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エピローグ 「サンタローズ」

 十二月二十六日。

 冬休み二日目、太郎は学校にいた。二十四日は学校を休まなくては行けないことを知らなかった太郎は、さまざまなものを持ち帰り忘れていた。その中には、宿題に使うテキストも含まれる。そのため、太郎はわざわざ片道四十分近くかけ、冬休みの高校に登校していた。

 貴重な冬休みの時間をこんなことに使うとは……。ため息の一つでもつきたくなってしまう。

「……多すぎじゃない? それ、もともと一日で持ち帰るつもりじゃなかったでしょ」

 ——というのは、のろけ前の免罪符。

 太郎は山のような荷物から視線を外し、隣に立つ寧桜の顔を見た。

「……なによ」

 冬休みの教室に二人きり、制服姿の寧桜がそこにいる。偶然では生まれないこの状況に、太郎はニヤける顔を抑え切れなかった。

 今日の寧桜は、完全な付き添い。昨晩、太郎が高校まで行くことを伝えると「どうせ基地に行くまでのあいだ時間あるし……」と言ってついてきてくれたのだ。実際、寧桜は高校まで自転車で登校しているため、太郎ほどの時間はかからない。それでも、休日にわざわざ出てきてくれたこと、普段は話すこともないこの教室で二人きりでいること、それが太郎にはたまらなく嬉しかった。


 山のように思えた荷物をなんとかリュックに詰め込むと、二人は教室を出た。

「……さて、まだ結構時間あるけど、どうする?」

「もう基地に行ってもいいけど……、せっかくだから少し散歩しようよ。学校散歩」

 寧桜の提案で、二人は休日の学校を歩いて回ることにした。休日といっても部活動はやっているため、遠くからは運動部の掛け声や、管楽器の音色が聞こえてくる。そういう人がいる場所を避けるように、二人は誰もいない廊下を歩いた。

 しばらくすると、二人の歩みから腕の振りが極端に減っていく。

「……あ、のさ」

「なに?」

「手とか……、繋ぐ……?」

 人がいないことを確認したあとで、太郎はカタゴトのようにそう言った。言って、あまりにスマートじゃないその言葉に恥ずかしくなった。先ほどから、前しか見れていない。

「……もう一回だけチャンスをあげる」

 寧桜の言葉に、太郎は息を詰まらせる。

「えっ……と……、手を繋がない?」

「——もう一回」

「て、手を繋ぎたい!」

「——もう一声」

「え〜……。もうわからないよ〜……」

 泣きつくように寧桜の方を見ると、寧桜は頬をわずかに赤くして、前だけを見つめていた。

「……私に許可を出させないでよ。恥ずかしいじゃん……」

 小さな声でそう言う寧桜——その姿はあまりに可愛らしく、あまりに愛おしかった。

 太郎は気持ちを作り直すと、今度はなにも言わずに、黙ってその右手を取った。

「っ……」

「……これは、正解?」

「……かもね」

 ふと、寧桜が指を絡ませ手の握り方を変えてくる。互いの指が交互に交わり、二人は恋人繋ぎをしたまま廊下を歩いた。

「……思ったより大きいね、太郎の手」

「……寧桜の手は、思ってたよりあったかい」

 集合の時間まで、二人はそのまま校舎を歩いた。


     *


「——おっ! お疲れ〜。あらら〜? 二人仲良くご出勤ですかな〜?」

 基地に行くと、ダッシャーがいつもの元気な声で太郎達を出迎えた。寧桜は恥ずかしそうに距離を取ると、一人で先に行ってしまった。

「あらら。ダンサーは恥ずかしがりやだったのか〜」

 ダッシャーはそう言って楽しそうに笑った。

 部屋を出ると、廊下にはたくさんの段ボールが積まれていた。

「……これ何の段ボール?」

「あっ、そうなの聞いてよ! ちょっと大変なことになってるの! ちょっとサンタローの部屋に来て!」

「え、ちょっ!」

 走り出すダッシャーを追ってサンタローの部屋に向かう太郎。途中で寧桜とも合流し、三人は勢いそのままにサンタローの部屋に飛び込んだ。

「——だ〜! ちょいお前! それ大事なメモだぞ、踏むな踏むな‼︎」

「細かいことでぐちゃぐちゃうるさいわね〜、今はチームの名前でしょ? そうだ! 『ローズガーデン』っていうのはどうかしら? もしくは『バラの花びら』、とか……? きゃ〜! 意味深〜‼︎」

「……ダッシャー、これは?」

 部屋を開けた先で待っていたのは、言い合いを続けるサンタローとローズの姿だった。周囲にはルージュの姿も見える。見たところ、太郎達以外のトナカイはすでに全員集合しているようだった。

