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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
42 過去との絆篇(3899年)
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42-27 ミツホの国

 薄暮の中に見えるのは、広々とした水田。

 『豊葦原瑞穂国』……『とよあしはらのみずほのくに』、という言葉を思い出した仁であった。

「あの町に降りましょう」

 見れば、見覚えのある形をした湖の畔を目指している。

「確かサヤマ湖、だったか」

 『風力式浮揚機(ブローフローター)』は一気にミツホの首都付近まで飛んできたようだ。

 追い風だったのもあるだろうが、予想以上の速度であった。

「この様子ではゴーレム馬の合流は少し遅れそうですね」

 ロードトスは笑った。


 暮れなずむ空には飛行船が1機浮かんでいる。『コンロン2』型の飛行船だ。

「ああ、これなら我々も目立たないな」

 その光景は、少しすさみかけていた仁の心を穏やかにさせた。

 ゆっくりと降下していく風力式浮揚機(ブローフローター)

「どうせ降りるなら『クレ』よりも『ミヤコ』の方がいいでしょう」

 今もミヤコはミツホの首都らしい。その程度の知識はロードトスは持っていた。

「西の大都市、オサカと共にミヤコはミツホを代表する都市ですよ」

 ミヤコの北東側に空港があった。空港はサヤマ湖に隣接していて、非常時の着水も可能な立地となっているそうだ。

 もちろん、町を取り囲む堀割は健在であった。仁はエルザやハンナ、サキらと共に訪れた時のことを懐かしく思い出す。


 そうこうするうちに風力式浮揚機(ブローフローター)は着陸。

 係官とゴーレムがやってきて、まずは風力式浮揚機(ブローフローター)を所定の位置へ移動させることになった。

「こちらへどうぞ」

 小型機専用の格納庫である。

 そこへ風力式浮揚機(ブローフローター)を入れ、チェーンロックを掛けた。

 係官がロックの番号を控え、ロードトスと仁が署名を行う。

 こうした一連の手続きが終われば、仮入国証が貰えるのだ。

 仮入国証では3日間の滞在しか認められないが、今回の仁たちはそれで十分だった。

 因みに、『仮』では自動人形(オートマタ)の花子やゴーレムのホープは町に入れなかったので、風力式浮揚機(ブローフローター)の番をしてもらうことになる。

「頼むぞ、ホープ」

「はい、お任せください」

「花子、では行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」


 地上を行くだけであった時代に比べ、今は空を行くという交通手段があるため、セキュリティも様変わりしているようだ。

 かつて、ミツホの首都、ミヤコへ辿り着くまではカリ集落、セキの町など、幾つもの関門があったことを仁は懐かしく思い出していた。


*   *   *


 ミツホなので『ベッド』ではなく『布団』の宿に泊まった2人。

「ああ、ようやくちゃんとした布団で寝られるな」

 仁は畳に寝転がって四肢を伸ばす。

 畳敷きの部屋が嬉しい。

 食事も久々に食べる和食風で、特に味噌汁を3杯お代わりした仁であった。


「ジンさんはそのもそしる、というスープがお好きなんですねえ」

 と半ば感心したようにロードトス。

「ああ、そうなんだ、あと、『みそしる』、な」


 食事後、風呂に入った仁は、お湯の中でのびのびと手足を伸ばした。

 400年前、この町で出会ったヒロ・ムトゥとミイ・ムトゥ。そして多くの人々。

 彼等が歴史の中に埋もれて既に長の年月が経っている。

「『工場』は今も動いているんだろうか」

 魔法を使えない人がほとんどのミツホにおいて、工学魔法を使って様々道具を作り出す『工場』を、再稼働させたことも懐かしい思い出である。

「あれもミヤコの北東にあったな。……とすると空港と町の間になるはずだが見掛けなかったなあ……移転したのかも?」

 独り言を呟く仁。今はロードトスの好意で1人のんびりお湯を楽しんでいるからいいようなものの、他に入浴客がいたらドン引きされているだろう。


*   *   *


 風呂から上がった仁はロードトスとのんびり話をしていた。

「明日はどういたしますか?」

「うーん、そうだなあ……」

 一刻も早く帰りたい、その想いは変わらない。

 だが、身の安全がほぼ保証された今、持ち前の好奇心もうずき始めている。

 つまり、400年後の世界に興味があったのだ。

「この先の予定はどうなっているんだ?」

 逆にロードトスに質問してみる仁。

 好意で自分を案内してくれている彼にあまり迷惑は掛けたくないと思っている。

「はい。最終的には大おばあさま……シオン様のところへジン様をお連れしたいのですが、それはよろしいでしょうか?」

 何度も念を押すロードトスに、仁は大きく頷いて見せた。

「ああ、もちろんだ」

 仁としてもシオンやマリッカに会って話を聞いてみたいと思っている。

 『仁ファミリー』の子孫でなしに、本人に直接話が聞けるチャンスだからだ。もしかすると700672号に会うこともできるかもしれない。


「それでですね、ゴンドア大陸へ行くには2つの方法があります。個人移動と公共交通手段です」

「個人移動はわかるが、公共交通手段というのは?」

「ショウロ皇国から、月に一度、ノルド連邦行きの飛行船が出ているんです。席は完全予約制です」

「へえ……。他の国からは出ていないのか?」

「ええ。理由までは知りませんが」

「そうか」

 今はノルド連邦も受け入れられているんだなあ、と感慨深い。

「どちらを選んでもさほど時間は変わらないと思います。あ、いえ、今なら個人移動の方が早そうですね」

 とロードトスに言われ、

「なぜ?」

 と聞き返す仁であった。

「その便は毎月の1日に出るんです」

 今日は9月4日、次の便まではまだ1月近くある。それを聞いた仁は納得した。

「なるほど、風力式浮揚機(ブロー・フローター)で移動できるんならその方が早そうだな」

「でしょう?」

「わかった。それじゃあ、俺の希望を言う。……せっかくだから明日1日はここに留まって見物してみたい」

「わかりました。ではそういたしましょう」

 ロードトスは仁の希望をすぐに受け入れた。

「そもそも、ゴーレム馬がまだ到着していませんしね」

 到着したらこの町で売ってしまおう、とロードトスは言った。

 元々カスタムメイドではなく、風力式浮揚機(ブロー・フローター)で移動するならその方がいい、と。

「そうした中古のやり取りも今では普通なんです」

 中古自動車のイメージだろうか、と仁は考えた。それはそれで一般に普及しやすいのだろう、とも。


「そういえば、今の国ってどうなっているんだ? 昔のままなのか?」

 この機会に聞いてみようと思いついた仁。

「そうですね……」

 ロードトスは少し考え、部屋に備え付けてある木紙のメモ用紙を持ち出した。

 そこに簡略地図を書いて説明するつもりなのだ。

 手早く書いた地図を仁に見せ、ロードトスは説明を開始した。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 工場の再稼働は26-11ですね。


 20170625 修正

(旧)「わかりました。ではそういうことにしましょう」

(新)「わかりました。ではそういたしましょう」


(旧)手早く書いた概念図を仁に見せ、ロードトスは説明を開始した。

(新)手早く書いた地図を仁に見せ、ロードトスは説明を開始した。

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