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Dウォーズ  作者: unkonown
2/6

01.刹那を取り巻く世界

「今日はカレーにするかなー?」

 

「カレーですか。良いですね、たまには。兄さんの作るカレーは美味しいですから♪」

 

 夜の21時にもなる商店街を歩きながら今夜の晩飯を話し合う俺達。

 俺の名前は綾瀬刹那(あやせせつな)、高校二年の十六歳の高校生だ。

 髪は黒、瞳も黒、身長は平均男子に比べて少し高い。ルックスは平凡、妹に言わせればそこそこのルックスらしいが俺はそうは思わん。

 成績は中の下、せめてのものは運動が多少良いことぐらいの何ともない高校生だ。

 

「でも兄さん、急がないとお店が閉まっちゃいますよ?」

 

「やべっ!急げ急げ!夕夏(ゆうか)も走れ!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さーい!」

 

 俺のことを『兄さん』と呼ぶこの少女。

 当然俺が趣味で呼ばせているわけじゃない。

 名前は綾瀬夕夏(あやせゆうか)、俺の実の妹だ。

 長い黒髪を後ろで纏めており、瞳は俺と違ってどんぐりのような茶色の瞳、身長は平均女子より少し高い。

 で、これまた俺と違って容姿は正に美少女と言えるレベル。

 体格もスレンダーながら出るところは出ていている。

 兄として誇れるよくできた妹で勉強に運動と文武両道、さらには面倒見も良いときたもんだから男女共に人気が高いこと高いこと……

 ほんとに俺の妹か、と疑いたくなるほどのできた妹だ。

 だがそんな妹、如何いうわけか未だに彼氏がいないのだ。

 理由としては告白を全て断っているらしい。

 まぁ、兄としては複雑な心境なんだよな。

 変な男と付き合わないか心配だし、それでもいい加減誰か一人と付き合ってみるのも悪くない年頃。

 夕夏には甘酸っぱい青春の1頁を送って欲しいのだ。

 おっと、話が脱線したな。

 で、えーと俺は何してたんだっけ?

 

「兄さん!聞いてますか?」

 

「あ、何が……?」

 

「はぁ、聞いてなかったんですか………だから春香(はるか)ちゃんもカレーで良いそうです」

 

「お、そうか。なら早いとこ帰って飯にしなきゃな!」

 

 行きかう人達の隙間を縫うように目的地のスーパーへ向かう。

 商店街のあちこちからは賑やかな声が飛び交い、明るくそれでいて温かい雰囲気だ。

 俺はこの街の、この商店街の雰囲気が結構気にいってたりする。

 だからこそ、彼女の存在は浮いていた。

 何故なら手にはハンドガンを持ち、何かから逃げるように走っていたからだ。

 いや、実際に逃げていた。

 複数の男達が女の後ろを追走していたのだ。

 あれは如何見ても追いかけられてるようにしか見えない。

 女はそのまま裏路地に逃げ込んだ。

 

「…………」

 

「兄さん?どうかしま……」

 

 不意に足を止めて真面目な顔になっていた所為か、夕夏は俺の顔を覗き込むように俺の目を見た。

 俺の目線を辿ったんだろう、あの連中を見て夕夏も口を噤む。

 

「……様子を見よう」

 

「……はい」

 

 俺達は静かに裏路地の様子が見え、尚且つ気づかれない場所に移動した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ………ったく、あんた達しつこい!一体何の恨みがあって襲ってくるんだよ!」

 

 逃げ込んだ路地は丁度行き止まりだったらしく、女が振り向いて男達に大声で聞く。

 それに対して男達はニタニタ気色の悪い笑みを貼り付けながら徐々に距離を詰めていく。

 

「うっせぇんだよ。お前が俺の有り難い誘いを断ったのがいけねぇんだ」

 

「はぁ!?何その理不尽な理由!ナンパして断られたくらいでそれはないんじゃない!」

 

「だからうっせぇんだよ!俺にとっちゃくらいですむような問題じゃないんだよ!礼はたっぷりと帰させて貰う。お前ら、遊んでやれ」

 

