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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
42 過去との絆篇(3899年)
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42-24 追っ手

 指揮官らしき男は、全身鎧を着け、ゴーレム馬に跨っていた。

 大きな犬を2匹連れている。これによって仁たちの臭いを追って来たのだろう。

(犬を使っているのか……400年前にはほとんどいなかったのに。これも一種の進歩か)

 暢気なことを考える仁。一方で追っ手はロードトスに話し掛けていた。


「もう一度言う、ロードトス殿、一緒にお帰り願おう」

「あなたが追っ手ですか、ゼルガ・ソムント殿」

 追っ手は、ロードトスと顔見知りのようだ、と仁は思った。

「さあ、戻るのだ」

「嫌だ……と言ったら?」

「力ずくでも連れ戻させていただく。囲め!」

 20体のゴーレムが『仁とロードトス、ホープ』を囲んだ。

「申し訳ないが、腕の一本、脚の一本は覚悟してもらおう」

「痛いのはごめんですね。『風の大槌(ウインドハンマー)』!」

「うおっ!?」

 ロードトスはいきなり風属性魔法上級、『風の大槌(ウインドハンマー)』を放った。

 3体のゴーレムが吹き飛ばされる。

 だが、そのくらいではさしたるダメージを与えられなかったか、10メートルほど吹き飛んだゴーレム3体は何ごともなかったかのように起き上がったではないか。

「……戦闘用というのは伊達ではないですか」

「左様。今ならまだ間に合う、投降しなさい」

「断る」

「では仕方がない。……かか」

 かか『れ』、その最後の音節を発声する直前、2体のゴーレムが崩れ落ちた。

「な、何ごと!?」

「やれ、『花子』!」

「はい、ご主人様」

 自動人形(オートマタ)の花子は、ゴーレムたちに勘付かれることなく、包囲網の外側から攻撃を仕掛けていた。

「おお、凄いな」

 仁も感心するその奮戦ぶり。

 体重差にしたら10倍はあろうかという戦闘ゴーレムが木っ端のように吹き飛ばされている。

「うーん、いい動きだ。骨格は……マギ・アダマンタイトか?」

 仁は花子の動きを観察しながら、つい癖で解析も行っている。

「な、ななな……」

 指揮官はその様子を見て顔色を変えた。

「せ、戦闘用ゴーレムがまるで相手にならない、だと? こ、こんな強い自動人形(オートマタ)がいるなんて信じられん!」

 花子はその間にもゴーレムを2体、3体と戦闘不能にしていく。

「工学魔法を使って戦闘不能にしているのか……いい戦い方だ」

 仁が見たところ、今の花子は『分離(セパレーション)』を使って相手ゴーレムの関節部を破壊している。

 支点となる関節部が固定されていなければ、どんなに筋力があっても十分な力を発揮できるものではない。

「魔法対策はされていない、か……」

 そんな時、1体のゴーレムが仁目掛けて襲いかかってきた。

「お任せください」

 ホープが余裕を持って対処した。2度ほど投げ飛ばすとそのゴーレムは動かなくなった。内部の魔導基板(プレート)が破損したのだろう。

 以前、『グローマ・トレー』のゴーレムと行った『試合』は無駄ではなかったのだ。

 同時に仁は『保護指輪(プロテクトリング)』を起動しているので、魔法の『流れ弾』は問題なく防げる。

「あの程度のゴーレムなら、殴られてもびくともしないな」

 また、物理攻撃に対しても、今のところ安心できていた。


「う、ううう! ……実力を隠していたのか!!」

「『世界会議』は幾度となく警告してきたはずです。なぜ隣国同士で争うのですか。なぜ『世界会議』に加わろうとしないのですか。あなた方は自ら未来を閉ざしているのですよ」

