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私は私の道を行く

作者: 春夏秋冬巡

 異世界転生してから3×年、私、イリア・ユペルはようやく自分がどこにいるのか理解できた。どことなく見たことや聞いたことがあるなぁと感じていたら、転生前にハマっていた乙女ゲームの世界だったのだ。決め手は原作キャラと出会ったからではなく、名前を聞いたからという残念な方法。

 なぜこの歳になるまで気づかなかったのかと問われれば、原作開始前に転生したからというのが答えだ。恥ずかしい話なのだが娘の名をユペル家だからとゲームのキャラからとったのに、まさか本人だとは誰が思うだろうか。ちなみに、私の娘は主人公ではない。

 ゲーム主人公のライバル兼友人候補で、お金で成り上がった商家の娘さん。貴族の位がないのがコンプレックスだが文句なしの美人だ。性格は真面目な優等生で成績は良く、だからと言って眼鏡に三つ編み的なイモ臭いタイプではない。流行に敏感でお洒落で華やか、人目を引くのでクラスに一人はいる女子のリーダー的な女子生徒と言えば想像できるだろうか。少々ツンツンしてキツそうに見えるが、情に厚く面倒見が良い優しい娘だ。親の贔屓目を差し引いても良いお嫁さん具合に、今からどんな旦那さんを連れてくるのか妄想してはニヨニヨしている。

 ゲームを知っている身として誰が良いかしらと、あれやこれと想像して舌なめずりしてしまう。確か原作では王家の血を引く大貴族の俺様を好きだったはずが、実際のところはどうなのだろうか分からない。ゲームの世界とはいえ現実なので人間の行動一つで何もかもが変わってしまうので、未来の予想など立てられずゲームと同じ道を辿るのかすら不明で見えない。

 俺様は義理の息子になるには格が高すぎて扱いづらいが、尽くすのが大好きな娘とは性格の相性は良いほうね。大分薄れてきているが攻略法を教えたほうがいいのか悩みどころだわ。選択肢系は現実的に考えて無理だが、好みの場所やプレゼント、服装などはなんとなく記憶にある。

 手紙で知らせても良いのだが、久しぶりに娘の顔も見たい。学園へ入学してから長期休暇しか家にいないので寂しくてしょうがない。確かもうすぐ学園祭だったし、会いに行きますか。

 ニヤリと口角を上げ、机に埋没している呼び鈴を鳴らす。あまり出番がなかったが澄んだ音を立て響いていく。よく見れば鈴は綺麗に磨きあげられてまるで新品のようだ。家の使用人は働き者だと感心しているとメイドがやって来た。

「お呼びでしょうか、奥様」

 エプロンドレスを着た女性が私に頭を下げた。黒いワンピースはゆったりと踝までと長く、胸元のリボンには我がユペル家のエンブレムが刺しゅうされており、彼女がユペル家のメイドであるということを示している。決まり通り髪は清潔に纏められていて上品そうな有能メイドみたいでしばし見入ってしまう。

 やっぱりメイド服って良いわよね。萌えだわ。グッと拳を握りしめ、私は内心高笑いする。

 ミニで露出度の高い物も捨てがたいけど、やっぱりクラシカルなほうが格好良いわよね。自分の趣味で使用人達に着せたが思った以上に萌える。お金かけたかいがあったわ。家のメイド服を見て貴族達がこぞって真似をして受注もありがっぽり儲けたので元は取れているし。

 頭が下がったままのメイドに気付き、そう言えば用を言ってなかったっけと慌てて命令を下す。

「娘の学園祭の手配をなさい」

「お嬢様の学園祭、ですか? かしこまりました。お任せください、奥様」

 一瞬何を言われたか分からないといったような表情をしてから、ようやく飲み込めたのか慌ててまた頭を下げる。私が滅多に外出をしないので驚いたのだろう。基本的に夫か娘に強く誘われないと、外になど行かないほどの引きこもりなのよね。最近、太陽浴びたのはいつだったかしら?

