第3話:すれ違う想い
「蒼井二士、次回の訓練は、対潜水艦戦です。海崎二士とペアを組んでください」
教官の言葉に、雫はドキリとした。
(海崎とペア…!)
訓練とはいえ、翔と一緒にいられる。
そう思うと、胸が高鳴った。
しかし、同時に不安もあった。
(最近、海崎、私を避けてるような気がする…)
第2話の任務後、翔はどこかそっけない態度を取るようになっていた。
話しかけても、軽く受け流される。
目が合っても、すぐに逸らされる。
(何かあったのかな…)
雫は、気になって仕方なかった。
訓練当日。
雫と翔は、潜水艦役と護衛艦役に分かれ、対潜水艦戦のシミュレーションを行う。
「蒼井さん、潜水艦のソナー探知、お願いします」
翔の指示に、雫は頷き、ソナーを起動させる。
しかし、集中できずにいた。
(やっぱり、海崎のこと、気になる…)
その時、背後から衝撃が走った。
「蒼井さん!危ない!」
翔が、雫を突き飛ばした。
次の瞬間、爆音が響き渡る。
潜水艦役の訓練装置が、誤作動を起こしたのだ。
爆発に巻き込まれた翔は、腕に怪我を負ってしまう。
「海崎…!」
雫は、駆け寄り、翔の状態を確認する。
「大丈夫です…かすり傷です」
翔は、そう言いながら、苦笑いを浮かべた。
しかし、その表情は、明らかに苦痛に歪んでいた。
「病院に行きましょう!」
雫は、翔を病院に連れて行こうとするが、翔はそれを拒む。
「大丈夫です。少し休めば治ります」
そう言い残し、翔は医務室へと向かった。
雫は、翔の背中を見つめながら、心配の色を隠せない。
(やっぱり、何かあったんだ…)
その夜、雫は、医務室を訪れた。
ベッドで横になっている翔を見つけると、声をかけた。
「海崎…大丈夫?」
「ああ…心配かけてすみません」
翔は、申し訳なさそうに答えた。
「何かあったの?最近、私を避けてるみたいだけど…」
雫は、思い切って聞いてみた。
すると、翔は、しばらく沈黙した後、口を開いた。
「実は…過去の任務で、トラウマを抱えてしまって…」
翔は、過去の任務で、同僚が殉職した現場を目撃したという。
その時のショックが、今も消えずに残っているのだという。
「だから…君といると、その時のことを思い出してしまうんだ」
翔の言葉に、雫は息を呑んだ。
(辛かったんだ…)
雫は、翔の気持ちが痛いほど分かった。
「ごめん…辛い思いをさせて」
雫は、翔に謝った。
「いや…君は何も悪くない。ただ、僕が…」
翔は、言葉を詰まらせた。
雫は、翔の隣に座り、そっと手を握った。
「海崎…辛かったら、いつでも頼ってね。私でよければ、話を聞くよ」
雫の言葉に、翔は、しばらく沈黙した後、小さく頷いた。
その夜、自室でベッドに横になりながら、雫は翔のことを考えていた。
(海崎…苦しんでたんだ…)
翔の過去を知り、雫は、翔のことをもっと深く理解したいと思った。
そして、翔の心の傷を癒したいと、強く願った。
第4話へ続く