 うわー……可哀想に、随分くだらん理由で追っかけられてたのか。

 まぁアイツ(・・・)なら大丈夫だろ。一応見届けるか。

 

『換装!』

 

 男達が声を揃えて叫ぶ。

 するとそれぞれの武器―――幻想武器(イマジンウエポン)を顕現させる。

 種類は様々に、木刀にメリケンサック、金属バット、チェーンなどなど……

 あいつ等の幻想武器はそのまんまを見事に表してるな。

 因みに武器にはランクがあり、そのランクに見合った武器しか顕現できない。

 

「ふざけんなぁーーーーー!!」

 

 武器を携えて突っ込んでくる男達に対して手に持っていた幻想武器の銃を連射しながら叫ぶ。

 

「ふざけんよあたしが何であんたのそんなくだらない理由でリンチに遭わなきゃいけないの!てかだったら最初からナンパなんてことすんなよ!そーだよ最初からするなつうーか一生すんな!迷惑だ!!」

 

 相変わらずの早口だな……水が流れ出るかのように一息で言葉が連射されていく。

 それに合わせて弾も連射されていく。

 スチェッキン・マシンピストル。

 装弾数が20発な上にマシンガン、とまでは言わないがかなりの連射力を誇る銃だ。

 ばら撒く様に撃っただけで先頭を走っていた何人かが次々に倒れていく。

 死んじゃいないが、殆んどが気絶していく。

 武器の威力は実物に匹敵するもの、それが死ぬか死なないかの違いだけだもんな。

 

「おらぁーーーっ!上ががら空き……ぶっ!?」

 

 あちゃー!痛い!今のは絶対痛い!!

 俺がやられたわけじゃないのに物凄く痛く感じる!

 ほかの連中も皆男だけが持つ急所を押さえる。

 よりによって男の大事な部分を蹴り上げるなんて……!

 蹴られた本人なんかは白目を剥いて気絶してる始末だ。

 いくらINフィールドがあるつっても幻想武器じゃない攻撃は殆ど通っちまう。

 

「お、お前!何てことしやがる……!お、男のシンボルをそ、そんな、そんな……!」

 

「うっさい。男がいちいち喚くんじゃない。我慢しろ」

 

『そういう問題じゃねぇーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 クソッ!あんなことされて叫ばない男なんているわけねぇだろ!?

 アソコはどんなに頑張っても鍛えられないからな!?

 屈強な武士(もののふ)でもアソコを蹴り上げられれば一発KOだ。

 

「あぁ骸になる♪ あぁ死体になる♪ 生か死かはあなた次第なの♪ あぁ今夜だけ あぁ今夜だけ もぉどおにも止まらない♪ あぁ骸になる♪ あぁ死体になる♪ 生か死かはあなた次第なの♪ あぁ今夜だけ あぁ今夜だけ もおどうにも止まらない~♪」

 

 勝手に歌詞変えた歌を口ずさみながらスチェッキンの弾を撃ち尽くす。

 こえぇ~!こえぇよ!

 当事者じゃないとこんなにも怖いものなのか!?

 

「兄さん……今さら気づいたんですか?」

 

 我が妹が半眼でこっち見つめながら小さく言ってくる。

 俺は気まずくなりながらも敢えて無視して状況を確認する。

 

「はぁ~っ♪か・い・か・ん……!」

 

 うっとりとした表情でそんな言葉を洩らす。

 

「く、クソッたれ……!トリガーハッピーかコイツは!」

 

 うん?何だ、上に人影が……

 む、連中の仲間か。

 なるほど、頭上から奇襲を仕掛けるつもりだな。

 連中のリーダーっぽい男が時折上に目線を走らせてたのはこういうことか。

 

「仕方ない、いっちょやりますか」

 

「兄さん、だったら最初から助ければいいんですよ」

 

「いやだって大丈夫だろと思ったんだ。ほらでも仲間が増えたんじゃきついだろうと思って助太刀するだけであってだな……」

 

「ちゃんとした日本語を話して下さい。……でも兄さんのそういうところは好きです///」

 

 頬を薄ら赤く染めて微笑む妹の夕夏。

 

「よく分からんがさすが俺の妹。俺の良いところをよく分かってる。ありがとな」

 

 妹でも女の子にありがとうと言われれば素直に嬉しい。

 

「むぅ……。兄さんのそういうところは嫌いです」

 

 途端、不機嫌になる夕夏。

 え~っと、何故に?

