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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
39 拾遺篇
1439/4423

39-24 お忍び2

「ここが中央通り……ね」

 きょろきょろとしながらリースが呟くように言った。

「以前より活気がある……というかごちゃごちゃしているの……わね」

「あー、やっぱり『以前』はそれなりに配慮がなされていたんだろうなあ」

 少なくとも柄(がら)の悪い奴らは排除されていたのだろうと仁は想像した。


「これが人々の生活なん……のよね」

「そういうことですね」

 今は、エルザの助言により、リシアがリースに寄り添って説明をしている。アルバンに実家のあるリシアが適任であろうという考えからだ。

「よくも悪くも、煩雑な場所、です」

「なるほどのう」

 その時、リースたちを見守っていたローランドに軽く突き当たった者がいた。

 20歳そこそこの若い男であった。ぶつかられたローランドは、手に持っていた荷物——リースが買った人形——を、危うく取り落としそうになる。

「おっと、失礼」

「いえ、別に」

 辛うじて人形を落とさずにすんだローランドはそう言って見送ったが、その男の肩を掴んで止めた者がいた。

「お待ち下さい」

「な、何だよ?」

「今スリ取ったものをお返し下さい」

 ティアであった。

「な、何を言ってるんだ? 因縁つける気かよ?」

「今なら見逃して差し上げますよ?」

 だが、男はティアを与(くみ)し易しと思ったようだ。

「ふざけんじゃねえぞ? 人を泥棒扱いして只で済むと思ってんのか? ああ?」

 しかしティアは冷静そのもの。

「では、これは何ですか?」

 目にも止まらぬ早業で、男の懐から財布を取り出した。

「あっ、てめえ、何しやがる! それは俺の……」

「これはこちらのローランド様のお財布です」

「証拠があんのかよ?」

 ここまでされても悪びれない男。

 騒ぎを聞きつけたのか、警備兵がやって来た。

「何だ、この騒ぎは?」

「あっ、旦那」

「ん? なんだ、キャブレラじゃないか。どうしたんだ?」

 スリの名はキャブレラというらしい。

「こ、こいつらが因縁つけてきたんですよ!」

「あん?」

 警備兵は仁たちを睨み付けた。

「違いますよ。そのキャブレラという方が、こちらのローランド様のお財布をスリ取ったのです」

「だから、証拠があるのかよ?」

 そこへ、警備兵が割って入る。

「わかったわかった。だが、ここは往来だ。詰め所まで来てもらえるかな? それまでこの財布は俺が預かっておく」

 キャブレラの手にあった財布は警備兵の手へと渡った。これでは断りようがない。

「……いいですよ」

 なんとなく騒動の予感がしたが、仁は頷いた。エルザ、リシアも頷く。リースとハンナももちろん頷いた。礼子とエドガーは当然付いてくる。

 当事者であるティア、ローランドは断るはずもない。そしてキャブレラも頷き、一行はぞろぞろと近くにある詰め所へと向かった。

 道中、リースは小声で仁に尋ねた。

(のう……ねえジン、わら……私なら、財布の中身をそれぞれに言わせてから確認すれば済むと思うの……思うんだけど?)

(うん、俺もそれで済むと思う。もしかすると……)

(もしかすると?)

(いや、思い過ごしかもしれないから、もうちょっとあとで。……ほら、詰め所だ)

(わかった……わ)


 一行は、中央通りの北側の外れにある詰め所へと到着した。そこからは王城が間近に見えている。

 嫌な予感をおぼえたリシアは、さりげなく一行からそっと離れ、王城へと向かった。


「さて、ゆっくり話を聞こう」

 詰め所内は6畳ほどの広さで、中央に1メートル四方くらいの真四角なテーブルが置かれていた。

 警備兵は仁たちを詰め所の奥へと押し込み、自分は入口を塞ぐようにして立つ。

「先程も話しましたが、この人……キャブレラさんがローランドさんにぶつかり、その隙にお財布を抜き取ったんです」

「違う! 証拠がない」

「ふむ、それでは財布の中に何か証拠となるものが入っていないかどうか確認しよう」

 警備兵はテーブルの上に向けて財布の中身をぶちまけた。

「あっ……」

 いきなりの蛮行に、リースが短く声を漏らす。

「ふむ、金貨10枚、銀貨25枚、銅貨12枚か。あとは何も持ち主を特定できるようなものは入っていないな」

「いきなりなんてことをするのですか。入っている金額をそれぞれに言わせてから確認すれば、持ち主が特定できましたのに」

 ティアが抗議するが、警備兵はどこ吹く風。だが。

「……これは何でしょうか?」

 エドガーが、警備兵の左ポケットから、素早く小さな皮紙を取り出した。

「あっ、何をする!」

「それはこちらのセリフです」

 エドガーが取り出したのは、先程人形を買った時、後に精算するためにもらった受け取り証であった。

「これは、小物を扱う店でリースさんが人形を買った時の受け取りです。貴方はこれをそっと財布から抜き取っていましたね? 私は見ていました」

「な、何を言うか!」

 警備兵は激高する。

「俺は、このようなものなど知らん。……ははあ、お前、いかにも俺のポケットから出したように見せかけて、俺を陥れようとしているな?」

「何てことを言うのですか」

「ほらな、レダーの旦那。こいつらはみんなグルですぜ」

 調子づいたキャブレラが煽る。

「うむ、そのようだな」

 その頃には、仁はエルザとハンナをそばに引き寄せており、エドガーと礼子がその前に控えた。


 そして、ここまで来れば、世間知らずのリース=リースヒェン王女も、察しがつこうというもの。

「馬鹿なことをいうでない。グルなのはお前たちじゃろうが」

「はあ?」

「何言ってくれちゃってんの、この小娘は?」

 警備兵レダーとキャブレラはリースヒェン王女を上から見下ろすように覗き込んだ。

「我が国の警備兵たるものが何たること。貴様の上司は誰じゃ?」

「はあ? 小娘が何をほざいているんだ? クライン王国の警備兵に向かって何だ、その口のきき方は?」

 リースヒェン王女は溜息を漏らした。

「情けない。我が国にはまだまだこんな輩がおるのか……」

 警備兵はますます図に乗り、居丈高になった。

「子供だからって舐めた口をきいていると、一晩泊まっていってもらうことになるよ?」

 警備兵は、詰め所の奥にある留置所を顎で指し示した。

 その時。

「馬鹿者!!」

 怒鳴り声と共に、レダーの顔が殴り飛ばされた。

「ぎゃっ!」

「だ、旦那!?」

 何が起きたかわからないキャブレラもまた、殴られて尻餅をつく。

「おお、ジェシカか」

 そこに立っていたのは近衛女性騎士隊隊長、ジェシカ・ノートン。

 その後ろにはリシア・ファールハイトの姿があった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 お知らせ:

 実家に帰ってきますので、2月18日(土)早朝から、19日(日)昼過ぎもしくは夕方まで不在となります。

 その間レスできませんので御了承ください。


 20170219 修正

(誤)ティアが講義するが、警備兵はどこ吹く風。

(正)ティアが抗議するが、警備兵はどこ吹く風。 

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リシア、ナイスアシスト! これはポイント高いですよ!
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