「そんな干渉は受け付けぬ! 我等は我等の道を行くのだ!」

「なぜそんなに頑ななのです。元をただせば『会議国』から出た国ではないですか」

「今は違う! 世代を経て、独立しているのだ!」

「独立? していないですよね。『会議国』からいろいろな物資を輸入しなければやっていけないではないですか」

「対価は払っている!」

「それは事実。ですが、『会議国』はその対価をどうしても欲しいわけではない。むしろ、あなた方の援助のための交易なのですよ?」

「ううう……」

 ゼルガ・ソムントは絶句した。

 横で聞いている仁は、このゼルガという男は、それなりの地位にいるのだろうな、と推察する。

 そしてその間にも、追っ手の戦闘用ゴーレムはその数を減らしていった。

 花子が15体、ホープが5体。

 やがて明るくなり始めた荒野には、動けなくなった戦闘用ゴーレムと、ゴーレム馬に跨ったゼルガ、仁、ロードトス。そして花子とホープの姿があった。

 因みに、2匹の犬は、戦闘が始まった瞬間に逃げ出していた。


「うぐぐ……」

「さあゼルガ君、これ以上は無駄です。諦めて戻りなさい。そして報告するのです。『捕縛できませんでした』とね」

「……」

 ゼルガ・ソムントは答えない。

「ジンさん、行きましょう」

 本当なら朝食を摂りたいところだったが、この場で食べるわけにもいかない。

 仁とロードトスは動かないゼルガを無視して、昇り始めた太陽セランに向かってゴーレム馬を歩かせるのであった。


「ま、待て!」

 その2人の背に声が投げ掛けられた。ゼルガである。

「本当に、逃げおおせることができると思っているのか? もうここはノルハ公国だ。越境は大罪だぞ!」

 その言葉に、ロードトスは振り返らずに答えた。

「それは君たちの法です。私は外国人。そんな法には縛られません。私を拉致監禁することの方がよほど大罪ではないですか?」

「うぐ……」


 今度こそ、仁とロードトスは歩き去った。

「……あのゼルガという男もそうだが、ジャグス公国の人間って、少しおかしくないか? あ、おかしいというのは思想的な意味で」

「確かにそう思えます。……そういえば、その昔ジンさんは『操縦針(アグッハ)』という洗脳の魔導具から我が一族を解放して下さったそうですが」

「ああ、あれか」

 『負の人形(ネガドール)』と自称したホムンクルスの反乱である。当時の『魔族』が人類と敵対していたのもそのせいであったのだ。

「でも、彼等の脳内にはそういったモノは発見できませんでしたけどね」

 続けてロードトスが言った。

「あとは禁呪に指定されている『催眠(ヒュプノ)』『暗示(セデュース)』『潜在意識誘導(サブリミナル)』ですが、その気配もありませんね」

「そうか……」

 さらにいえば、かつて『統一党(ユニファイラー)』を支配していたエレナが持っていた『魅了(チャーム)』も効果を持つ魔導具や魔法も見つからなかった、という。

「そうすると、元々そういう思想の連中が集まっているか……」

「未知の手段を使ったか……ですね」

 あまり考えたくないことではあるが、可能性は否定できなかった。

「この狭いアルス上で争う愚を自覚できないのでしょうかね」

「そういう連中を強引に宇宙へ連れ出してみたら目が覚めるかもな」

 宇宙がどれだけ広いか。それに比べて自分たちが住む世界がどれだけ小さいか。

 その小さい世界で争うということがどれだけちっぽけなことか。

 それを認識したら考えも変わるかもしれない。冗談半分で仁が言った。

「ああ、いいかもしれませんね」

 ロードトスも笑顔でそれに同意したのであった。


 日が昇り、1時間。

 仁たちは途中、犬の鼻を欺くために小川の中を少し進んでから対岸に渡る。

 そして時刻は朝の7時頃。

 仁たちは移動を一旦停止し、朝食を摂った。

 花子とホープが周囲の警戒を行う。

「このままノルハ公国を横断します」

 食糧は十分持っているという。水は『凝縮(コンデンス)』で補給可能だ。


 そして食事を終えた仁たちは、再び東へと進み始めたのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20170622 修正

(誤)関節部が固体されていなければ、どんなに筋力があっても無駄である。

(正)関節部が固定されていなければ、どんなに筋力があっても無駄である。


(旧)「……あのゼルガという男もそうだが、メルカーナ公国の人間って、少しおかしくないか?

(新)「……あのゼルガという男もそうだが、ジャグス公国の人間って、少しおかしくないか?


(旧) 関節部が固定されていなければ、どんなに筋力があっても無駄である。

(新) 支点となる関節部が固定されていなければ、どんなに筋力があっても十分な力を発揮できるものではない。

(旧)私を拉致監禁することの方がよほど違法ではないですか?」

(新)私を拉致監禁することの方がよほど大罪ではないですか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] >「『世界会議』は幾度となく警告してきたはずです。なぜ隣国同士で争うのですか。なぜ『世界会議』に加わろうとしないのですか。あなた方は自ら未来を閉ざしているのですよ」 ……ということですが……
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