41-15 ゴーレム修理
ローレンツと話をした翌日、つまり7月12日。
仁は、広場の方が何となくざわついているな、と思っていた。
そこへ村長のセルゲイがやってきた。
「ジン君、ちょっといいかね?」
「あ、はい。何でしょうか?」
セルゲイは仁を工房の奥、人目に付かないところまで誘い、小さな声で質問した。
「ジン君は、その……ゴーレムの修理もできるかね?」
仁はどう答えればよいか、一瞬迷ったが、
「見てみないとわかりませんが。素材がないと無理な故障もありますしね」
と、無難な答え方をした。
「もっともだ。実は、ローレンツさんの連れている5体のゴーレムのうち1体が調子悪くなったそうなのだ」
「そういうことですか」
十中八九そうではないかと思っていた仁である。他にゴーレムはいないのだから。
「ではさっそく頼む」
「わかりました。……カチェア、店番頼むよ」
「はい」
カチェアに店を任せた仁はセルゲイと共に広場へと向かう。
「どうかね、ジン君。この村にも慣れたかね?」
「ええ、おかげさまで。いい村ですね、ここは」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
そんな風に言葉を交わしているうちに、2人は広場へと到着。
「ああ、ジンさん、よく来てくれました!」
ローレンツが駆け寄って来た。
「事情はセルゲイさんから聞いて下さいましたか?」
「ええ、ゴーレムの調子が悪いとか」
「そうなんですよ。明日には帰らなければならないのですが、このままですと車1台分の荷物がどうにもならなくて……」
かなり無理をして積んでいるようで、商人としては荷車1台が運べないと、あとで取りに来るにしても大きな損失になるということだった。
「お願いします! 損失を考えましたら、費用はかなり掛かっても構いませんので!!」
「とにかく見てみましょう」
仁は、まずは調子が悪くなったというゴーレムを診断することにした。
「これですか……どれどれ『分析』『分析』……なるほど」
内骨格式のゴーレム。アドリアナ式に少し似ている。魔素変換器を持っている……などの情報が明らかになった。
「そ、それでわかるんですか?」
「わかります。……ローレンツさん、このゴーレムは、各関節……特に股関節部分が磨り減ってしまっていますね。それで脱臼寸前になってます。これでは力が出せないわけですよ」
「そ、そうなんですか? それで、修理はできるんでしょうか?」
「それには素材が必要です。このゴーレムの骨格を考えますと、鋼鉄ですね。……鉄素材はありますか?」
「鉄……ですか。素材としてはありませんね。商品でしたら、鉈や鉄鍋がありますが」
仁はちょっと考えて、鉈を1丁使わせてもらうことにした。
「さて、まずばらします、ローレンツさん、ゴーレムを……そうですね、布の上に寝かせてから止めていただけますか?」
「あ、はい」
仁の指示どおりにするローレンツ。商品を展示する布の予備を平らな場所に広げる。地面の上だが、精密作業ではないため問題ではない。
次いでゴーレムを横たわらせ、
「『止まれ』」
ローレンツは魔鍵語を唱え、停止させた。
「ありがとうございます」
そして仁はいよいよゴーレムの分解に取りかかった。
この頃になると、暇な村人がやってきて、遠巻きに仁の作業を眺め始めた。
「おお、なんかすげえな」
「ジンってこんなこともできたのか」
「へえ、ゴーレムってこうなっているんだ」
そしてヘルガと……店番をしているはずのカチェアもやってきた。まあ盗まれるものもないわけだが。
「わあ、すごい」
「ジ、ジンさんって、すごい人なんです、ね」
仁はまずゴーレムの腰から下を分解した。
「アドリアナの系統に似ているな……やはり、人間の動作に近づけようとすると、同じ結論に行き着くのかな」
この世界らしい独自性が加味されてはいるが、仁の知るゴーレムと大差なかった。
「どうです? ジンさん、直せそうですか?」
心配そうなローレンツ。
「ええ、これなら大丈夫ですよ」
仁は元気付けるように、殊更明るい声で返事をした。
「さて……筋肉は……生体素材じゃないんだな」
一旦金属系の魔法筋肉を取り外していく仁。
その手際のよさは見ている者を魅了する。
「はあ、見事なものですね」
(やはり侮れない……いったいどこから来たというのだろう?)
ローレンツも、修理して欲しさ半分、この機会に情報収集する気半分で仁の作業をじっと見つめている。
「やっぱりひどい摩耗だ……」
『分析』でわかってはいたものの、実際に目にすると、関節部の磨り減り具合の酷さが目立つ。
「ほら見てください、ここを。こんなにガタが来ています」
仁に言われ、
「ははあ、なるほど。……これ、直せるんですか?」
「それは簡単ですよ」
仁は供出してもらった鉈を手に取り、
「『分離』『融合』『変形』『浸炭』『硬化』」
連続で工学魔法を使った。
「な、な、ななな……」
「えええーっ!」
「な、なんだありゃ!?」
見ている者は皆、その妙技に驚愕した。
股関節部の修理は5秒で終了した。
「あと、膝関節もかなりガタが来ていたっけ」
長時間の歩行により、無理が掛かっていた場所である。
そちらも同様に修理する仁。
「他の関節は隙間調節だけで何とかなるな」
そうして全身の関節部を整備する仁。
「これで、よし」
この間およそ5分。
そして仁は元通り魔法筋肉を取り付け、外装を組み付ける。
ついでに錆が生じ始めている部分も綺麗にして作業は終了。
「終わりました。動かしてみてください。……ローレンツさん? ローレンツさん!」
仁は固まって動かないローレンツを大声で呼んだ。
「……は、あ、ああ、ありがとうございます。『動け』」
ゴーレムは動き出した。仁が見た限りでは、動作は滑らかで、修理前とは雲泥の差だ。
「うん、大丈夫そうですね」
仁は満足そうに頷いた。
仁としても、この世界のゴーレム技術に触れることができて満足だったのだ。
一方ローレンツは、あっという間にゴーレムを修理してしまった仁に、さらなる警戒心を抱いていたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20170507 修正
(誤)ローレンツと話をした翌日、つまり4月12日。
(正)ローレンツと話をした翌日、つまり7月12日。
面目ないです