 

「それより行きますよ、兄さん。もたもたしてる内に動き出しましたよ」

 

「「換装!」」

 

 

 

 

 ✝

 

 

 

 

「そんじゃあんたも逝っとく?」

 

「な、舐めんじゃねえぞ。おいお前らかかれ!」

 

 合図とともにビルの上から飛び降りて女を囲む。

 

「げっ!まだこんなにいたのかよ……」

 

「へ、へへっ。今度こそ終わりだ。やれー!」

 

『ぎゃあーーー!!』

 

「……!?」

 

「終わりましたね」

 

「何が、起こったんだ?いや、お前は誰だ!?」

 

「誰だと言われても単なる通りすがりだ」

 

 連中のリーダーが俺の声に慌てて振り返る。

 コイツの仲間は夕夏が高速で懐まで踏み込んで幻想武器の薙刀で全員を一撃で薙ぎ倒した。

 夕夏の戦闘能力を舐めちゃいけない。

 

「あんたの仲間は皆仲良く気絶してるがどうする?まだやるか?」

 

 ま、俺は勝手に出てきて喋ってるだけだがな。

 手を下したのは全部夕夏だし。

 

「三対一。どっちが不利かは一目瞭然だが……」

 

 一歩、また一歩と近づきながら言葉を紡ぐ。

 徐々に威圧し、追い詰めていくに連れ、男は遂に雑魚キャラの定番台詞を残して逃げて行った。

 

「お、覚えてろー!」

 

 今時その台詞はちょっとどうかと思うぞ。

 

「いやー助かったよ、さすがだねー!」

 

「お前は銃の乱射のしすぎなんだよ。もうちょっと狙って撃ってみろ」

 

 振り返りながら女にそう言う。

 

「そんなこと言うなよー。あたしとせっちゃんの間だろー!ねー、夕夏ちゃん?」

 

「え、えっと、そうなんですか?」

 

 夕夏が返答に困るといった具合で答える。

 いや答えにはなってないか。

 

「その呼び方はあんまり好きじゃないんだがなー……」

 

「細かいことは気にするなせっちゃん」

 

 俺のことをせっちゃんと馴れ馴れしく呼ぶこの女。

 実は俺のクラスメイトで数少ない親友でもある。

 神崎皐月(かんざきさつき)

 ダークブラウンの髪をポニーにしており容姿は精緻で綺麗、つまりは美がつくほどの少女。

 さらには身長もそこそこある上にグラマーのような体格。

 性格は明るくボーイッシュなために男女ともにやはり好評だ。

 どういうことかこいつとは気が合うらしく、よくつるむことが多い。

 

「助けてくれたのはいいんだけど、刹那は何でこんなとこにいるの?」

 

 ルビー色の瞳を瞬かせながら首を傾げて聞いてくる。

 

「兄さんまずいですよ!すっかり忘れてました!」

 

「そうだった……!夕飯の買い物に来たんだった。急ぐぞ夕夏!まだ間に合う!」

 

 こっちに構い過ぎていた所為で大分時間が経っている。

 急げば十分に間に合うが家で待ってる春香のことを考えるとゆっくりはしていられない。

 

「そっかー、じゃあお礼は今度にするよ。さっきは本当に助かったよ」

 

「あぁ、悪いが急いでるんでじゃあな!気ぃつけて帰れよ!」

 

 適当に別れを告げて俺達はその場を後にし、スーパーへと足を運んだのだった。

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「ただいま帰りました」

 

 家に無事帰ると出迎えたのは後頭部への多大なダメージだった。

 

「ぐはっ!」

 

 家の中に入るなり何かが俺へ突進、そのまま押し倒されながら俺の頭は玄関のドアノブに見事ヒット。

 そして追加ダメージとして倒れた衝撃が襲った。

 

「に、兄さん!?大丈夫ですか!」

 

