28-34 発見?
『魔力探知機』で忍部隊の位置を確認すると、1階層分上へ移動したことがわかった。
「仮にここを2階とすると、いったい何があるんだ?」
送られてくる映像にはがらんとしたホールにしか見えない。
「広さでいうと、この階も区切られてはいないようね」
ミロウィーナの声。1階、2階は『パゴダ』の大きさそのものの部屋に見える、ということは小部屋に区切られていないということ。
「……強度的によく耐えているな」
『パゴダ』の水平断面はほぼ円形で、直径は30メートルほどもある。
中央の螺旋階段部分以外に支えになるようなものはない。
この2階の床がよく保つものだ、と仁は感心したのである。
「あれ?」
仁は、その螺旋階段がこの階層に通じていないことに気が付いた。
「やっぱりダミーだったのか」
『螺旋階段を登っていったら、転移魔法陣でどこかに転送されるなどの罠があったのでしょうね』
老君の推測もあながち的外れではないだろう。
「とすると、この階層にも何か罠があるんだろうな」
『いえ御主人様、階層自体が罠のようです。この階層の気圧は地上の3分の1ですから』
とはいえ、地球でいうとヒマラヤの8000メートル級の高所に匹敵する。いきなり曝されたら呼吸困難に陥るだろう。
「忍部隊でよかったな」
たとえ真空でも行動できる。
そしてすぐに転移魔法陣は発見された。
『何もない階層でしたね』
障害物がないので発見も楽であった。
そして、おそらく3階への移動が行われた。
「ここは……」
魔導具で埋め尽くされた部屋であった。
「ここにも壁はないのか」
その階層も円形に見える。
『いえ、御主人様。これは擬装です』
「何?」
『『魔力探知機』によれば3階に当たる階層ですが、当然あるべき直径よりもこの部屋の大きさはわずかに小さいのです』
「なるほどな」
老君だからこそ気付けた擬装である。
「なら、移動手段は部屋の外か」
『その可能性が大ですね』
「その魔導具は……」
仁が言いかけると、
『御主人様、忍参、肆の報告によりますと、これらの魔導具は罠だそうです』
不用意に動かすと、いろいろな罠が作動するようになっているらしい。
「それじゃあ魔導具は放っといて、転移魔法陣を探そう」
『パゴダ』を建造したのが何者かはわからないが、罠の掛け方からして、よくいえば慎重、悪くいえば猜疑心が強い人物だったようだ。
「階層が罠だらけ、っていうのもどうかと思うよ」
そして、壁を探っていた忍玖が隠された扉を見つけた。ほぼ同時に、忍伍も隠し扉を見つけた。
「どっちかが、あるいは両方罠という可能性もあるな」
「……ん。作った人、かなり性格悪い」
仁の呟きにエルザも同意した。
他に扉がないか探してみたが見つからなかった。
「うーん、どうするかな」
仁自身はTVゲームはほとんどやらなかったので、こうした『ダンジョン』の罠にどういうバリエーションがあるのか、は詳しくない。
「……ジン、君……あの扉も罠のような気がするんだけど」
ミロウィーナがおずおずといった雰囲気で囁くように言った。仁は頷く。
「なるほど、ミスリードですね」
それを聞いた老君が自説を述べる。
『……御主人様、となると、思いもかけないような場所に道があるということになりますね』
ゲームのダンジョンでは希にあるパターンだ。
隣の塔に行かないと本命の塔の上階に上れないとか、一度地下へ行かないと上へ行く手段が見つからない、などは。
だが、残念ながら仁にそういったゲームの経験は皆無であった。
『「お父さま、思い切って一気に最上階へ転移したらどうでしょうか」』
礼子から提案が来る。
「うーん……」
『御主人様、この場合は悪くないかもしれませんよ? 構造からいって最上階が目指す場所だと思いますし』
「よし、それでいこう」
仁は決定した。
「意外とそれ正解に近いかもね、ジン君」
ミロウィーナも感心したような声を出した。
* * *
「お父さまのお許しが出ました。では」
礼子は『コンロン3』の転移門で一旦蓬莱島に戻り、改めて転送機で『パゴダ』内部へと転送された。
「ここが最上部ですか」
それは間違いなさそうだった。天井が丸く、部屋も丸い。部屋の直径は5メートルくらいか。
そして、そこにあったのは。
「魔導頭脳……ではないようですね。記録装置でしょうか」
学習机くらいの大きさの魔導機である。
小さな魔導投影窓が付いていて、ちょっと大型パソコンにも見えなくはない。
「魔力素が生きていますね。調べるためにお父さまをお呼びしますか」
大きな危険はなさそうなので、礼子は老君に報告し、仁の『分身人形』を寄越してもらうことになった。
1分後、『分身人形』が、嬉しそうな顔でやって来た。もちろん、嬉しがっているのは操縦者の仁である。
『おお、これが『パゴダ』の中か!』
きょろきょろと周囲を見回した仁の分身人形は、まずは目の前にある記録装置らしき魔導機の調査に取りかかった。
『やっぱり記録装置だな。でも容量が小さいな……書式がよくないんだろうな……』
仁の分身人形は仁と同じように独り言を呟きながら解析を続けていく。その間、礼子は周囲を警戒だ。
「老君、記録用に魔結晶を1個送ってくれ」
蓬莱島司令室で仁は老君に指示を出した。
『わかりました』
間髪入れずに老君は魔結晶を転送する。
分身人形がマーカーなのでほとんど誤差もなく送り込めた。
『お、来た来た』
分身人形の目の前に魔結晶が現れる。
『これにコピーしておこう。『知識転写』』
情報のコピーを取ったあと、単純にこうした情報を保管していただけとも思えないので、仁は分身人形に周囲を調査させた。
『ふむ、何もないな』
それにしても不可解な遺跡だ、と仁は思っている。
「あれ? まてよ……」
ここで、ふと仁はあることに思いついた。
「普通、『パゴダ』って……」
いつもお読みいただきありがとうございます。




