28-30 改造と系統
『……というのが、記録されていたシュウキの日記を再構成したものです』
「……」
聞いていた一同は目を閉じ、感慨に浸っていた。
「そう、か……先代はシュウキの養女だったのか……」
シュウキの妻だったアドリアナと、先代魔法工学師アドリアナの謎がようやく解けた。
「お母さまは幼い時から天才だったのですね」
嬉しそうな礼子。
「当時の小群国は頑なだったのね。『賢者』の名前がほとんど残っていないのも頷けるわ」
と、ヴィヴィアン。
「レナード王国にもその『賢者』っていう方が来ていたのねえ」
これはミロウィーナ。
過去を知る、というのはやはり感慨深いものがある。
転移門の完成に、旧レナード王国にあった転移魔法陣が大きく関わっていたことは仁に取っても新鮮な驚きであった。
「当然だけど、その後の『賢者』とアドリアナの足取りはわからないわけだな」
少し残念そうなラインハルト。
「くふ、それでも、転移門が、転移魔法陣を参考にして完成したとはね」
サキも仁同様に、過去と現在を繋ぐ情報を聞けて満足げな顔をしている。
「そうだねえ、やっぱり過去を知るというのはいろいろためになるものだよ」
トアがしみじみと呟いた。
「ジン君、ありがとう。貴重な情報を知ることができたわ」
ステアリーナのその言葉は、全員の気持ちを代表しているようであった。
「じゃあ、最後に、その祠を見て欲しい」
老君に命じて移築させた祠。実物が見られるということで、旧レナード王国で既に見ているエルザとミロウィーナ以外は期待に満ちた目で研究所を出、仁の『家』へ向かった。
「ほら、これさ」
「ほう……!」
「面白いものが立ってるな?」
ラインハルトが指差したのは朱塗りの鳥居である。
「基本的に、南もしくは東に向けて建てられる……だったと思う」
折れていたのを直し、褪せてしまっていた色を復元してみたのだ。
仁としては、古びた色のままの方が良かったかも、と思っている。
「ああ、鳥居、っていうんだ。いうなれば、神域との境を示す門、かな」
「ジン君の世界って面白いものがあるのねえ。あの動物は何?」
ヴィヴィアンは興味深そうに観察している。
「狛犬……狛狐かな? 門番的なものだったと思う」
残念ながら、仁もそこまで神社に詳しいわけではないのだ。だがヴィヴィアンはその説明で納得したようだ。
「ふうん、面白い考え方ね。こちらだったら、強そうな魔物を門番にするようなものかしら?」
「あ、そうだと思う。他に、『金剛力士』という門番がいるところもあるから」
金剛力士は仁王のことである。こちらは神社ではなくお寺なのだが、仁は気が付いていないし、ヴィヴィアンもそこまで細かいことに拘っている訳ではない。
一通り眺めた後、皆はまた研究所内に戻った。
* * *
エルザはミロウィーナに付き添って会議室に残っていたが、皆が戻ってくると口を開いた。
「ジン兄、ミロウィーナさんが言うには、まだああいった『魔導頭脳』が残っている可能性があるそう」
「そう、か」
十分に考えられることである。
「正確な場所はユニーの『ジャック』が知っているはずよ」
『わかりました。早速確認してみます』
会話を傍聴していた老君は、さっそく『ジャック』に連絡を取った。
3分ほどの後。
『わかりました。可能性のあるのは2箇所。ダース川とネトー川の中流域です』
旧首都ディアアもカルナグも、ソピー川の中流域にあったので、これは頷ける情報であった。
やはり河川というのは文明の拠り所となるのであろう。
「何かそれらしいものはあるのか?」
『申し訳もございません。未調査です』
「それは仕方ないか」
旧レナード王国の上空には幻影結界があるため、上空からの観察がしづらい状況にある。
当然、観測衛星『ウォッチャー』からも観察できていない。
地表近くを飛ぶか、地上を行くかしない限り、詳細な観察はむずかしいであろう。
『ただ今より、ランド隊とラプター隊を送り込み、調査をさせます』
「そうだな、それが順当か」
仁はすぐにでも遺跡を探しに行きたかったが、考えを改める。
下調べもせずにいきなり遺跡へ向かうのは無謀というものだ。エルザやミロウィーナを連れて行くなら尚のこと。
「出し惜しみせず、全力で調査してくれ」
『わかりました』
ここまで指示を出したからには、今のところ仁のできることはない。
蓬莱島を訪れていたファミリーのメンバーも同様で、皆それぞれの拠点へと戻って行った。
ヴィヴィアンだけはミロウィーナにいろいろ話を聞きたそうにしていたが、向こうにやりかけの仕事を残してあるということで、再訪を約して戻って行ったのである。
「ああ、やっておくことが1つ、あったな」
できることはないと思ったが、ミロウィーナに同行してもらうとして、介護ゴーレム『カイ』の性能アップを思いついたのである。
「カイ、お前はミロウィーナさんの安全を守れるか?」
まず尋ねるところから始める仁。
「いえ、先日のギガントーアヴルムですか、あれが3体出てきたら守りきれないと思います」
「そうか」
カイの強さは、仁の予想とほぼ同じであった。
「それなら、ミロウィーナさんを守れるよう、もう少し強くしてやりたいんだが」
「はい、お願いします」
簡単な誘導で同意を得ることができた。
そこで仁は作業台の上にカイを寝かせた。
「お前の『認証鍵』を教えてくれ」
『認証鍵』とは、製作者以外が停止させる際に必要となるもので、普通の魔導具のように誰にでも停止させられてしまってはまずい場合に設定する魔鍵語である。
「はい、『ドラネル』です」
「ドラネル?」
意味の通じない単語である。
『御主人様、『LENARD』の逆読みではないでしょうか?』
解析力に関しては群を抜いている老君が推測を述べた。
「ああ、そうか、なるほどな。……よし、『ドラネル』『停止せよ』」
カイは停止した。
礼子に手伝ってもらい、カイを慎重に分解していく仁。
「やはり先代とは型式が異なるな……」
似たところもあるが、それは大元が『アドリアナ・ティエラ』の流れを汲むからだと思われる。
「ジン兄、どう?」
「エルザ、ミロウィーナさんは?」
カイがいないのでエルザに付き添ってもらっていたのだ。
「お疲れになったらしく、先程眠ったのでエドガーに一時、任せてきた」
「そうか。見てごらん、これだよ」
エルザは横たわる分解されたカイを見て、
「……型式が違う?」
と、一目で見抜いた。
「正解。先代とは違う系統なんだろうな」
「……例えば、シャトーネさん、とか?」
『賢者』の記録に出て来た名前。先代と同時代の魔法工作士で、彼女もまた天才だったようだ。
「有り得ない話じゃないな」
基本は『アドリアナ・ティエラ』で同じとしても、その後の発展方向が異なったのではないか、と仁は想像したのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20151222 修正
(旧)これを潮に皆戻って行った。
(新)皆それぞれの拠点へと戻って行った。
(旧)「基本的に、南もしくは東に向けて建てられる……だったと思う」
「面白いものが立ってるな?」
ラインハルトが指差したのは朱塗りの鳥居である。
(新)「面白いものが立ってるな?」
ラインハルトが指差したのは朱塗りの鳥居である。
「基本的に、南もしくは東に向けて建てられる……だったと思う」