 考えている間にメイドは下がったようだ。

 それにしても、学園祭ねぇ。懐かしい母校を思い浮かべ、笑みが零れていく。去年は私が時間を取れなくて夫が一人で行き、今年は夫に外せない商談が入り私が一人で行くなんて、間が悪いというか日にち変えてくれないかしら? せっかく久しぶりのデートだと思ったのに残念だわぁ。

 そうだ、出かけるなら服をタンスから引っ張り出さないといけないわ。何か余所行きの物があったかしら? 化粧を塗りたくって宝石を身に着け、あー、ほんとっに面倒くさいなぁ。もう、メイド任せで良いわよね。



 うふふ、全身コーディネートお任せしちゃった。地味にしてとリクエストをしたおかげで、ギンギラギンなゴージャスな格好は免れたわ。メイド達は物足りなそうな顔をしていたが、良い歳をしてるんだからほどほどでいーのよ。夫がいるんだし誘惑するような男もいないけど、母親連中はこぞって派手な格好をして来るのかしら? いや、でも、貴族は学園祭程度ではあまり来ないというか、来るのはもっと若い子だったような気がする。おぼろげな記憶を頼りながら周囲を見渡す。

 やはり、派手な格好をしていたりやたらと金をかけた格好をしている貴族っぽい奴らは、親というよりももっと若く顔も似ていることから兄弟だろう。平民達は親が多いようだが友人や兄弟の姿も見える。どうせなら、数少ない友人でも誘えば良かったかしら?

 一人寂しく娘のクラスを探していると見知った顔が前から現れる。唯一攻略できる大人の教師で、名前は確かキル何とかサトウ的な、う~ん、良く覚えてないわ。さすが3×年も経つと名前なんて覚えてられないわよね。

 顔立ちは甘く爽やかそうな美形で、懐くと犬っぽくて可愛かった気がする。そうそう、デフォルトで犬耳や尻尾が見えるんだよね。私的愛称はワンコで、甘えたなとこが萌えて年上なのにぃ、いや~ん、とよく悶えてたわぁ。んん、年齢的には今の私のが上か。旦那いるからどうでもいーんだけど、見てて和むわよね。あんな息子が欲しかったわ。今からでも夫に強請ろうかしら?

 ジッと見ていたせいか焦げ茶色の目とバッチリ合ってしまう。さり気なさを装って目を伏せるように逸らすが、近づいてくる足音に内心面倒だと舌打ちをする。

「ティアレーゼ先輩」

 人懐っこい笑顔で声をかけてくるんだけど、知り合いじゃなかったはずだけど。学生時代って友人が少なかったから、いくら薄情な私でも名前と顔ぐらいは覚えている。友達付き合いって狭く深くって感じで、後はひたすら薬学に命かけてたから時間なんてありゃしなかったし。研究できれば特に文句ないって言ったら、友人に怒られ色々なパーティに引きずってかれたわね。すっごいありがた迷惑だったけど、おかげで夫と交友関係が持てたから感謝してる、かな。

「何か?」

 眉を寄せ不審そうな目で見ると、慌てて自己紹介し始めた。

「あの、私はキルティオ・サジと申します。先輩のファンでして、あの、先輩の本も読みました。お会いできて光栄です」

 そうそう、キルティオ・サジだ。いつもワンコって呼んでたから、忘れてたわよ。

 そんなことより、私の本ってどれかしら? 友人曰くマニアックすぎて分かんないって言われるのに、もしや、ワンコも薬学オタクな同士? うふふふふ、良い趣味してるわねぇ。どうしよう、語る? ワンコと語っちゃう?

 テンションが上がっていき嬉しさに口角を上げると、向こうも同士を見つけたからか頬を染め嬉しそうだ。尻尾があるならブンブン振ってそうくらいで、めちゃくちゃ分かりやすい態度に癒されるわ。あー、もう可愛すぎて飼いたいなぁ。でも、さすがに無理よね。

「そう、ありがとう」

 そういや、ワンコって娘の担任じゃなかったっけ? 薬学に花咲かせながら、娘のクラスにでも案内してもらおうかしら。

「貴男のクラス、どこ?」

「え、え、来ていただけるんですか?」

「ええ」

 当たり前じゃない。娘のクラスだもの。何で意外そうな表情をしているのかしら?

「こ、こここちらです」

 どもりながら右手と右足を出してロボットのようなコミカルな動きをするワンコについて行く。頭から湯気が出ているみたいだけど大丈夫かしら? 少し不安に思ってしまう。



 ワンコ、驚くことに話せる奴だわ! ここまで私と話が噛み合う人は久しぶりね。と、忘れていたけど薬学の教師だったみたい。

 くふくふ笑って語り合っていると耳障りな声が聞こえてくる。ちょっと、今、良いところなのよ! 静かにしなさいよ。

「何?」

 騒がしい教室を恨むように睨みつけるとワンコが頭を下げてきた。

「すみません! どうやら、私のクラスみたいです」

 なら、娘のクラスなのね。確かに耳を澄ませると知らない声に交じって娘の声も聞こえてくる。珍しいわね、外面を気にして人前ではヒステリックな声を上げるなんてことはないのに。

