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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
41 仁放浪篇
1521/4279

41-22 共通点と相違点

 翌日は朝7時半出発。途中で乾パンとスープの昼食を摂り、何ごともなく、夕方ノベラ村に到着した。


 カチェアはここまで来たのは初めてということだ。

「ここ、も……タジー村とあまり変わりませんね」

「まったく。村というものはそんなに変わらないのかね」

 カチェアの感想に、仁も同感だった。

 建物の雰囲気も似たようなもの。畑の作物も、果樹を除けば小麦、大麦とトポポ、豆類、葉野菜と変わり映えしない。

(もう少し地方色というものがあってもよさそうなものだが……まあ、詮索はやめておこう)

 ローフォンに着けばいろいろな疑問にも答えが出るような気がして、仁はその場ではそれ以上考えるのをやめた。

 その代わりに、ノベラ村にあった温泉を楽しんだのである。

「あー、やっぱり温泉はいいなあ」

 仁の分析では単純泉であるが、気分的にも単なる風呂とは違う。

 なにより、掛け流しなので浴槽が広く、手足が伸ばせるのがいい、と仁は思った。

 因みに、彼等は『温泉』とは呼んでおらず、単に『井戸からお湯が出てきた』という認識らしい。

 ファン村の村長、ラスニコフに温泉という言葉が通じなかったのもそういう理由からであった。


 ここノベラ村では修理依頼はなされず、仁はのんびりと過ごした。

 その分、考える時間が多くなり、郷愁に駆られたのは致し方のないことであったろう。


「……いよいよ明日にはローフォンか。何か手掛かりとか、事態を進展させるものが見つかるといいんだが」

 せめて魔結晶が1つ手に入れば、『守護指輪(ガードリング)』が作れるのに、と思う仁である。

 質が悪くても『純化(ピュアリ)』で質を向上させることができるのだ。

「とにかく、明日だ……」


*   *   *


 7月23日、仁たちはローフォンめざして出発した。

「いよいよ……ローフォン、ですね。……どんなところでしょう」

「楽しみだな」


 馬車の中で仁とカチェアは、数学談義らしきものを交わしていく。

 この日は面積を2倍にする、という話題が中心であった。

「同じ大きさの物をもう一つくっつける、というのではなく、真四角や円の大きさを2倍にする計算方法だ」

「……これも、平方根や二乗を使えばいいんですね!」

「そうだな」

 その時仁は、ふと気になったことを聞いてみることにした。

「そういえば、前にカチェアが買ってきてくれた紙だけど、あの大きさってわかるかい?」

「ええ、29.7センチの21センチです」

「やっぱりA4か……」

 シュウキ・ツェツィが現代日本の知識を元に定めた規格。この点でも、元居たアルスとの相似点が見つかったわけである。


 因みに、A5・A4・A3……と、形は相似形(縦横比が一定)で面積が倍になっていくわけだ。

 A4の紙を半分に切ることでA5の紙2枚ができるわけである。

「ええ。これってうまくできてますよね」


 こんな感じで、仁たちは馬車の中でうまく時間を潰しながら進んでいったのである。


*   *   *


 午後2時、仁たちはローフォンを間近にしていた。

「それにしても、魔物とか危険な動物とか出なかったな」

「え? 魔物って何ですか?」

「へ?」

 聞いてみると、この大陸には魔物と呼ばれる危険な動物はいないそうだ。

(ゴーレムの筋肉が生体素材じゃないのはそんな理由もあったのか)

 意外な事実を知った仁であった。


 そして見えてきたローフォンの町。

「ははあ……」

 周囲は麦畑と農業を営む人たちの家が点在する、牧歌的という形容が似合う風景だ。

 それ以上に仁の目を引いたのは、彼方にうっすらと見える水平線である。

 そう、ローフォンの町は海にも近いのだ。

 焼き魚が出るかも、と思ってしまった仁である。


 城塞都市ではなく、長閑な町、といった雰囲気である。

 一応柵はあるものの、害獣避けといったレベル。

(盗賊とか山賊とかいないのかな?)

 と思った仁であるが、なぜか口にするのが躊躇われ、黙っていた。


 そして馬車は町中へ。

 馬で行くジェド・アラモルドがいたので顔パスらしい。

「へえ……」

 興味があった仁は馬車の窓から外を観察している。

 ローフォンの町は整然と整っていた。

 タジー村と同様、中心に地方管理官の邸宅があって、そこから四方に放射状の道路が延び、同心円上に環状道路が繋いでいる型式。

 仁たちは北側の放射状道路から中央をめざしているわけだ。

 道路は石畳ではなく、砂利を突き固めたマカダム舗装であった。

「こんなところも……」

 そこかしこに共通点を見出し、懐かしむ仁。

 馬車の行く手には石造り、三階建ての建物が。それが地方管理官の邸宅であった。


 邸宅前の広場に馬車は停止した。

「ジン殿、カチェア、降りてくれ」

 ジェド・アラモルドに声を掛けられ、2人は急いで馬車から降りる。


 石畳の広場。正面には玄関らしき大きな門が見える。

 その門へ、ジェド・アラモルドは仁とカチェアを促し、向かっていった。

 門の前には壮年の男性が護衛に挟まれて立っている。

 身長は2メートル近い長身。だがかなり痩せていて、威圧感はあまりない。

 茶色の髪をしており、同じ色をした目は細く、やや吊り上がっていてどこか狐を思わせるようだ。


「閣下、魔導士ジン殿をお連れしました。そしてそちらの娘はカチェアといい、計算に才があります」

「ご苦労だった、ジェド。……ようこそ、ジン殿。私はパエローヴァ・ソンドヴィク、このローフォンの町以北を管理する地方管理官だ。カチェア、才能ある者は歓迎するぞ」

 その丁寧な物腰に、仁は少しだけ意外な気がしたが、社会人としてのスキルで、自分なりに丁寧な挨拶をすることにした。

「ジン・ニドーと申します。『魔法工作士(マギクラフトマン)』です。記憶が少し混乱しておりますので、失礼なこともあるかと思いますがご容赦ください」

「か、カチェアと申します。い、至らないものですが、ど、どうぞよろしくお願いいたします」

 カチェアもつっかえながら挨拶をした。

 地方管理官パエローヴァ・ソンドヴィクは鷹揚に頷いた。

「まあ立ち話も何だ、中へ入るがいい」

「ありがとうございます」

 仁とカチェアは邸宅に招き入れられた。

 仁は少し緊張しながら、前を行くパエローヴァ・ソンドヴィクの背中を追っていった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20170512 修正

(旧)なにより、掛け流しなので浴槽が広く、手足が伸ばせるのがいい、と仁は思った。

(新)なにより、掛け流しなので浴槽が広く、手足が伸ばせるのがいい、と仁は思った。

 因みに、彼等は『温泉』とは呼んでおらず、単に『井戸からお湯が出てきた』という認識らしい。

 ファン村の村長、ラスニコフに温泉という言葉が通じなかったのもそういう理由からであった。


 隣村に温泉があるのに知らない、というのも変なので、温泉という単語を知らないということで。


 20190401 修正

(旧)「え? 魔物って何ですか?」「あ?」

(新)「え? 魔物って何ですか?」「へ?」

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