「あたた………大丈夫だ。ったく、春香よお願いだからそのオープン・ザ・ドアした瞬間に飛び込んでくるのは勘弁してくれ」

 

「……お兄ちゃん達、遅い」

 

 俺に飛び込んできた少女―――綾瀬春香(あやせはるか)は不機嫌そうにしながらも俺の胸に顔をすり寄せていた。

 肩辺りで切ったくすんだ茶髪を手で梳きながら宥めに掛かる。

 思いつく謝罪の言葉を心込めて言い続けると、許してくれたのか俺から離れた。

 

「お兄ちゃんにお姉ちゃん、何で遅かったの?」

 

 どうも理由を聞く為に一度離れたらしい。

 こりゃ回答によっちゃ酷い目に遇うことは間違いない。

 何も悪いことをしてないのに俺は慎重に言葉を選びながら事の成り行きを話した。

 途中夕夏が補足してくれながら、事情を説明し終えると、春香は微笑んだ。

 

「そっか。だったら仕方ないね」

 

 春香は頷くとご飯にしよ、と言ってリビングに向かっていった。

 そうだった、今日の料理担当は俺だ。

 早く支度しないと。

 夕夏も一度着替えに自分の部屋へ向かい、俺はキッチンにて晩飯のカレー作りに勤しむ。

 おっと、そういえば春香の紹介がまだだったな。

 綾瀬春香(あやせはるか)、名字からも分かると思うが春香も俺の妹なのだ。

 つまりは俺と夕夏、そして春香の三兄妹。

 俺が一番年長者であり、二人の妹は俺の一つ下だ。

 性格は夕夏程じゃないが真面目だが、天真爛漫で明るい。

 幼さが抜けてないその顔や身長が少し低いのも相まって、見ているだけで癒されるようなそんな感じの子だ。

 それとなんだが春香は俺の実の妹ではない。

 夕夏は実妹だが、春香は義妹なのだ。

 それは本人も知っており、飛行機事故で親を亡くした春香を親戚だった俺の親が引き取ったのだ。

 まだあの時は夕夏も春香も八歳で俺が九歳の時だったかな。

 当時は少しばかりぎくしゃくしていた感はあったが次第に打ち解けて、今じゃ本当の兄妹だ。

 

「おーい、もうそろそろ席に着けー。刹那特製カレーライスが出来上がるぞー」

 

 二人の妹ともう二人の住人に呼びかける。

 

『はーい!』

 

 元気の良い返事が我が家に今夜も響く。

 

 

 

 

 ✝

 

 

 

 

 ピッ!ピッ!

 

「すー……すー……」

 

 ピピッ!ピピッ!

 

 

「…うーん……」

 

 ピピピッ!ピピピッ!ピピピピピピピピピピピピピッ!

 

「…………」

 

 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ―――

 

「だーーーっ!クソうるせぇ!!」

 

 眠りを妨げる目覚ましを叩き潰すようにボタンを押す。

 あー最悪だ。

 それに眠いし、眠いし、眠い。

 カーテンの隙間からは朝日が零れ、部屋の中を照らし出す。

 変形した時計で時間を確かめる。

 おかしいな、一応飛行機が上に墜落しても耐え得る強度がこの時計の売り文句だったんだが……

 また買い換えるか……な?

 ベットから這い出ようと手をついた瞬間、温かくそれも程良い弾力のあるムニっとした感触が伝わってくる。

 

「んっ……」

 

 そして下から聞こえてくる可愛らしい小さな声。

 は?何だ今の声は?

 それにこの手触り、これは明らかに人工のものじゃない自然なもの。

 俺は恐る恐る手をついた場所を見る。

 そこには規則正しい寝息を立て、安らかな眠りを満喫している美少女がいた。

 ぶかぶかのワイシャツ一枚に可愛らしい水色の縞パンツだけという何とも興奮す……げほげほっ!

 何ともラフすぎる格好で眠っていた。

 そして俺の手は予想通り、その、何と言うか、彼女の胸の上についていた。

 まずいまずいまずい……!

 マジでまずいですよ俺!

