第6話:決意の時
翔が自衛隊を辞めてから、数日が経った。
雫は、抜け殻のようになっていた。
訓練中も、ぼんやりとして、ミスばかりしてしまう。
「蒼井二士、しっかりしてください!」
教官の叱咤が飛ぶ。
(ダメ…しっかりしなきゃ…)
雫は、歯を食いしばり、訓練に集中しようとする。
しかし、どうしても翔のことが頭から離れない。
(海崎…今、どこで何をしているんだろう…)
その夜、自室でベッドに横になりながら、雫は考えた。
(このままじゃダメだ…)
翔のことをいつまでも引きずっているわけにはいかない。
雫は、立ち上がり、クローゼットから私服を取り出した。
そして、手紙と少しばかりのお金を鞄に入れると、部屋を出た。
向かった先は、翔が暮らすアパートだった。
雫は、アパートの前で深呼吸をした。
(海崎…会いたい…)
意を決して、ドアをノックした。
しかし、中から返事はなかった。
(留守かな…)
雫は、諦めずに、何度もドアをノックした。
それでも、返事はなかった。
雫は、ドアに背を向け、帰ろうとした。
その時、背後から声が聞こえた。
「蒼井さん…?」
振り向くと、翔が立っていた。
「海崎…!」
雫は、駆け寄り、翔に抱きついた。
「海崎…会いたかった…」
「…」
翔は、何も言わずに、雫を抱きしめた。
しばらくして、雫は、翔から体を離した。
「海崎…どうして、自衛隊を辞めたの?」
雫は、改めて聞いた。
「…」
翔は、しばらく沈黙した後、話し始めた。
「あの時のこと…どうしても忘れられないんだ」
「でも…」
「君といると、あの時のことを思い出してしまうんだ」
「私…」
「君には、僕の気持ちは分からない」
翔は、そう言い残し、部屋に入って行った。
雫は、ドアの前で立ち尽くしていた。
(やっぱり…ダメなのかな…)
その時、ドアの隙間から、何かが落ちた。
雫が拾い上げると、それは、雫が書いた手紙だった。
手紙には、こう書かれていた。
「海崎…あなたの過去を知って、ますますあなたのことを好きになったよ」
「辛い過去を抱えているあなたを、私は支えたい」
「もし、私にできることがあれば、何でも言ってね」
雫は、手紙を握りしめた。
そして、決意した。
(私…海崎のことを諦めない)
雫は、翔の部屋のドアを叩いた。
「海崎!話を聞いて!」
第7話へ続く