第5話:それぞれの道
朝、雫は、翔に手紙を渡したことを思い出し、ドキドキしながら翔の部屋の前を通った。
ドアは閉まっており、中から物音が聞こえる。
(海崎…読んでくれたかな…)
不安と期待が入り混じる中、雫は訓練場へと向かった。
訓練中も、雫の頭の中は翔のことでいっぱいだった。
(海崎…どうしてるかな…)
休憩時間になり、雫は、再び翔の部屋の前へ向かった。
今度は、ドアが開いていた。
中を覗くと、翔が荷物をまとめている姿が見えた。
「海崎…?」
雫が声をかけると、翔は、手に持っていたものを置き、振り返った。
「蒼井さん…」
「どうしたの?その荷物…」
「ああ…実は…自衛隊を辞めることにしたんだ」
翔の言葉に、雫は息を呑んだ。
「え…?どうして…?」
「…」
翔は、何も答えなかった。
「昨日の手紙…読んだ?」
雫は、勇気を出して聞いてみた。
「ああ…読んだよ」
「それで…?」
「ありがとう…でも…」
翔は、言葉を詰まらせた。
「やっぱり…辛いんだ。あの時のことを、どうしても思い出してしまう」
「でも…」
「もう、ここにいるのは辛いんだ。君といると、あの時のことを思い出してしまう」
翔の言葉に、雫は胸が締め付けられるようだった。
「そう…分かった」
雫は、涙をこらえながら、そう言った。
「今まで…ありがとう」
翔は、雫に背を向け、部屋を出て行った。
雫は、翔の背中を見つめながら、涙を流した。
(海崎…)
その夜、自室でベッドに横になりながら、雫は泣き続けた。
(どうして…どうしてなの…)
翔が自衛隊を辞めてしまうなんて、考えもしていなかった。
(これから…どうしよう…)
雫は、これからどうすればいいのか、分からなかった。
ただ、翔のことを忘れたくない。
そう思った。
翌日、雫は、艦長室を訪れた。
「艦長…」
「どうした、蒼井二士?」
「あの…海崎のことですけど…」
雫は、翔が自衛隊を辞めることを艦長に伝えた。
艦長は、少し悲しそうな表情で言った。
「そうか…海崎くんも、辛い思いをしてきたからな…」
「艦長…海崎のことを、引き止めることはできないんですか?」
雫は、必死に訴えた。
しかし、艦長は、首を横に振った。
「仕方ないことだ。本人が決めたことだからな」
「でも…」
「蒼井二士、気持ちは分かるが、諦めろ」
艦長の言葉に、雫は肩を落とした。
その夜、雫は、再び翔の部屋の前へ向かった。
しかし、ドアは閉まっていた。
(海崎…)
雫は、ドアに手を当て、小さく呟いた。
「さようなら…」
そして、部屋を後にした。
第6話へ続く