 こんなところをあの二人に見つかりでもしたら、俺の命は風前の灯間違いなしだ。

 兎に角こいつをどうにか隠さないと―――

 

「兄さん、起きてるんですか?入りますよ」

 

 ぎゃあーーー!今最も来て欲しくない時に!

 えぇい仕方ない。斯く()なる上は手段を選べない!

 

「珍しいですね、兄さんが自分で起きるだなんて」

 

「あ、あぁ。その代わりまた目覚ましが仏に召されたけどな……」

 

 事実俺の目覚ましは時を刻むのを止め、床に転がっている。

 夕夏はそれを拾い上げ溜息を零した。

 

「はぁ。兄さんこれで何個目ですか?」

 

「え……えーと、確か今年は15個目?」

 

「今年は既に24個破壊してます。去年の時点で100個は粉砕してますね」

 

 去年このことで皐月に『目覚まし時計の破壊者(アラームブレイカー)』という、何とも不名誉な称号を頂いた。

 今年こそは撤回させる気だったんだが、この調子だと更なるランクアップが待っていそうだ。

 

「それより兄さん、早く出て下さい。布団を畳めません」

 

「い、いや!今日は俺がやる!ほ、ほら久しぶりに自分で起きたからな!な!」

 

「いーえ!私が畳んでおきます。兄さんは顔を洗って来て下さい|(でないと兄さんの布団の匂いが嗅げません)」

 

 くっ、食い下がらない気か……!

 どうする、どうするよ俺?

 

「はっ……!わ、悪いがそれは出来ん。それより兄さんはこれから着替えるから部屋を出てってくれないか?」

 

「分かりました。でも先に布団を片付けたいので後にして下さい」

 

 何という頑固な妹だ。

 今この場において妹の真面目な性格が恨めしい。

 

「その、だな。兄さんも男だ。分かるだろ?朝はその……下が、な」

 

 できれば言いたくはなかったがこの際だ。

 そう言うと夕夏は一瞬訝しげに首を傾げたが、何か思い当たったのだろう、顔が一瞬で熟れたトマトのように赤くなり、下に俯く。

 因みに俺はなってないぞ。

 あれは絶対に起こるものじゃない。多分。

 さすがの夕夏でもこれでは対処できまいよ。

 そう俺が思ったのも束の間。

 どうやら俺の考えは砂糖100パーセントオンリー入った牛乳より甘かったらしい。

 この妹、俺の考えの直角90度上を行くらしい。

 顔を上げた夕夏は頬を上気させつつも、片手を口に当て、とんでもないことを言ってくれた。

 

「……兄さんのだったら…別に見てあげても……いいですよ………」

 

 ぼそぼそと小声だったが、俺の部屋は静かで、その声ははっきりと聞こえた。

 

「ちょっと待て!冗談だよな!?いくら兄妹でもそれは困る!いやお前が困らなくても俺が困る!」

 

 やめてくれ!マジやめてくれ!色々な意味で。

 そういうことをほかの男子にでも言ってみろ、誤解が起こり、襲われたりするかもしれんぞ。

 しかし弱った。

 夕夏に俺の布団の中を見られるわけにはいかないんだ。

 ん?おねしょとかじゃないぞ。

 

「そ、それよりお願いだから早く出てくれ。このままじゃ学校に遅刻しちまう」

 

 事実この無意味に等しいようで意味あるやり取りをしている間に、時間は刻一刻と過ぎていた。

 

「仕方ありませんね、それじゃ下で待ってますよ」

 

「あぁ、すぐに行くよ」

 

 そう言うと夕夏は部屋を出て行った。

 はぁ、助かった。

 

「何がですか?」

 

「どわぁっ!」

 

 俺が安堵の息を吐いた時、部屋の前にはリビングにいったはずの夕夏が半眼でこっちを見ていた。

 どうしてまだそこにっ!?

 

「どうしても何も、兄さんの挙動が少しおかしかったので」

 

 しまった、嵌められた!

 もう手がない……!

 さようなら、友人達、さようなら、世界、さようなら、俺の人生……

 

「一体布団に何隠してるんですか」

 

 ベットに近づいて来て布団に手を掛ける夕夏。

 終わった、何もかも……!