「なんかね、ローズさんもこの基地でサンタとして一緒にやっていくことになったんだって……。雪森さんいわく、『ローズちゃんに会えるならなんでもええ!』、らしいよ……」

「え〜……」

 明らかに犬猿の仲の二人。言い争いを続けるその姿を見て、レーラは頭を抱え、大学生組三人は面白そうに笑い、ドンダーとブリッツェンは姉弟喧嘩していげんか、プランサーはを困ったような顔をしてそれを仲裁していた。

「お! 来たかルドルフ!」

 ふと、太郎に気づいたサンタローが声をかけてくる。その言葉に、太郎は少し考えるそぶりを見せる。それからある種の決意を持って口を開いた。

「——サンタロー! 僕はきっと、ルドルフじゃないです。僕の名前はティラノ。もしトナカイとして名を冠するなら、僕はティラノを冠したい」

 太郎の言葉に、サンタロー、寧桜、ダッシャー、その他のトナカイは皆、面食らったような顔をしていた。けれど、すぐにどこか納得したような顔をして微笑みを浮かべる。

「……そうか。お前は、神話外のトナカイだったんだな」

 サンタローの言葉に、最初わずかに戸惑う太郎。けれどその和らいだ瞳を見て、太郎は力強くうなずいた。

「肉食恐竜の名を冠するなんて、傑作だな! 最高だ! ——そんなティラノに尋ねたいんだが……、これからチームでやっていく俺たちには、それに相応しいチーム名が必要だと思うんだよ。チーム名には、やっぱりリーダーの名前が入ってた方がいいよな⁈ それならやっぱり、『サンタローキャニオン』、なんてオシャレでいいよな……⁈」

「え?」

「そんなダサい名前ありえない! やっぱりここは、『ローズガーデン』よ! ……というか、なんで勝手にあなたがリーダーになってるの? ……んねぇ、ダッシャーちゃん? こんなのありえないわよねぇ?」

「う……、まあ、サンタローキャニオンはダサい、かな……」

「ダッシャー⁈ お前、ローズ側に寝返るのか⁈」

「いや、そういうわけじゃないけど……。というか、もう寝返るもなにもないじゃん! 皆ひとつのチームなわけでしょ? みんな仲間じゃん!」

 その言葉を聞いて、太郎は改めて部屋にいる全員を見回した。圧倒的だったローズチームのトナカイが、イブの夜とても頼もしく見えたように、これからはローズの不可能を可能にする奇抜な才能すらも、このチームの力になる。そうして挑む来年のクリスマスは、一体どんなものになるのだろう……。そのとき自分は、どんな成長を遂げているだろう……。

 まだ見ぬ未来を想い、太郎は静かに笑った。

「あっ……」

 ふと、太郎のなかにひとつのアイディアが思い浮かぶ。

「なんだ? どうした⁈」

「え、あ……。……思いついたかもしれないです、チーム名」

「ほんとか⁈ よし、聞かせてくれ!」

 サンタローに言われ、寧桜にも背中を押され、太郎はホワイトボードにそれを書く。

「……いいんじゃない?」

「うん、悪くない……。というか、これしかない‼︎」

 ダッシャー、サンタローが続けて言う。

「ダッシャー、なぜあなたは審査員のような位置にいるの? ……でも確かに。私もこれがいいと思う」

 続いて寧桜も。

「いいんじゃないかしら。ねえキューピット? コメット?」

 続いてヴィクセン。うなずく大学生組。

「わっはっは! いいぞティラノ!」

「……おう、悪くない」

 ドンダー、プランサー、そしてブリッツェンもうなずく。

「……なんだかこの男の比重が大きい気がして少し気に入らないけど……。え、待って! よく見たらこれって、相合傘みたいじゃない⁈ 気に入ったわ! 気に入った! これでいきましょ! 決定よ!」

 ローズは飛び上がり、ルージュは隣で関心がなさそうに、けれど小さくうなずいた。

 そんな彼らの言葉を受けて、太郎はどこから誇らしげに微笑んだ。

「——よ〜し‼︎ 俺たちは今日から、チーム『サンタローズ』だ‼︎」

 威勢の良い声が室内に響き渡り、彼らは一つのチームに——『サンタローズ』となった。


 ——彼らはサンタ、サンタ見習い。

 子供に夢を届けるため、サンタのいる世を作るため——彼らの日々は、まだまだ続く。

 来年もまた、伝えたい。聖夜に響け、この言葉。

 さあ皆さんご一緒に——

 ——メリークリスマス! よい夢を‼︎




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