貴様を殺すのは…。
今では珍しくもない敵役のタイプに次のようなものがある。
『勘違いをするな! 貴様を殺すのはこの俺だ!』
普段は敵対しているくせに主人公が苦境に立たされるとやってきて、ツンデレ気味な言葉を吐きながら主人公と共闘あるいは手助けをしてくれる。
普段は殺し合いさえしているのに無理矢理理由をつけて助けてくれるなんて……心躍る展開の一つであるのは間違いない。
さて。
何故、こんな事を急に口にしたのかと言えば……。
「古から続く貴様への恨み……! 今、果たしてやる!!」
ベッドの上で微睡む私の頭上でお侍様が血走った目で刀を握っている。
そして、勢いよく刀を振り上げた直後。
「なっ!?」
突如、お侍様の胸を槍が一突きし、その衝撃に呆然としながら刀を持ったお侍様は消えた。
私が片目をこすってそちらを見ると、別のお侍様が槍を握って私へ吐き捨てる。
「勘違いするな。貴様を救ったわけではない! 貴様への恨みを果たすのはこの……」
槍のお侍様が言葉を言い切る前に今度は矢が飛んできて槍のお侍様の首に刺さる。
「恨みを果たすというのであれば我に一番その資格が……」
あぁ、次は鉈で首が刎ねられた。
私は大きく伸びをして顔を洗いにいく。
朝食を食べる頃には遭遇したお侍様の数は二十人を超えていた。
ついでに言うとまだまだ増える。
そして、今日消えていった輩は幽霊であるためか翌日には何事もないような顔で現れるのだ。
制服に着替えて外へ出る。
背後できゃいきゃい続くお侍様の恨み節を聞きながら私はぽつりと呟いた。
「前世で何したんだろ。私」
答えなど出るはずもなく、私は今日も変わり映えのしない一日を過ごすことになった。