41-35 エイラ・シアータ
「……ん? 君か!?」
隠れたことでかえって目を付けられたカチェア。
「ひい! ……ち、違い……ます……」
それを聞くとエイラはふん、と鼻で笑った。
「……だろうなぁ。覇気も何も感じられない奴が魔導士だとは思えないよ」
そして仁の横にいる『ホープ』に目を留める。
「うん? ななな、何だぁ!? このゴーレムはっ!!」
そう大声で叫んだかと思うと、
「うーん……繋ぎ目のすりあわせは完璧に近いなぁ……出来がいいのは確かだが、コンセプトがわからない……」
と、ぶつぶつ呟きながらホープの周りをぐるぐる回っている。はっきり言って危ない人だ。
「おいっ! このゴーレムを作ったのは誰だぁ!!」
「……俺だけど」
ジェド・アラモルドが乗り気でなかった理由が嫌というほどわかってしまったが、今更後には引けない。
「あんたかっ! ……んん? 見ない顔だねぇ」
元々この研究棟に暮らす者の数は少ない上、魔導士はエイラしかいないのだから気付かれて当たり前ではある。
「先日このローフォンに来たばかりでして」
一応相手は年上なので仁もそれなりの言葉で対応した。
「で、あんたがこのゴーレムを作ったのかぁ? そんなことができるのか!!」
「ええ、まあ」
「……なら、どうしてこんな中途半端なものをつくるんだい?」
「中途半端?」
「そうだ! 戦闘用ならもっと大型に。土木用なら頑丈に。雑用ならもっとグレード低めで、と考えるんじゃないのか?」
仁は、このエイラという女性魔導士が、やかましいだけではなく、ゴーレムの用途と構成について、確かな見識を持っていると感じた。
「現状に即した作りにしたんですよ」
そして同時に、かなり理論派寄りであることも。
「現状?」
「そうです。十分な資材がないという前提条件で最良のゴーレムを作る。そういったコンセプトですね」
「ううむ……やはりこの国はいかん! やり方が間違っている!」
大声で叫ぶエイラであったが。
「エイラ殿、そこまでだ。それ以上はまずい」
真面目な……いや、厳格な顔つきになったジェド・アラモルドがぴしゃりと言った。
「……わかった」
エイラは渋々、であるが、それに従う。
「だが、今の環境は、研究者にとっていいとは言えんぞ? それだけはわかってもらいたい」
そう言いつつ、部屋の中へとって返し、
「ほれ」
と、2個の魔結晶を差し出した。
「あと1個は研究に使うからな、勘弁してくれ。それから、至急魔結晶の補充を頼む」
そう言うと。魔結晶を仁の手に押しつけ、返事も聞かずにドアを閉めてしまったのである。
「……」
掌の魔結晶を見つめ、仁は絶句していた。
「驚いたかね? あれがエイラ・シアータだ。研究者というのはみんなああなのかな? とにかく言いたいことをずけずけ言う」
仁は苦笑するしかなかった。
「とりあえずこれで修理はできますね」
そう言って一行は踵を返したのだが、その背後でドアが勢いよく開いた。
「待て待て、あたしも行くぞ! 魔結晶を使って直すところをこの目で見せてもらう!!」
一応着替えてきたらしい。また、手にはメモに使うのか、紙の束があった。
* * *
「ふん、この魔力素スタンドを修理するわけか。確かにここ2年くらい調子が悪かったよ。で、先日とうとう止まってしまっていたな」
今回はホープがいるので、仁は指示を出して外装を取り外させた。
「ほう、器用なものだなぁ」
エイラはその様子を見ながら何やらメモを取り始めた。
仁はマイペースに作業を進めて行く。
「……ここが壊れていましてね」
それでも、駄目になった魔結晶を取り外したときだけは、エイラに向き直って説明をする。
「これが肝心なのに、酷使されて劣化し、ついに欠けてしまったんですよ。だからもう交換しないといけないわけで」
仁は欠け、ヒビの入った魔結晶をエイラに見せた。エイラは眺めてしまうと、興味も失せたようで、手に取って見ようとはしなかった。
「これを、供出してもらった魔結晶と交換します」
仁は説明しながら魔結晶を基盤に嵌め込んだ。
「ふむ、この構造の場合、基礎制御魔導式は魔導基板に刻まれているのか。面白い」
エイラは急いでメモを取っていく。
それを知った仁は、作業速度を少し落とした。
「ここも少し劣化しているけど、この程度なら『結晶化』……で当分持つだろう」
「……お?」
さらに仁は魔力素を送り出す導線に注目。
「不純物が多すぎるな。途中で魔力素が2割くらい無駄に消費されている。……『純化』」
「……おお?」
そして最後の箇所へ。
「こいつは面白いな……」
要するにこの魔力素スタンドを『自動販売機』として成り立たせている部分である。
「ははあ……。銅貨1枚で1秒、魔力素が流れるのか。高いか安いかはおいておくとして、面白い構造だな……」
仁はその構造にしばし見入って、構成を記憶した後、修理を行った。
「これでよし。全体に『強靱化』」
「おおおお!」
「ホープ、外装を取り付けてくれ」
「はい、ジン様」
仁は作業の間前屈みだった腰を伸ばした。
「ジン殿、これで直ったのか?」
「はい、ジェドさん。今までより2割くらい性能が上がっているかと思います」
「うむ、それは助かる」
ジェドはよろこんでいたが、エイラはといえば。
「ジン、といったな! 何だ、今の一連の作業は?」
「何と言われましても……修理と整備ですが」
「知らない魔法がぽんぽん出てきたぞ?」
「ええと、エイラさんが知らないというだけで、工学魔法は昔からある魔法ですが?」
「工学魔法だってぇ? ……『魔法工学師』が使っていたというあの魔法か?」
「は?」
魔法工学師という単語がエイラの口から出てきたことに仁はびっくりした。
「魔法工学師?」
「ああ、そうだ。あたしの師匠がそう言っていた」
「エイラさんのお師匠様、ですか?」
「そうさ。あたしの師匠は若い頃『アヴァロン』で学んだと言ってた。その『アヴァロン』っていうのは、『魔法工学師』が設立した教育機関なんだそうだ」
「エイラさんのお師匠様って……」
「おしゃべりはそこまでだ。……ジン殿、修理ご苦労だった。エイラ、用が済んだら部屋へ戻れ」
雰囲気の変わったジェド・アラモルドが2人を諫めたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20170524 修正
(誤)……『魔法工学師』が使っていたというあの魔法か?
(正)……『魔法工学師』が使っていたというあの魔法か?」




