36-03 第二陣
〔退避!〕
待ち構えていた異形のゴーレムから攻撃されるより一瞬早く、『忍部隊』は扉の陰に身を隠すことができた。
飛んできた攻撃は電撃系である。それもさしたる威力ではなさそうで、基地内を壊したくない意図が透けて見えていた。
このままここに隠れていられるはずはない。異形のゴーレムはゆっくりと近付いてくるのだから。
だが、この程度の電撃なら耐えられる。そう忍壱は判断し、飛び出そうとした。
『駄目です。止まりなさい』
そこに老君からの指示が入った。
『向こうは、わざと弱めの攻撃をしてあなた方を油断させている可能性が大です。姿を見せた途端、桁違いの威力で攻撃されるでしょう』
〔では、どうすれば?〕
こうしている間にも、異形のゴーレムは近付いてくる。
『非常用武器その1を使いなさい』
その3まで持たされた特殊装備、その一つめを使う許可が下りた。
〔その1を使う。全員、準備せよ!〕
忍壱の指示により、10体のミニゴーレムはその手に小さな球を持った。
大きさは1ミリほど。
〔よし、用意。3、2、1、投擲!〕
『忍部隊』10体は一斉に球を投げた。
それは、ちょうど異形のゴーレムの1体目が扉の前にやって来たタイミング。
光が弾けた。
その球の正体は『自由魔力素爆弾』。
爆弾と名が付いているが、爆発を起こすのではなく、極限まで圧縮した自由魔力素を一気に開放し、周囲の空間を自由魔力素で満たすのである。
先日『統括頭脳』が礼子に仕掛けた自由魔力素濃度を1000倍にする攻撃にヒントを得て、仁が用意したもの。
通常の魔素変換器や魔力反応炉は、周囲の自由魔力素を魔力素に変換し、ゴーレムなどの動力としている。
その変換率は一定。
自由魔力素濃度が倍になれば、変換される魔力素も倍になる。それに応じて魔法筋肉が出せる力や魔法の威力も倍になる。
しかし、それはせいぜい濃度5倍くらいまでの話だ。
もし自由魔力素濃度が1万倍になったら、魔素変換器は1万倍の魔力素を発生し、魔力炉はそれを物理エネルギーに変えることができるか。
答えは否、である。
仮に、魔素変換器を風力発電機、魔力炉をモーターに例えるとする。
風が強ければ(自由魔力素が多ければ)、風力発電機(魔素変換器)は多くの電力(魔力素)を発電(変換)する。
そしてそれを与えられたモーター(魔力炉)は高回転、高トルク(強力な魔法など)を発揮するだろう。
だが、それも程度問題である。
風速1万メートルに耐えられる風力発電機は存在しない(そもそもそんな風……音速を超えるので……は事実上吹かないが)し、定格の1万倍の電圧に耐えられるモーターも有り得ない。
『壊れる』以外の結果はまず考えられない。
魔素変換器と魔力炉でなく、魔力反応炉であっても同じこと。
異形のゴーレムは全て動力系を破壊され、動きを停止した。
因みに、『忍部隊』は、『自由魔力素爆弾』と自由魔力素不足対策のために全員が魔力貯蔵器を使用しているため影響は受けていない。
〔敵、全て沈黙〕
〔よし。この時間を利用して、この場所に転移魔法陣を設置しよう〕
場所は言うなればエレベーターホール。
ここより適した場所はあるかもしれないが、ない可能性もある。
まずまずの条件ということで忍壱はここに設置することを選んだ。
忍陸から拾までが協力して、床に魔法陣を刻んでいく。
壱から伍は警戒だ。
〔完成しました〕
〔よし〕
その作業は老君に報告され、老君から『オノゴロ島』へと連絡がなされた。
同時に設置済の魔法陣が起動し、淡い光を放った。
「転移魔法陣の設置が完了した。いくぞ」
「はい、ご主人様」
《了解だ》
仁の分身人形、ランド11から15、そして『ヘレンテ』は短く答え、魔法陣へと足を踏み入れた。
* * *
「いよいよ第二陣の出陣か」
蓬莱島では、魔導投影窓を見つめながら仁が呟いた。
魔導投影窓の映像は、仁の分身人形からのものに切り替わっている。
そこには、『移動基地』の内部が映っている。ランド隊、『ヘレンテ』も。
因みに、彼等は全員、シールドケースの材質を『プシ(精神)ミスリル』に交換済みである。
「『覗き見望遠鏡』が使えないのは痛いな」
かなり強力な障壁のようで、固定した穴以外は自由魔力素もエーテル波も透過できないのだ。
その穴の方向は蓬莱島に向いていないので『覗き見望遠鏡』の映像も動かすことができないでいる。
* * *
「ご苦労だった。この後はここで後詰めとして待機していてくれ」
『移動基地』に転移した仁の分身人形は、『忍部隊』を労い、指示を出した。
〔わかりました〕
そして一行は、『エレベータールーム』を出た。そこは巨大なホールである。
先程停止した異形のゴーレムが数十体転がっている。
「うーん、形が一貫していないな……設計者はどういうコンセプトで作ったんだろう?」
丸い胴体、四角い胴体、円錐形の胴体、円柱状の胴体。車輪状、棒状、ドーナツ状。
細い腕、脚。本数は4本、6本、8本、11本……。
大きいもの、小さいもの。
複数の設計者がいたとしても、これほどバラバラな外観になるであろうか。
分身人形を通し、仁が首を捻っていた時、『ヘレンテ』も周囲を見回し、嘆息していた。
《ううむ、情報にあるものと大分違っているな》
「かなりの年月を掛けて改造してきたんだろうからな」
《うむ》
「ここで話をしていても仕方がない。進もう」
仁の分身人形一行は、慎重に歩を進めていく。
とりあえずはホールの壁沿いに進み、扉がないか調べていく方法だ。
《……見つからんな》
「ああ」
そしてついに、ホールを1周してしまった。
「こうなると、次に考えられるのはホール中央部に何かがあるのではないかな?」
《確かにそうだろう。だが、危険を伴うな》
巨大なホールは見通しがよい。しかしそれは身を隠す所がないということでもある。
見つかったら、即戦闘になるだろう。
だが、他に道はなく、一行は警戒しつつホールの中央を目指した。
「ご主人様、足音がします」
先頭を行くランド11が警告を発した。どうやら異形のゴーレム、その第二陣が近付いてくるようだ。
《そろそろ来てもおかしくはないか》
「よし、ランド13、14、15は障壁を展開。迎え撃つぞ」
いつもお読みいただきありがとうございます。
20161031 修正
(誤)こうしている間にも、異形のゴ−レムは近付いてくる。
(正)こうしている間にも、異形のゴーレムは近付いてくる。
追記
忍部隊がいつの間にか全員揃ってしまっていましたので、前話「潜入開始」の終わり近くに合流した描写を1行追加しておきました。
(旧)風速1万メートルに耐えられる風力発電機は存在しない(そんな風は事実上吹かない)し、
(新)風速1万メートルに耐えられる風力発電機は存在しない(そもそもそんな風……音速を超えるので……は事実上吹かないが)
(旧)しかしそれは奄体がないということでもある。
(新)しかしそれは身を隠す所がないということでもある。
奄体、ってあまり一般的な語ではないようなので。




