夜の中で、灯りは灯る
部屋の天井を見上げると、少しだけ模様があるのに気がついた。
「こんなところ、前からだったっけ……」
高橋玲は、久しぶりにカーテンを少しだけ開けた。
光が眩しかった。でも、今は眩しさも痛くない。
——長い長い、闇のトンネルの中にいた。
眠れなくて、朝も起きられず、ごはんも食べられなかった日々。
「自分には価値がない」と思い込んで、世界と接する気力さえなくなっていた。
誰にもわかってもらえない。わかってもらえないのに、「がんばって」と言われる。
そのたびに、心がすり減った。
そんなある日、玲はスマホの電源をようやく入れた。
LINEには、何通もの未読メッセージがあった。
けれど、読む気にはなれなかった。
ただ、一通のメッセージだけが、画面の中で浮かび上がった。
「今日も生きててえらい。
呼吸してるだけで大丈夫。
玲はそのままでいい。
夜の中にも、灯りはあるからね。」
それは、昔の親友からの言葉だった。
既読もつけられず、返信もできなかったけど——心に染みた。
その日、玲は泣いた。
誰にもわかってもらえないと思っていた。
けれど、本当は、「わかりたい」と思ってくれている人もいた。
「がんばれ」と言わないで、ただ、「生きててえらい」と言ってくれる人がいた。
*
あれから少し時間が経った。
朝、目が覚めて、カーテンを少しだけ開けることができるようになった。
それだけでも、今日は自分をほめていいと思った。
まだ何もできなくてもいい。
ゆっくりでいい。
少しずつ、少しずつ、自分を取り戻していけばいい。
玲は、小さなため息をついて、ふと空を見上げた。
曇り空の隙間から、ほんのわずかに光が差していた。
まるで、雲の向こうに太陽がずっとそこにあるように。
——夜の中で、灯りは確かに、消えていなかった。




