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戦場の猫  作者: つな(DD)
3/19

降伏はしない



 ヤモクたちは全員、自分たちに用意されている未来を理解していた。それでいてああも明るくいられるのは、元々こういった扱いになれている上に、自分たちの寿命を悲観してきたからだろうか。

「かと言って、これ以上どうする」

「白旗振って捕虜生活としけこむか」

「はは、悪くない」

 ヤモクたちは死ぬ覚悟を整えていた。捕まったら最後。かつては自国でさえそうであったように、敵軍はその生態を調べようと彼らに人体実験を行うかもしれない。

 先に死んだ3人の遺体は丹念に焼いて灰にした。いずれ今の生き残りが息絶える時も、誰かがそれを焼かないといけない。

 そして、てつはそれを自分の役目だと思っていた。

「ここで皆で死ぬのもありだな」

「てつってそんなにロマンチックだったか」

 アラタは地面に倒れたまま、そんな事を言い合って笑う彼らの声をぼんやりと聞いていた。

「強いんだな」

「……ん?」

 その独り言を捉えたいちが思わず尋ねると、アラタはちらりと視線を寄越してから答えた。

「お前達は、すごく強いんだな」

 いちは一瞬驚いたようだったが、すぐに誇らしげに鼻を鳴らす。

「当然だろ」

 そんな様子にアラタも少し笑ってからてつを呼びつけた。

「どうした?少尉殿」

「ははは、それは嫌みか?」

「そうだよ」

 笑いながらてつはアラタに手を貸して立ち上がらせる。存外に握った手は熱く、てつは少し嬉しくなった。

「隊長さん、あんたの部下思いには感服するよ」

「どうも」

 とにかくまずはここから離れなければならない。こんな死の匂いがする場所に長居していたら気が変になるとてつが言い、部隊はあてもなく歩き出した。

「いち」

 てつは名を呼ばれて駆け寄ったいちに、アラタの腕を掴ませる。

「お前が目になってやれ」

「うん」

 振り返ったてつは戦場に人影を見て小声でことに尋ねる。

「イクサは?」

「あそこに残るって」

 仲間の死体と共にそこに残るイクサの姿が、アラタには見えていなかった。

「……そうか」




 第五部隊は密林を南下していた。このまま行けば敵の本軍と相見えるだろう。

「船でも盗んで逃げようか」

「夜な夜な少しずつ殺して、全部奪うのもありかも」

「それは楽しいな」

「とりあえず何か食べ物が欲しいね」

「よーし、じゃあ敵の支援物資を盗みにいこう」

 ゆっくりと歩を進めながらアラタは苦笑を漏らす。

「いつもこんなに騒がしいのか?」

「うん」

「おーい、皆急ごう、日の出が近いぞ」

 てつの言葉にアラタは空を見上げたが草木が生い茂っているせいだろう、月明かりすら全く見えない。

「こんな密林の中でよくわかるんだな」

「死活問題だからね」




 川沿いに洞窟を見つけて、ヤモクたちは腰を下ろした。

「おなかすいたなあ」

 たくが暢気に呟く。残念ながらあまり綺麗ではない川の中には魚一匹いなかった。

「そこらの草でも食ってろ」

「やだー」

 その瞬間、ガガガッと不穏な音がしてヤモクたちは一斉に洞窟から飛び出した。いちも足を踏み出したが、ふと視界の端にアラタを見つけて思わず立ち止まる。

「いち!」

 てつがそれに気付いて叫んだ瞬間、洞窟は崩れ落ちて2人は閉じ込められてしまったが、崩れたのは入口だけで奥は崩れず、怪我はなかった。

 それよりも危険なのは飛び出した他の隊員の方だったのだ。

「てつ!こと!」

 崩れた岩岩の向こうから叫び声が聞こえてくる。戦っている。まさか、待ち伏せされていた……?

「みんなぁ!!」

 洞窟は完全な闇に包まれて、さすがのいちにも何も見えない。アラタは黙って岩に耳をつけて向こうの様子を伺った。

「おい、静かにしろ」

「早く岩を!見殺しになんてできな…」

「静かにしろ!!」

 狭い空間に怒号が響き渡り、辺りは静かになった。いちは震えながらそっと岩に耳を当てる。



 数時間後……もう日は昇っているだろう。外はすっかり静かになっていた。

「みんな………みんな、殺された」

「俺たちだって時間の問題さ」

 ため息交じりに座り込み、アラタはぐしゃぐしゃと乱雑に髪をかき乱す。それはいちにとってあまりに突然の出来事すぎて、何の感情も湧き起こせなかった。

 しばらくして、ゴトゴトと岩を退かしていく音が外から聞こえてきた。自失していたいちがぼんやりと呟く。

「外に出たら…みんなを燃やさなきゃ」

「無理だ」

 アラタは片膝を立て、がくりと項垂れたままそう返した。

「日の下に出たら俺だって死ぬ。少尉さん、みんな燃やして、全部燃やして」

「落ち着けよ」

 ガタタッと崩れる音がしていちの背後から日の光が差し込んだ。それはほんの少しの光だったが、いちは足元に突然明るく映し出された自分の影に驚いて身を屈めた。

 アラタはそんないちを見てため息を吐き、羽織っていたマントを背にかけてやる。そして意識が遠のくいちを眠らせるように言い聞かせた。

「目を覚ます時には、故郷(ふるさと)の村だ」


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