「少し待っていてください。見てきます」

 ワンコは自分の担任のクラスだから責任を感じているのか唇を強く噛み、真面目な表情で教室へと向かってしまう。おいお~い、一人残さないでくれよ。あいつ、置いてかれたな的な周囲の視線が痛いわよ。

 さすが乙女ゲーの攻略対象。さっきまでは気にも留めなかったが、やたら注目を浴びていたわね。隣にいた私まで探るような目を向けられ、正直ウザったかったけど有意義な話ができて良かった。

 しばらく大人しく突っ立っていたが、聞こえてくる声は大きくなるだけ。相当揉めているみたい。見守ってようと思ったけど、言いようのない違和感に私は行動していた。

 教室のドアを開けるとゲームの主人公とライバル兼友人候補の我儘な大貴族の令嬢が言い争っている。間にいる娘は青筋を立てて仲裁をしようとして、ワンコも加わったが二人は止まらない。周囲に攻略対象キャラがいるが傍観を決め込んでいるよう。困った表情を浮かべている者はまだ良いが、状況を楽しんでいる奴には腹が立つ。お前一応娘の従兄だろ、止めてやれよ。私の可愛い娘が困ってんだろ。

 こんの、役立たずが!と内心で罵倒しながら息を吸う。

「静かになさい。何事ですか?」

 腹に力を込めて冷やかに問えば、思った以上に響き皆の視線を独り占め。ちょ、恥ずいんだけどと思いつつ、キリッとした真面目な表情は崩さない。

「あ、え、ど、どうして、ここにいますの?」

 いち早く娘が気づき、顔を青くさせてから赤くさせる。もじもじと恥じらうような姿が可愛らしい。

 久しぶりの娘にうっとりしたいが、とにかくどういう状況なのかを知らなきゃね。

「ディア、きな」

「誰よ、あんた! もしかして、ディアの姉? くっ、ちょっと美人だからって……いきなり何なのよ! でも、主人公はあたしなんだから」

 うん? あるぇ、この子、ゲーム主人公なのに言動がおかしくない? ゲームでは無個性だけど万人受けするようにと、どちらかといえば優しい女のらしい子だったはずなのに原作と明らかにズレがある。

 顔形はまんまなのに、どこか微妙に合わなくて変だ。ぼそっと最後に聞こえた言葉なんて、ぶっちゃけありえないというかヤバくない?

「どなた?」

「あんたが先に名乗りなさいよ」

 眦を上げてヒステリックに叫ぶ少女に私はイラッとする。年上に向かって失礼な子ね。少しは私の素晴らしい娘を見習いなさいよ。

「わたくしに名乗れと言ったの?」

 声が自然と低くなっていくのも仕方ないよね。どれだけの人間に好かれてるのか知らないが身分はまだ平民のはず。貴族ではないはずだから、こっそりと新薬の実験台にして良いかしら? 大丈夫、おそらく死にはしないわ。

 不穏な空気を感じ取ったのか、ワンコが少女の前に立ち塞がる。

「キル先生、この女がぁ」

「フルーレ、止めなさい。今すぐティアレーゼ先輩に謝りなさい」

 てっきり少女を援護するような言葉を吐くと思ってたのに、予想外にも私の味方をするワンコに少女を筆頭に周囲もビックリしている。明らかに狼狽したような目をする少女だがめげずに、可愛らしく口を尖らせてぷうと頬を膨らませた。

「先輩って、その女と知り合いなんですかぁ?」

 甘ったるい鼻にかけたような声を出す少女、フルーレとの名からデフォルト名なのだろう。懲りずに媚びやがって呆れちゃうわ。絶対、あの子女の子から嫌われるタイプね。ほら、教室にいる女子の視線が虫を見るような嫌悪感を含んでるわ。

「黙れ! ティアレーゼ先輩に何て口の聞き方をするんだ」

 癇癪を起したような怒鳴り声を出すワンコ。背中越しだがハッキリと感じる怒りに私はぽっかーんと成り行きを見守る。

 だってさ、ワンコがこんなに熱くなるなんて思わなかったのよ。付き合い長い連中じゃなくついさっき会ったばかりなのに、やっぱり同士なのがポイント高かったのかしら?

