44-20 懐古党本部へ
「『懐古党』!?」
仁は思わず聞き返してしまった。
「はい。ご存知ですか?」
「い、一応」
少し声が上ずってしまう。
「そうですか。まあ、秘密結社ではありませんから、ご存じの方も……あっ、もしかして『アヴァロン』を卒業なさった方なんですか?」
「ロードトスは、そうだよ」
リーリア・マダガスは、ロードトスについてはあまり聞かされていないのだな、と仁は思った。
彼だとわかったのも、店内で名前を呼んだからであろう。
「それでしたらご存知で当たり前ですね」
リーリアは納得したようだ。
「それで、『懐古党』が私に何の用ですか?」
「ええと、申し訳ないのですが、すぐにはお話しできません。……とある方の所へご一緒していただけるならお話いたします」
「……」
ロードトスは仁に相談する。
「どうしましょうか?」
「そうだなあ……」
ロードトスを招いている者が懐古党であるなら、問題はないと思われる。懐古党は危険思想を持つわけではないから。
「むしろ行ってみた方が情報を得やすいかもな」
そこへ礼子も助言をくれる。
「お父さま、ロードトスさん、まずは本当に懐古党の方なのか確認したらいかがでしょうか」
「ああ、そのとおりだな」
そこで仁がリーリアに向かって、
「あなた方が本当に懐古党の一員であるということを証明していただければお招きに応じましょう」
と告げた。
「そうですか。それでは、これをご覧ください」
リーリアは1枚のカードを取り出し、提示した。
「懐古党の身分証です」
薄い金属でできた、名刺サイズのカードである。所有者の名前と肖像が透かしで刻み込まれている。
「確かに本物ですね」
礼子が断定した。
300年のブランクがある仁よりも、この点では礼子の方が確かである。
「ニッケル36パーセント、クロム12パーセント、残り鉄。間違いなく『エリンバー』です」
エリンバーは、温度変化による弾性の変化が小さい合金である。精密機器や時計のバネ類に使われている。
そして、これを制定したのは仁……らしかった。
この世界の技術者では、まず思いつかない組み合わせと比率の合金を使うことで、身分証としての信憑性を高めたのである。
「え? なぜそれを!?」
経緯を知らないリーリアが面食らうのも無理はなかった。
「えーと、それを話すのは、そちらが会わせたい人にあってからということで。……どうかな?」
仁は、それはおそらく幹部級の人物だろうと当たりを付けている。
「……わかりました」
少し悩み、考えたのち、リーリアは頷いた。
「それで結構です」
仁も頷く。
「それじゃあ、我々はどこへ行けばいいのかな? 準備は必要か?」
だがその質問には、リーリアは首を横に振った。
「いえ、お手間は取らせません。すぐです」
そう言って席を立ち、背後にある扉、その脇にあるスリットに先程の身分証を差し込んだ。透かしを機械的に読み取って鍵としているらしい。
IDカードみたいだな、と仁は感想を持ちながらその様子を見ていると。
「おお?」
扉が音もなく開いた。
「こちらへおいでいただけますか」
「……行こう」
仁は密かに『仲間の腕輪』の障壁機能を働かせている。
また、礼子も出力を普段出している1パーセントから10パーセントにまで引き上げ、密かに臨戦態勢を取っていた。
ロードトスもまた、警戒をし、ホープもその検知機能を全開にして警戒状態となる。
その状態で仁たちは扉をくぐったのであった。
そこにはもう1つ扉があり、リーリアはもう一度身分証を用いた。
「おっ」
扉の奥にあったのは、なんと『転移門』である。やや大型で、人なら6人くらいはいっぺんに送ることができそうだ。
仁は、それが自分の知るものと同じ型であることを見て取った。
「この転移門を使いますので移動は一瞬です」
「なるほどな」
仁もロードトスも納得する。
「では、私と共に中へ入ってください」
「わかった」
リーリア、仁、ロードトス、礼子、ホープの5人が転移門の中へと入った。
視界が一瞬で切り替わり、仁たちは受け入れ側の転移門にいた。
「どうぞ、こちらへ」
転移門を出ると、
「ご苦労様、リーリア。……随分と大勢ね?」
懐古党の構成員と思われる女性が立っていた。暗い金髪に青い目をしており、リーリアと同年代に見える。
「ええ。捜すよう指示されていた方とそのお連れ様よ。お2人とも懐古党についてはよくご存知のようなので大丈夫」
「そう、それならいいわ」
そして、その女性は仁たちに向き直り、
「ようこそ、懐古党本部へ。私は転移門管理部長で案内役のアリエッタ・エオリアルと申します」
と言ったではないか。
「本部?」
「ここは、本部なのですか? それを我々に知らせても大丈夫なのですか?」
仁も、今現在の懐古党本部がどこにあるかは知らない。もちろんロードトスも。
だが、リーリアとアリエッタは自信満々に頷いた。
「そうです。どこにあるのかわからなければ、あなた方に告げても問題ないでしょう」
確かにそうだ、と仁は納得した。
とはいえ、仁の魔力パターンをマーカーにして老君が魔力探知機で捜せば、すぐに判明するであろう。いや、それ以前に、老君なら懐古党本部の場所くらい知っていても不思議ではない。
「そんなことよりも、ロードトス様をお連れしろと命じられたお方に会っていただきたいのですが」
「ああ、わかりました。元々そのつもりで来たのですから」
「ありがとうございます。こちらです」
アリエッタを先頭に、仁、礼子、ロードトス、ホープ、リーリアの順で廊下を歩いて行った。
窓がまったくないので、ここがどこなのかまったくわからない。そもそも地下なのか地上なのか、それすらも不明だ。
真っ直ぐ伸びた廊下を20メートルほど歩いた先にあったのは、金属製の壁と金属製の扉。
「こちらです」
ここはアリエッタが身分証を使って扉を開けた。
中には警備なのだろうか、戦闘用と思われるゴーレムが4体立っていた。
「よく……キてくれま、した」
部屋の奥から女性らしい声が響いた。
見ると、黒い布が掛けられた大きな机かテーブルがある。声はそこから聞こえてくるのだった。
部屋の奥へ向かって、礼子が半歩、進み出る。
「あなたは……」
仁は聞き覚えのある声だな、と思っただけだったが、礼子はその声の主をすぐに見破った。
「エレナさん、ですね?」
いつもお読みいただきありがとうございます。
20170819 修正
(誤)ホープもその検知機能を前回にして警戒状態となる。
(正)ホープもその検知機能を全開にして警戒状態となる。
(誤)「そうぞ、こちらへ」
(正)「どうぞ、こちらへ」
・・・・・・D と S を薬指が間違ったんですね
(誤)アリエッタを先頭に、仁、礼子、、ロードトス、ホープ、リーリアの順で廊下を歩いて行った。
(正)アリエッタを先頭に、仁、礼子、ロードトス、ホープ、リーリアの順で廊下を歩いて行った。
20190807 修正
(誤)見ると、黒い布が駆けられた大きな机かテーブルがある。
(正)見ると、黒い布が掛けられた大きな机かテーブルがある。




