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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
41 仁放浪篇
1514/4280

41-15 ゴーレム修理

 ローレンツと話をした翌日、つまり7月12日。

 仁は、広場の方が何となくざわついているな、と思っていた。

 そこへ村長のセルゲイがやってきた。

「ジン君、ちょっといいかね?」

「あ、はい。何でしょうか?」

 セルゲイは仁を工房の奥、人目に付かないところまで誘い、小さな声で質問した。

「ジン君は、その……ゴーレムの修理もできるかね?」

 仁はどう答えればよいか、一瞬迷ったが、

「見てみないとわかりませんが。素材がないと無理な故障もありますしね」

 と、無難な答え方をした。

「もっともだ。実は、ローレンツさんの連れている5体のゴーレムのうち1体が調子悪くなったそうなのだ」

「そういうことですか」

 十中八九そうではないかと思っていた仁である。他にゴーレムはいないのだから。

「ではさっそく頼む」

「わかりました。……カチェア、店番頼むよ」

「はい」

 カチェアに店を任せた仁はセルゲイと共に広場へと向かう。

「どうかね、ジン君。この村にも慣れたかね?」

「ええ、おかげさまで。いい村ですね、ここは」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 そんな風に言葉を交わしているうちに、2人は広場へと到着。

「ああ、ジンさん、よく来てくれました!」

 ローレンツが駆け寄って来た。

「事情はセルゲイさんから聞いて下さいましたか?」

「ええ、ゴーレムの調子が悪いとか」

「そうなんですよ。明日には帰らなければならないのですが、このままですと車1台分の荷物がどうにもならなくて……」

 かなり無理をして積んでいるようで、商人としては荷車1台が運べないと、あとで取りに来るにしても大きな損失になるということだった。

「お願いします! 損失を考えましたら、費用はかなり掛かっても構いませんので!!」

「とにかく見てみましょう」

 仁は、まずは調子が悪くなったというゴーレムを診断することにした。

「これですか……どれどれ『分析(アナライズ)』『分析(アナライズ)』……なるほど」

 内骨格式のゴーレム。アドリアナ式に少し似ている。魔素変換器(エーテルコンバーター)を持っている……などの情報が明らかになった。

「そ、それでわかるんですか?」

「わかります。……ローレンツさん、このゴーレムは、各関節……特に股関節部分が磨り減ってしまっていますね。それで脱臼寸前になってます。これでは力が出せないわけですよ」

「そ、そうなんですか? それで、修理はできるんでしょうか?」

「それには素材が必要です。このゴーレムの骨格を考えますと、鋼鉄ですね。……鉄素材はありますか?」

「鉄……ですか。素材としてはありませんね。商品でしたら、鉈や鉄鍋がありますが」

 仁はちょっと考えて、鉈を1丁使わせてもらうことにした。


「さて、まずばらします、ローレンツさん、ゴーレムを……そうですね、布の上に寝かせてから止めていただけますか?」

「あ、はい」

 仁の指示どおりにするローレンツ。商品を展示する布の予備を平らな場所に広げる。地面の上だが、精密作業ではないため問題ではない。

 次いでゴーレムを横たわらせ、

「『止まれ』」

 ローレンツは魔鍵語(キーワード)を唱え、停止させた。

「ありがとうございます」

 そして仁はいよいよゴーレムの分解に取りかかった。


 この頃になると、暇な村人がやってきて、遠巻きに仁の作業を眺め始めた。

「おお、なんかすげえな」

「ジンってこんなこともできたのか」

「へえ、ゴーレムってこうなっているんだ」

 そしてヘルガと……店番をしているはずのカチェアもやってきた。まあ盗まれるものもないわけだが。

「わあ、すごい」

「ジ、ジンさんって、すごい人なんです、ね」

 

 仁はまずゴーレムの腰から下を分解した。

「アドリアナの系統に似ているな……やはり、人間の動作に近づけようとすると、同じ結論に行き着くのかな」

 この世界らしい独自性が加味されてはいるが、仁の知るゴーレムと大差なかった。

「どうです? ジンさん、直せそうですか?」

 心配そうなローレンツ。

「ええ、これなら大丈夫ですよ」

 仁は元気付けるように、殊更明るい声で返事をした。

「さて……筋肉は……生体素材じゃないんだな」

 一旦金属系の魔法筋肉(マジカルマッスル)を取り外していく仁。

 その手際のよさは見ている者を魅了する。


「はあ、見事なものですね」

(やはり侮れない……いったいどこから来たというのだろう?)

 ローレンツも、修理して欲しさ半分、この機会に情報収集する気半分で仁の作業をじっと見つめている。


「やっぱりひどい摩耗だ……」

 『分析(アナライズ)』でわかってはいたものの、実際に目にすると、関節部の磨り減り具合の酷さが目立つ。

「ほら見てください、ここを。こんなにガタが来ています」

 仁に言われ、

「ははあ、なるほど。……これ、直せるんですか?」

「それは簡単ですよ」

 仁は供出してもらった鉈を手に取り、

「『分離(セパレーション)』『融合(フュージョン)』『変形(フォーミング)』『浸炭(カービュライジング)』『硬化(ハードニング)』」

 連続で工学魔法を使った。

「な、な、ななな……」

「えええーっ!」

「な、なんだありゃ!?」

 見ている者は皆、その妙技に驚愕した。

 股関節部の修理は5秒で終了した。

「あと、膝関節もかなりガタが来ていたっけ」

 長時間の歩行により、無理が掛かっていた場所である。

 そちらも同様に修理する仁。

「他の関節は隙間調節だけで何とかなるな」

 そうして全身の関節部を整備する仁。

「これで、よし」

 この間およそ5分。

 そして仁は元通り魔法筋肉(マジカルマッスル)を取り付け、外装を組み付ける。

 ついでに錆が生じ始めている部分も綺麗にして作業は終了。

「終わりました。動かしてみてください。……ローレンツさん? ローレンツさん!」

 仁は固まって動かないローレンツを大声で呼んだ。

「……は、あ、ああ、ありがとうございます。『動け』」

 ゴーレムは動き出した。仁が見た限りでは、動作は滑らかで、修理前とは雲泥の差だ。

「うん、大丈夫そうですね」

 仁は満足そうに頷いた。

 仁としても、この世界のゴーレム技術に触れることができて満足だったのだ。


 一方ローレンツは、あっという間にゴーレムを修理してしまった仁に、さらなる警戒心を抱いていたのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20170507 修正

(誤)ローレンツと話をした翌日、つまり4月12日。

(正)ローレンツと話をした翌日、つまり7月12日。

 面目ないです

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