44-09 トカ村村長宅にて
「ちょ、ちょっとお待ちください!」
トカ村村長、ユゾー・マヤカに仁たちは呼び止められた。
「あの、もしかして、ここ以外にもこうした監視装置はあるのでしょうか?」
「え? ええ、まあ……」
仁たちが気が付いただけでも10箇所はある。ちゃんと探せばその倍くらい見つかるかもしれない。
「もし、できましたらその場所を教えていただけませんか?」
「え……」
仁は考え込んだ。
「どうしようか?」
それで、ロードトスと礼子の意見を聞いてみる。
「そうですね……今日中にアルバンに行こうというわけでもないですし……」
ロードトスは協力してもいいのではないか、と言った。
礼子も同様で、
「トカ村はカイナ村の隣村です。少し協力してあげたらいかがでしょう」
と言う。
「うん、わかった」
仁自身も、監視の魔導具を設置したのが何者か、興味があったので頷いた。
「わかりました。今日いっぱい、協力しますよ」
これを聞き、ユゾー・マヤカは喜んだ。
「ありがとうございます! 本日は私の家にお泊まりください」
これで宿泊にも問題はなくなった。
「飛翔機は私の方で管理させましょう」
「ありがとうございます」
村長が管理している格納庫に入れさせてもらえることになった。もちろん無料でだ。
これでホープも仁たちに付いて来られるようになったわけだ。
「では、どこにあるか教えてください」
「わかりました」
飛行場の照明の柱、井戸の屋根裏、牧場の柵の根元。
街道の入口、四つ辻のど真ん中、村外れの石碑。
兵士の駐屯所、商店の軒下、宿屋の庭先。
それこそ、村中にそれは散りばめられていた。
「……まったく、ふざけたことだ」
憤る村長、ユゾー。その様子を見ていれば、彼がこの監視の魔道具に無関係であることが容易に想像できた。
もしこれが演技ならアカデミー賞ものだ、と仁は変な感心の仕方をする。
結局、村全体を回って見つけ出した魔導具は21個に上ったのであった。
* * *
「いやあ、ありがとうございます!」
その夜は村長宅でささやかな宴が催された。
「しかし、ノルド連邦の方は魔法に長けた方が多いと聞いていましたが、さすがですね!」
「ええ、まあ」
どうやって監視の魔導具を見つけることができたのか、説明はどうしようか、と悩んでいたら、勝手に解釈してくれたようで仁は少しほっとしていた。
「2個ほど調べてみましたが、30年ほど前に設置されたもののようですよ」
ロードトスが説明する。
「そんなに前ですか。私が村長になる前ですねえ。しかしいったい誰が……」
「それはわかりませんね。しかし、30年も回収していないということは、もうその誰か、は忘れているかこの世にいないのか……」
『魔法連盟』の仕業であるという証拠もなく、断定することはできない。
「まったく、村長として不愉快です」
そう言いながらユゾーは赤ワインを仁に勧める。
「最近、村で作り始めましてね。これは3年ものです。よろしかったらご感想をお聞きしたいですね」
仁は、かつてワイン通だった友人、ラインハルトのことをふと思い出す。
彼なら、何と言うだろうか、そう思いながら注がれた赤ワインを味わってみた。
「うん、美味しいですね」
開口一番、出てきたのはそんな言葉だった。
「酸味と渋みのバランスもいいようです」
なのでそんな感想も付け加えてみた。
細かな批評は無理だが、これまで多くのワインを味わってきたので、美味いか不味いか、加えて多少の感想は述べられる仁である。
そんな中、中年の使用人が料理を運んできた。
聞いてみると、ユゾー・マヤカは独り身で、この家には2人の使用人がいるだけだそうな。
「……トカ村の昔ってどうだったんですか?」
仁は、それとなく気になったことを聞いてみた。
「昔、ですか。……この村はずっとこうだったようですね」
ユゾーの父はこの村出身、母はこの村の隣、ラクノー村の出だそうな。
「隣のカイナ村はその昔、『魔法工学師』という偉人の直轄領だかになったそうで、今もクライン王国ではないんですよ」
「……ほう」
仁はワインを一口飲み、頷いた。
「カイナ村はいろいろと発展したようですが、暮らしぶりはほとんど変わっていませんね。私から見ていると、ちょっとだけ変わった人たちの村、という気がします」
ユゾーはそう言って笑った。
「……ああ、そうそう。今はこの村の話ですね。ええと、特産品はこれといってめぼしいものはないんです。その昔は『パシュタ』という料理がありましたが、今は一般的になってしまい、大きな都市の方が美味しいものを作っていますしね」
「なるほど、そうなのですね」
「ケメリア油は特産品というほどではないにせよ、村の財源の一つではありますね」
髪油や刃物油として使われているのだ。
「いずれにしても、山の中の小さな村ですし、地下資源もありませんしね」
「難しいものですね」
食料の自給自足はできているが、生活用品は外から買わねばならないものも多数あり、それにはやはりお金が必要になる。
「行商人は来るんですか?」
かつてのローランドを思い出しながら仁は尋ねた。
「ええ。月に1度ですが。それよりも、カイナ村のエリック商会の方が品揃えがいい場合もあるんですよ」
「そ、そうですか」
そういえばそこはよく見てこなかったなあ、とちょっぴり後悔した仁である。
「もう少しだけ、お金を稼ぐ手段があればよかったんですがね。……ああ、これは愚痴ですね。お客様に聞かせるものではありませんでした。忘れてください」
少し酔ったようで、赤い顔をしたユゾー・マヤカは恥ずかしそうに微笑んだ。
「温泉はどうなんですか?」
その昔、自分が掘った覚えのある温泉。それでは人を呼べなかったのだろうか、と仁は考えた。
「温泉ですか? ……とうの昔に出なくなったと聞いて……いえ、村の記録にありますが」
「出なくなった……」
源泉が細かったのか、それとも地中で何か変動したのか。それは定かではないが、今のトカ村では温泉は出なくなっているようだった。
「うーん……」
かつての『ファミリー』、リシアの領地だったこのトカ村。
若い村長であるユゾー・マヤカが苦労している姿を見ていると、少しだけ手助けしてやりたくなった仁。
地域振興。
仁はこのトカ村で何ができそうか、考え始めたのである。
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