 

「…………」

 

「…………」

 

 無言。

 

「…………」

 

「…………」

 

 場を満たすのはただただ無言の重圧のみ。

 

「……兄さん、これはどういうことか説明して貰えますよね?」

 

「……はい」

 

 飽くまで穏やかに、そして優しく、それでいて殺傷能力があるなら致死的ダメージ間違い無しの殺意が込められた奇麗な声で俺に聞いてくるのであった。

 いや寧ろ、俺にはNOと言える権限すらない。

 ただ俺は頷くままにこれから始まるであろう地獄を耐える術意外に道はない。

 

「刹那ぁー……」

 

 隣に眠る少女が夢見心地の甘い響きをもった声で俺の名前を呼び、そして俺に止めの一撃とも言える行いを実行したのだった。

 

「チュッ」

 

 少女は唐突に俺の頬にキスをした。

 そして俺の地獄行きは無限地獄へと変貌することになったのだった。

 少女は何事も無かったかのように再び夢の世界に、いやもともと夢の世界か。

 少女から夕夏に視線を戻すと、そこには体を震わして俯く夕夏がいた。

 まずい、怒りの限界地点を突破する……!

 

「死んだな、俺……」

 

 朝から家には俺の絶叫が響き渡り、少女の寝息はそれでも静かに続いていた。

 

 

 

 

 

「で、お兄(兄さん)ちゃん。これはどういうこと(ですか)?」

 

 今現在、夕夏の幻想武器によって半殺しに合い、リビングで不当な尋問が繰り広げられていた。

 そこにプラス春香が加わり、より濃密な殺意がその場を支配していた。

 

「どうしてノエルちゃんがまた兄さん(お兄ちゃん)の部屋のベットにいるんですか!?」

 

 俺の腕に抱き着いて猫のようにゴロゴロする少女―――ノエルを指差しながらヒステリックに叫ぶ夕夏と春香。

 

「そう言われてもな、ノエルだって家に住んでるわけだし……」

 

「だからって何で兄さんと一緒に寝てるんですか!?」

 

「そうだよ!」

 

 相変わらずこの空気の中を何食わぬ顔でいるノエル。

 そう、彼女は我が家に住むもう一人の住人だ。

 別に家族や親戚だったりするわけじゃい。

 だからと言って俺の彼女や許嫁(いいなずけ)でもない。

 存在そのものが謎に包まれたミステリー美少女だ。

 は?何言ってるか分からないって?

 俺だって分からない。

 言葉の意味そのままだ。

 ある日突然出会い、気づいたら家に住み始めていた。

 ノエルとの出会いと素性については話すと長くなるので今度話すことにしよう。

 ノエル。

 年齢は一応十六。出生不明、出身地不明、種族不明といったアンノウンガール。

 因みに種族不明というのは理由がある。

 人であって人でない。

 人でなくて人である。

 そういった存在なのだ、彼女は。

 これについても面倒だし、俺自身未だに解らないところがあるから何れ語る事もあるだろう。

 容姿は正に完璧と言っていいほど整っている。

 すべらかで滑らかな白い肌、そしてさっき触った時も思ったが程良い大きさの整った胸。

 スポーツカーや新幹線の流れるようなフォルムに似た綺麗な曲線美。

 ミントブルーの髪をツーサイドアップにし、アメジストのような瞳を持つ。

 そんな彼女は如何いうわけか俺にやたらと懐いており、よく布団に潜り込んでいることがある。

 どっかで言ったかもしれないし、言ってないかも知れんが一応俺も青春をエンジョイする予定の男子だ。

 予定、という部分はどうか察して欲しい。

 つまりは内心ドキドキハラハラのうれしはずかしのイベントなのである。

 間違っても間違いは犯さないが、その……な。

 同時に俺の死亡フラグの確立でもあるので、出来れば自重して欲しい。

 でも心のどっかでは一緒に寝たい!

