楽しむ両殿下は、昔に還ったように屈託のない笑顔を浮かべていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20170930 修正
(誤)最高速度は時速20キロほどあので、実用品というよりは趣味のものといえるだろう。
(正)最高速度は時速20キロほどなので、実用品というよりは趣味のものといえるだろう。
(旧)「おお、そうじゃったな! 双子が生まれたんじゃったっけ」
(新)「おお、そうじゃったな! 双子が生まれたと言うておったな」
20171003 修正
(旧)
人間の出し物の中で仁の目を引いたのは寸劇であった。
(新)
人間の出し物の中で仁の目を引いたのは寸劇。
こういう場向けなのだろう、男女のペアが面白おかしく掛け合いをしていく内容で、仁は『夫婦漫才』を思い出した。
(旧)
「お?」
仁は注目した。
《続きまして、懐古党代表、エレナ殿》
(新)
《続きまして、懐古党代表、エレナ殿》
「お?」
仁は注目した。
20181015 修正
(旧)
最後がエリアス王国王太子にして摂政、アルフォンス・アルバ・エリアス。父王が長いこと寝たきりなので、ほとんどの国政は彼が行っているのだった。
即位しないのは彼なりの拘りがあるようだ。
(新)
最後がエリアス王国国王、アルフォンス・アルバ・エリアス。
父王が長いこと寝たきりだったので、かつてはほとんどの国政は彼が行っていたのだが、今や正式に位を譲り受け、やり手の国王となっている。




