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クエスト3 『ドンダーとティラノ』

 ドンダーは焦っていた。

 ドンダーは、サンタローに対して人一倍の忠誠心を持っていた。サンタローの目標のために、少しでも多く貢献したいと心の底から思っていた。また、彼は目的を遂行することを最大の是としていた。けれど同時に、情に厚いところもあり、そして愚かでもあった。

 ローズとの対決が決まった頃、ドンダーは壁にぶつかっていた。伸び悩んでいた。貢献できないかもしれない——それはドンダーにとって大問題だった。

 チームでの模擬戦を行った時、ドンダーは自身の力をもっと高める必要があると思った。だが、それを素直に言うことはできなかった。自分の力を高める時間を作るために、他者の未熟さを理由にした。目的遂行能力に欠ける他者も、ドンダーには許せなかった。


 ある日、ドンダーはキューピットのもとを尋ねた。特訓の手伝いを頼むためである。

「プレゼントモンスターを出してほしい」

 それは、一人でやる、できると思っていたドンダーにとっては屈辱的な選択であったが、それでも他に選択肢がなかった。一人でできることには限度があった。

 キューピットから返ってきたのは、意外な言葉だった。

「ドンダーで二人目だね。僕にそう言ってきたのは……」

 そう言って、キューピットは意味ありげに笑った。

「……ダンサーの野郎か。ったく、腹立たしいぜ。それで、やってくれるのか? どっちだ!」

「……フフ。——もちろんいいよ! 何度だって協力させてもらうさ」

 そうしてドンダーは、キューピットが作りだす仮想プレゼントモンスターを使った特訓をスタートした。

 仮想ターゲットを使った練習は、一人での練習よりもはるかに効果があった。多くの気づき、学びがあった。だが同時に、まだ足りないという危機感もあった。


 ——ティラノに想定外の宣言をされたのは、ちょうどその頃だった。

 正直、ドンダーは驚いていた。あれだけ弱気だった男から、あんなに力強い言葉が出てくるとは思いもしなかった。だからこそ、ドンダーは初めてティラノに期待する気持ちを感じていた。それがなんだか認めがたかった。


 それから数日が経ったある日、キューピットの力を借りて自主練を行っているトレーニングルームに、突然ティラノが飛び込んできた。

「……何やってるの?」

 どうやらティラノは、秘密の特訓のことは知らないようだった。本来は誰にも知られたくないドンダーだったが、見られてしまった以上、すぐに追い出す方向へ意識を切り替えた。しかし、状況を理解したティラノから発せられたのはまたしても想定外の一言だった。

「——僕とペアを組んで模擬戦をしてくれ! 僕がアタッカーでドンダーがディフェンダ―。二人でプレゼントモンスターを倒す模擬戦をしよう!」

 あまりに突飛なその提案、ドンダーは威圧的な声を使って拒否した。

 しかしそこで、思わぬサポーターが現れる。

「——やった方がいい。これはきっと、君のためになるよ、ドンダー」

 キューピットはそう言って、ティラノからの提案を受けるよう勧めてきた。

「前に二人目だと言ったろ? 僕に協力を求めてきたトナカイはドンダーで二人目だった。——一人目は彼だよ、ティラノが僕にプレゼントモンスターを出してほしいと頼んできた一人目のトナカイだ。ティラノは僕との練習で、アタッカーとディフェンダーの経験を積んでいる。ティラノもめちゃくちゃを言ってるわけじゃないよ」

 その言葉で、難色を示していたドンダーも態度を変えた。

 プレゼントモンスターに対して向き合う特訓をしていた——それだけで、ドンダーにとっては意外なことだった。それも、ドンダーが行動を起こすはるか前から。

「……思ってたよりは根性あったってことか。いいだろう、やってやろうじゃねえか‼︎」

 そうしてドンダーはティラノの提案を受け入れた。


 ペアでの模擬戦が始まった。ティラノの動きは想定よりも優れたものだった。だがそれはまだまだお粗末なもの。努力は認められても、アタッカーとして認められるほどのものではなかった。ティラノは、ダンサーの代わりにはなり得なかった。だが——

「——ハッハ〜ッ! こりゃあ良い‼︎」

 拙い連携を行いながら、ドンダーは叫んだ。

 一緒に戦っているのは未熟も未熟なヘボヘボアタッカー。にも関わらず、それがいることによって気づきのレベル、訓練の濃度が段違いに上がっている——ドンダーは全身でそれを感じていた。

