29-09 文化交流
盛り上がったまま午前の部は終了した。
「一休みして昼食にいたしましょう」
と主催者の仁が言えば、
「ここの料理は美味ですからな。楽しみです」
「いや、まったく」
と、参加者たちは口々に言いながら大食堂へと移動していった。
「今日の昼食は3種類ございます。お好きなものをご指示下さいませ」
支配人のロルが言うと、席に着いた面々は、手元のメニューを見ながら、そばのメイドゴーレムに注文を言いつけていく。
言いつかったメイドゴーレムは、『はい、かしこまりました』と答え、奥へ行くものの、その実、内蔵魔素通信機で注文はとっくに送信してあるのだ。
従って、奥に行った頃には準備ができており、メイドゴーレムはとんぼ返りする。
「おお、早いな」
やろうと思えば転送機を使い、テーブルの上へ送り込むこともできるのだろうが、さすがにそれは自重している仁である。
「うむ、これは美味い」
それぞれの国の食材を使い、それぞれの国のやり方で調理しているので、評判は上々だ。
また、
「ほほう、これが『ご飯』か。これは我が国にはない味わいだな」
「ええ、いい味ですわね」
と、エリアス王国宰相のゴドファーとフィレンツィアーノ侯爵が舌鼓を打っているように、他国の料理を注文する者もいる。
総じて好評のようだ。
仁としても一安心である。
(テンプレじゃないけど『こんな料理が食えるか!』なんて言い出す人が出なくて良かった)
等と思っているが、仁の実力を知り、マキナも同席しているこの場でそのようなことをする者はいないだろうと思われる。
使用人たちは主人たちが食べ終えた後、別の食堂で食事を摂る。
「……美味しいですわね」
「帰ったら一層頑張らないと、旦那様に駄目出しをされる回数が増えそうです」
「……コツを聞いたら教えてもらえるでしょうか」
等と話をしながらの食事風景である。
そして、食事後、ペリドリーダーから、そういったコツの伝授も行われた。
「このメニューのコツですが、水にあるんです。貴国の水はほとんどが『硬水』ですので、こうした料理には向きません。ですので『分離』もしくは『抽出』でミネラル分を分離するとよろしいでしょう。簡易的には『浄化』でも効果はあります」
『分離』や『抽出』は、対象となる物質を知らないと使えないが、『浄化』であれば、そういう制約はない。
「10人分につき『浄化』を2秒、で大体望む効果が現れます」
「あ、ありがとうございます!」
おおまかな目安も教えてもらえ、使用人たちは感謝してくれた。
* * *
午後1時半、大会議室。
「本日午後4時をもちまして、第一回世界会議は終了となります。残る2時間半が有意義な時間となりますよう、気を引き締めて司会を務めさせていただきます」
というデウス・エクス・マキナの言葉で会議が再開された。
「『世界警備隊』については、1日や2日、会議をしたところで結論が出るわけもないので、是非次回の会議での主な議題としたく思うのだが」
言い出したフランツ王国のロターロ・ド・ラファイエット国王は、性急な結論は出すべきではないと言った。
「異議なし」
「異議なし」
「異議はありません」
同意する面々。
皆、この問題が重要であるがゆえに、一朝一夕に結論は出せないと考えているようだ。
「ですが、国家間の交流は、何らかの形で始めたらどうかと思うのですが?」
アーサー王子がそんな意見を出した。
「それはいいかもしれませんな」
「うむ、面白いと思いますよ」
これに関しても、同意が得られた。
「では、午後の議題は、『国家間交流』について、としてよろしいでしょうか?」
司会のマキナが一同に尋ねるが、否定する者はいなかった。
この世界会議が有益であることは全員が理解しており、同様な集まりはやはり益をもたらすだろうということが容易に想像できるからであろう。
「一参考意見として、半年ほど前に我が国とショウロ皇国、そしてエゲレア王国とが共同で、かつてのレナード王国の一部を踏破したことがありました。その際、それぞれの国から派遣した者たちは有意義な交流を持てたと思うのです」
季節外れの長雨により、収穫した麦にカビが生え、あわや大飢饉になりかねなかった時に、ショウロ皇国からゴリアス5体による10トンの乾燥剤がクライン王国に向けて出荷された。
そのゴリアスを率いたのがフリッツ中佐である。
彼はそのままクライン王国の行軍に同行し、荷物の運搬や道作りに活躍してくれた、と説明したのはエゲレア王国のケリヒドーレ魔法相である。
ボッツファ遺跡で発見した過去の遺物、というよりも封印された『怪物』が復活。その際の騒動で、グロリアは顔と肩に大怪我を負ったのだ。
最終的にはマキナが出動して事なきを得たのである。
遺跡の話になると、ソルドレイク遺跡での騒動を思い出し、セルロア王国国王セザールは少し顔を顰めた。
当時の国王、すなわちセザールの父、リシャールが横車を押したことを知っているからだ。
とはいえ、その時の被害はセルロア王国の方が大きかったのであるが。
セザールがそんなことを考えているうちに、アーサー王子からは新たな意見が発せられた。
「今回にならい、各国代表2名が集まる、というのはいかがでしょうか?」
これに関しては賛否両論があるようだ。
「うむ、最初の試みなのでそのくらいから始めるのがいいでしょうな」
「私としてはもう少し多くてもいいと思うが……」
「いや、多ければそれだけ意見の食い違いが起きやすく、従って和を保つのが難しくなります。ですから2名がちょうどいいのでは?」
「同感です。開く側の負担もそれだけ大きくなりますし」
「ふむ……」
いろいろと意見が飛び交ったが、最終的に、各国2名ずつとしてみることに決まる。
「では次に、交流の主題はどういたしましょうか」
「そうですな。……やはり、文化交流、でしょうな」
「平和的ですし、よろしいのでは?」
この世界会議に出席するくらいの顔ぶれであるから、こうした発言になるのだろう、と仁は思った。
好戦的な発言をされても困るからこれは大歓迎だ。
「文化と一口に言いましても、いろいろありますぞ?」
「ですな。服飾、生活、住居、それに食もですな」
「まだまだありますぞ。魔導具や……あまり取り上げたくはないが武器もですな」
「忘れてはならぬのが交通手段ですな。今回発表された……『モノレール』でしたかな? ああいったものや、新型の馬車、それに熱気球、船などがあります」
「おお、確かに」
最終日の最終フェーズということで、列席者たちも打ち解け、活発に意見が飛び交うようになった。
「最初の試みですから、期間も短めでいいでしょうな」
「然り。1週間から10日前後でしょう」
「どこで行うかというのも決めないといけませんね」
「先にそちらを決めましょうか」
「うむ、それがいいかもしれませんな」
と話がまとまり、まずは開催地を決めることになる。
世界会議は最終段階に来て、ますます盛り上がっていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。