「そもそも、我が国が誇る調合師のティアレーゼ先輩は……」

 語り始めたワンコの言葉にとある生徒がハッとしたように私を仰ぎ見る。

「ティアレーゼ、ティアレーゼって、あの逸話の多いティアレーゼ・エルシア様?」

 結婚前のエルシア姓に甥っ子の顔色が悪くなっていく。何でそんなに怖がってるのよ? あんたのほうが腹黒でしょうが失礼しちゃうわね。

「雪華の貴婦人」

 女子生徒がうっとり頬染めたかと思えば、男子生徒が顔を蒼くし後ずさる。

「氷雪の女王」

「三大美人の一人、白のティアレーゼ」

 極めつけは中二病みたいな二つ名に床にゴロゴロして身悶えたいよ。人目があるからしないけど、恥ずかしさに穴があったら入りたいぐらいだ。大体、誰がそんなん言い出したのよ。もっと普通っぽいのを……って、二つ名がつく時点で駄目かもしんないわね。

 ガックシする私にゲーム主人公は私を睨みつけてくる。憎悪を含んだ視線に私は面倒臭くてため息を吐いた。

「何よ、何よ! あんたなんてただのモブキャラのくせして」

 馬鹿にされたと勘違いしたのかゲーム主人公が吠える。涙交じりの目には嫉妬と私を見下すような感情が見て取れ、それよりも、モブキャラの一言にこの娘も転生者なんだと気付いてしまう。まあ、主人公はあたし発言から薄々勘付いてはいたのだが。

 私以外にもいたのねぇなんて思っていると、娘のディアが前に出てゲーム主人公に厳しい目を向ける。

「ちょっと、フルーレさん。わたくしのお母様に失礼な態度をとるのは止めてくださらない?」

「お、お母様ですって!」

「嘘! 私の母よりも若く見えるわ」

「子持ち?!」

「見えねー!」

「ひぃ、若作りの化け物!」

 周囲が凍り付いていくが、最後の奴前出てこい。直々に新薬の実験台にしてあげるわよ。

「嘘、ディアの母なんてゲームに出てこなかった。何なの一体?!」

 ブツブツと悪態を吐くゲーム主人公に周囲の視線はさらに冷たくなっていく。

「何を言っているが分からないが、一度医師に診てもらいなさい。費用がないならわたくしが立て替えましょう」

 いっちょからかってやろうと意地悪いことを口に出す。だってさ、ムカつくんだもん、この子。何か色々と勘違いしてるみたいだし、もしかしてゲームと現実の区別がついてないのかしら。

「何よ、何よ、何よ! あたしが主人公なのに!!」

 淀んだ眼を向けながら、あろうことか私を突き飛ばしやがった。まさかそんなことをするなんて思わなかったので、思いっきし体が傾いていくが途中で止まる。

 何の手品かと目を開ければ、腹黒さんのどアップがあってギョッとしてしまう。

「大丈夫ですか、伯母上」

「ええ、ありがとう」

 彼の伯母上発言にゲーム主人公の目が揺れる。旧姓が明かされたのだから、検討ぐらいつけておこうよ。腹黒の姓と同じだったの、聞いてなかったのかね。

「フルーレ君。伯母上の言う通り、医師に診てもらう必要があるようだね。誰か連れて行ってやれ」

 大貴族である甥っ子の言葉にどこからか使用人が現れ、主人の命令を忠実に守り暴れるゲーム主人公を取り押さえて連行していく。さすがエルシアの手の者ね、手際が良いわ。

 生徒達も使用人達が通りやすいように道を開けて……誰一人止める子いないのね。ゲーム知識活かしてキャラ達を落としていると思ったのに違ったのかしら。まあ、どーでもいいけど。

「覚えておいでですか? 貴女の弟の息子、オディオール・エルシアです。父が休暇の度に会いたいと零しております。どうか、一度会いに来てはくれませんか?」

「そう。考えておく」

 実家に戻ると別れろとうるさいし気がするし、家から出るの面倒だから行かないだろう。結婚には大反対され駆け落ちするように夫と結ばれたっていう過去もあるのだ。大商人へと成り上がってなかったら強硬手段に出て家に連れ戻されていた気がする。自由に恋愛くらいさせてくれれば良いのに、貴族って家柄云々があるから不便よねぇ。