 模擬戦が終わった後、ドンダーは思ったように動けず落ち込むティラノに詰め寄った。

「……なるほどな。こりゃ確かに」

 情けない顔をするティラノ、それを見てドンダーは真顔でつぶやいた。それから大きく息を吸い込むと、壁にかかった時計を確認し、キューピットの方へ振り向いた。

「——まだ全員基地にいるよな? お前の力でここに集めてくれ、話したいことがある!」

 キューピットは楽しそうに笑い、うなずいた。

 数分後、ダッシャーとダンサーがトレーニングルームにやってくる。二人とも自主練の最中だったのか、トナカイスーツを着ていた。

「一体なんの用? キューピット。どうしてドンダーがここにいるの?」

 あの日以降、一度も会話をしていなかったドンダーとダンサー。今もっとも険悪な二人の遭遇に、現場にピリついた空気が走る。

「いやぁ、僕が二人を呼んだわけじゃない。ドンダーが君を呼んだんだよ」

「え?」

 想像すらしていなかった言葉に、ダンサーは驚きの声を漏らす。それはダッシャーも同じだったようで、全員の視線が必然的にドンダーに集中した。

「——すまんダンサー! 俺が間違ってた!」

 全員が注目するなかで、ドンダーは勢いよく頭を下げた。呼び出しに協力した二人も予想外していなかった行動。この場にいる全員が驚きで固まる。

「……このクリスマスを乗り越えるためには、全員が協力して力を高めていく必要があったんだ! お前の力が足りないんじゃない、『俺たち』で強くならなきゃいけなかったんだ! だから頼む! もう一度協力してくれ! ここからは個人じゃない、チームで練習したいんだ! 他の奴らもどうか、お願いしますっ‼︎」

 目配せする四人。ドンダーは頭を下げたまま動かない。普段は見上げている頭が、今は目線の下にある。静寂のなか、最初に口を開いたのはダンサーだった。

「……どういう風の吹きまわし? 一体なにがあったら、そんなに改まった態度になれるの?」

 困惑の混じったダンサーの声。ドンダーはそのままの体勢で答える。

「俺が求めているのは成果と成長だ。昔も今も。それを追い求めた先で、これが必要なことだと気づいたんだよ。……あとはまあ、気に入らない見習いが、多少余計なことをしてくれたせいだな」

 ドンダーの言葉で、ダンサーはティラノを見る。それから少し考えるように黙り込むと、「はぁ」と息を吐いて口を開いた。

「——わかった。いいわ、チーム練習を再開しましょう。それと……、私も、ごめん」

「ダンサー……‼︎」

 ドンダーは顔をあげ、安堵の笑みを見せた。それは、久しく見せていない彼の笑顔だった。


 具体的な話し合いの末、明日からチーム練習を再開することが決まり、トナカイ達は解散となった。

「——一体なにをしたの? さっき、ドンダーがあなたのことを変化の理由として挙げていたようだったけど……。」

 ふと、ティラノに話しかけるダンサーの声が聞こえてくる。

「えっ、いやどうなんだろ……。僕もよくわかってないというか。ドンダーと一緒に一度模擬戦をして、そしたらドンダーが急に『話したいことがあるから全員呼べ』って言い出して、それでああなったっていうか……」

 たじろぎながらも流れを説明するティラノ。その言葉を聞いて、ダンサーは「ふぅ」と息を吐いた。

「そう……。じゃあ本当にあなたなのね……。……すごいじゃん、見直した」

「——えっ! えっ、そう⁈」

 ダンサーの静かな微笑みに、あからさまに挙動不審になるティラノ。そんなティラノを見て、ドンダーはニヤリと笑った。

「——ちょいちょいちょい! お前こっち来い!」

 すかさず二人のもとに駆け寄ると、肩に腕をまわしティラノだけを連れ去った。

「……お前、ダンサーのこと好きなの?」

 ささやくように尋ねると、ティラノは顔面を赤くして両手を前に突き出す。

「え⁈ いやっ、なんで? なんで急に?」

「否定はしない、と……」

 確信を得るドンダー、ますます焦りを見せるティラノ。そんなティラノを見て、ドンダーはさらにテンションを上げる。

「おいおいおいマジかよ! いつから? どこがいいんだよ?」

「いや、だから! いやというか……。まあ……、うん。……好きだよ。前に一度、告白もしてる」

「おえっ⁈ マジかよ! え? じゃあ今は、付き合ってるのか?」

「いや……、フラれて、付き合ってはない……。でも、僕はまだ好きというか……、諦められないというか……」

 どんどん小声に、赤く縮こまっていくティラノ。そんなティラノを見て、ドンダーは大笑いしながら背中を叩いた。

「は〜っはっは〜‼︎ お前、おとこだな! 最高だ‼︎ なんか俺、お前のことすげえ好きになれそうだぜ!」

 ドンダーの言葉に、ティラノはキョトンととても驚いた顔を見せる。

「……ドンダーって、そういう顔するんだな」

「はあ? それはこっちのセリフだぜ。ちっ、ここじゃ場所が悪いな……。おい! 明日の倉庫作業の時、今の話もっと詳しく聞かせろよ? 約束だぜ」

「はは、わかったよ。……なんだか少し、明日の仕事が待ち遠しくなった」

「へっ! じゃあな!」

 そう言ってドンダーは手のひらをティラノにむける。ティラノは少し戸惑った後で、自分の手のひらをそこに重ねた。

 恋だのエロだの、そんな話で仲良くなる。二人は男子高校生、愛すべきバカなのだ。




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