 そんな葛藤が俺の心の中を支配していた。

 そして妹達が怒っている理由についてはよく分からんが、きっと年頃の男女が一緒に寝るのは不味いということを言っているのだろう。

 それで俺が間違ってノエルを襲わないか心配してるんだろうな。

 因みに一応ノエルの部屋はあるんだが、殆どをリビング、俺の部屋、そして屋根の上で過ごしている。

 

「な、なぁ……いい加減許してくれ。俺は何もしてないし、そろそろ行かないと遅刻するって。俺これ以上遅刻ができないんだ。遅刻常習犯として先生に目を付けられてんだよ」

 

「自業自得です!それよりノエルちゃん、兄さんの部屋には余り近付いちゃダメですよ」

 

「そうだよ、わたしだって最近はお兄ちゃんと一緒に寝かせて貰ってないんだよ」

 

 いや、この年になると一緒に寝るのは恥かしいんだよ。

 普通は向こうから拒絶するものだと思うんだが、こいつらはその逆でどんどん積極的になってきてる気がする。

 特にノエルが家に住み始めるようになってからだったかな?

 

「刹那はいやって言ってない。だから平気」

 

 そう言うとまた俺の腕に抱き着いて頭を肩に預けてくる。

 

「「むぅーーー!」」

 

 すると夕夏と春香は頬を膨らまして俺を睨む。

 何故に俺が睨まればならん。

 

(私だって兄さんと腕を組みたいのに……!)

 

(こないだなんか背中を流そうと思ったらすぐにお風呂から上がっちゃうし……)

 

「刹那、学校に行こ?」

 

「そうだな、それじゃ二人とも、先行ってるからな」

 

 俺はそのまま鞄を持って家を出ようとする。

 すると考え事をしていて反応が遅れた二人が後ろから叫んでいたが俺は早足に家を出た。

 あのままいたらいつ解放されるか分からんからな。

 

「兄さん!まだ話はおわってませーーーん!」

 

 家を出て数十秒後、後ろから薙刀を持った夕夏とダガーを装備した春香が追いかけてきていた。

 

「まずい!走るぞノエル!」

 

「うん」

 

 ノエルの手を引いて全力ダッシュをする。

 後ろからはダガーが飛んでくるはスピードを落とせば薙刀が接近してくるはと危険で、止まることは許されない。

 力ずくでも捕まえる気か!

 

「ダガーを兄に向って投げるな!危ないだろ!」

 

「これもお兄ちゃんのためだよ!愛の鞭ってやつ!」

 

「これはどう見ても愛の鞭じゃなくてナイフだろ!?」

 

「じゃあ愛のナイフ投げ!」

 

「なおさら物騒だなおい!?」

 

 そんなやり取りを繰り広げながらも無事聖夜学園に辿り着いた俺は自分の校舎に向かう。

 遠くから「帰ったらじっくり話し合いましょう」なんて言葉が聞こえたが、とにかく今は気にしないでおこう。

 聖夜学園。

 広大な敷地内に小中高がある学園。

 よっぽどのことがないかぎりは進学できるエスカレータ式を取り入れてる私立の学園で、小学年から居る者や、途中から入って来た者もいる。

 そして聖夜学園には様々な人間が通い、金持ちの生徒や頭の良い生徒、スポーツに秀でた生徒に一般生徒。

 そんなあらゆる人間が通う学園で、勉学にスポーツ共に有名な学園である。

 それぞれには校舎があり、エリート達用の校舎があったりする。

 エリートというのはそのままの通りだ。

 これは成績が驚くほど良い奴や何かに対して優れた連中を指す。

 後は金持ちや、有名人の子供とかだな。

 これは聖夜学園の理事長が配慮したものだ。

 こういった連中の中には、俺達一般人を見下したり、差別的な考えを持った奴がいるからだ。

 それを考えた上での制度と、その親達からの圧力とかなんだろう。

 だがまぁ中にはそれを断って、俺達一般校舎で共に青春を過ごす道を選ぶ者もいる。

 それにエリートの全員がそういうわけではない。

 とりあえず説明はこれくらいでいいだろ。

 俺達を取り巻く環境はある程度分かったか?

 といっても、これはまだほんの一部にすぎない。

 まだほかにも癖の強い友人がいるし、学校での生活もある。

 

 

 今日も騒がしくも賑やかな一日が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


どうもunkonownです。

連続で後もう一話投稿します!

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