 でも、甥っ子に伝言を頼むなんて私達の仲をいい加減に認めてくれたのかしら? そうだったなら、一度くらい娘を連れて行くのも良いかもしれない。

「オディオール。娘のディアレーゼよ。仲良くなさい」

「はっ、伯母上の言葉なら従いましょう」

 プライドが高い男のこうべを垂れる姿がおかしくて笑みを浮かべてしまう。

「ディア。オディオールはお前の従兄よ。何かあれば頼ればいい」

「は、はあ。えっと、よろしくお願いします」

「うん、こちらこそ、よろしくね」

 纏まったところでディアの手を取る。

「久しぶりに一緒に歩くわよ。お前が楽しいと思うところへ連れて行きなさい」

「はい、お母様。では、参りましょう」

「あの、ティアレーゼ先輩」

「また来るわ。それでは、御機嫌よう」

「は、はい! お待ちしています」

 嬉しそうに笑うワンコの姿に犬耳尻尾の幻想が見える。ああ、可愛い。癒されるよぉ。

 教室を出てディアと恋愛話に花咲かせながら懐かしい母校を歩いた。連れて行ってくれたのは所属している手芸部だ。生徒達の作品が展示されていて、目を引くのはやはり自慢の娘ディアの物だ。普段着の洋服を作ったのだが職人の手作だと言っても信じてしまうほどの出来に褒める。

 ちょっとしたハプニングがあったが概ね楽しく過ごして私は帰路へと着いた。夫に報告すると頭を撫でてくれ、優しい目で私を見つめてくれる。娘の話をしていたはずなのに、ムードが高まっていき流れでベッドへと倒れ込む。口づけを交わしてゴツゴツした手が服を剥ぎ、優しくも冷たい灰色の目が私を捉えて離さない。

 あーやっぱり、この人のこと好きだわ。どんなにゲームキャラの美形共を見ても敵わないくらい惚れこんじゃったしね。

「貴男が好き」

 零すと優しく口づけを落としてくれる。触れ合う程度のものから徐々に深く角度を変えて何度もキスをして、呼吸ができなくなって苦しくなると分かっているのかようやく放してくれた。糸を引く唾液がやらしい。

「私のほうがもっと、君のことを愛しているよ」

「……知ってる」

「いいや、分かってないね。君が考えているよりも、私はもっとずっと嫉妬深いんだよ」

 口調は柔らかいのに声は冷ややかで刺々しい。一体何に怒っているのか見当はつかないで、黙って口を閉ざして続きを待つ。

「悪い子には、お仕置きだね」

 酷薄な笑顔を浮かべながら楽しそうに私の頬を撫でる。それだけで感じてしまい、ほうっと熱い吐息をもらしてしまう。

「覚悟しなよ、ティア」

 いつにも増してSっぽい夫に体が熱くなっていく。私、こんなにMだったかしら? 期待を寄せて夫に身を任せた。



 後日、妊娠したのは余談だ。腹の子がワンコみたいな可愛い男の子だと良いのだが、私の腹に耳を押し付け喜ぶ夫を見ながら思う。

 さらに余談として、ゲーム主人公は医者の診断で入院したそうだ。絶対に脱走することができない刑務所のような牢獄と聞いて驚いた。娘から聞いたのだが普段の言動も大分おかしく、奇怪な行動をすることが多々あったという。

 ゲームの知識があったために可哀想というよりも自業自得でしょうね。おそらく彼女はゲーム主人公へと転生したために、自分は選ばれた存在とか変な意識を持ってしまったのだろう。後はリセットが利くゲームの世界のように捉え、好き勝手に振る舞い相手の気持ちなどを考えず自分の気持ちだけを優先させて楽しんで自滅した。

 私なんてゲームだと気付かなかったのと、親世代で本当に良かったよ。下手に気付いちゃうと、もしかしたら同じような道を辿っていたかもしれない。そう考えるとゾッとする。

「ティア、今、何を考えていましたか?」

「別に。ただ、貴男に出会えて良かったと」

「そうですか。なら、良いです」

 そう、貴男と出会い恋に落ち、結婚して可愛い娘にも恵まれ、また新しい命も腹に宿っている。大好きな薬学の研究も認めてくれ、幾らお金をかけても怒るようなことはない。優しくてたまに怖いけど、そんな夫が愛しくて堪らない。ゲームだろうが現実だろうが、私は何度でも夫だけを選び続ける。


――私は私の道を行く。


相変わらず転生ものが好きです。

今回もファンタジーにしようとしたんですけど、書きあがったらどっちでもよくね?って感じだったので削りました。

今回の好き要素は転生・傍観主人公・オリジナル乙女ゲーム世界・天狗なゲーム主人公の転生者・勘違い・相手キャラは華麗にスルー

でも、何かどこかが激しく違う気がします。

うぬぅ、精進していきたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲーム主人公食う勢いのチートな設定のゲーム脇役主人公がおもいっきり人生を楽しんでいる姿が良かったです。 ちょっとチート過ぎると思いますが、生まれと容姿(素材部分)以外の名声や幸せ、美貌(どん…
2012/03/01 23:33 退会済み
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