隣の席の少女は、俺の親友に惚れている〜任せとけ! 俺が両想いにしてやるよ!〜
隣の席の三上さんは、俺の親友に惚れている。
わっかるんだよねぇー! そういうの!
俺って恋愛とかめっちゃ詳しいから。
なぜ詳しいのかって? それは俺が妹の少女漫画を読み漁っているからだ。三上さんが金田を見る瞳は少女漫画に出てくる主人公そのものなのだ。だから絶対間違っていない。三上さんは金田に惚れている!
あぁ……。俺はなんて鋭い観察眼を持っているのだろう。俺のことは、もう恋愛博士と言っていいのかもしれない。それくらい恋愛に詳しいのだ。
あ、そんなことを考えてたら親友が来たぞー。
ほらほら三上さん。今日も憧れの金田君にあっつい視線を送ったれ! そうしたら俺が御膳立てしてやるよ!
この恋愛博士に任せなさい!
なーんて思いながら、俺はグフフと気味の悪い笑みを浮かべたのだった。
※※※※
「久保ー。昨日やってたアニメの話しようぜー」
休み時間。
そんなことを言いながら、金田が俺の席にやって来た。
コイツ本当アニメ好きだな。口を開けばアニメの話ばっかりしてやがる。まぁ、俺も似たようなものだけどな。
俺はチラリと隣の席の三上さんを盗み見た。
三上さんはチラチラこちらの様子を窺っている。
ふふふ。憧れの金田が見れて嬉しいのだな。
俺は席から立ち上がり、金田の肩をポンポン叩いた。
「よぉ。よく来たな。まぁ、ゆっくりしていけや」
「?」
それから俺たちはアニメの話で盛り上がった。
だが、隣をこっそり見ることも忘れない。
三上さんはアニメの話に大興奮の俺たちを見て、顔を綻ばせていた。
可愛いなぁ、三上さんは。
でも、見てるだけで満足なのかい? いや、本当はそれ以上のことを望んでいるはずだ。
この恋愛博士に任せとけ! 俺がこの短い休み時間で、二人の距離をもっと縮めてやるからな。
そんな想いを込めて、俺はギュルンと三上さんの方へ顔を向けた。
「ねー! 三上さんもそう思うよねぇー!」
「!?」
突然俺に話を振られた三上さんは、呆気に取られている。
「な、なにが?」
「いや、今俺たちアニメの話してたんだよ。三上さんも金田と同じネコキング派だろ? 俺はイヌキング派なんだよ」
「え? よく分からない。私そのアニメ見てないから……」
「あ、そう……」
クソッ! さりげなく会話に参加させて金田とぐっと距離を縮めさせてやろうと思ったんだけど、なんか白々しいな。これは失敗だった。
俺は心の中で頭を抱えたが、気を取り直して話を続けた。
「三上さんは何系のアニメ好きなの? 気になるよなぁー、金田!」
金田は困ったような表情をした。
「いや……別に。って言うか、いきなり三上さんを話に巻き込むなよ。可哀想だろ……」
金田の言葉に、三上さんはブンブンと首を振った。
「そ、そんなことないよ! 私、いつも二人が楽しそうに話してるの見て会話に参加したかったんだ!」
お、おぉ……!
三上さん……! なかなか積極的だな! よしよし、女は度胸って言うからな。それぐらいグイグイ来てくれた方が俺も協力しやすい。あとは任せとけ!
「ほらー。三上さんもこう言ってることだし、三人で盛り上がろうぜ!」
「そ、そうか? ごめんな三上さん……。久保って馬鹿だから誰にでも話しかけちゃうんだよ。嫌だったらそう言ってね?」
三上さんはほんのり頬を染めながら、『大丈夫。久保くんって面白いね』と微笑んだ。
よし! ミッション成功。俺のおかげで、二人の距離は少しだけ縮まったな!
俺は満足感に浸りながら、残りの休み時間をアニメ話に費やしたのだった。
それからと言うもの、金田が俺の席に来るたびに、俺は三上さんを誘ってアニメ話をした。
その甲斐もあって、三上さんと金田の距離はどんどん縮まっていった。今じゃ二人は『金ちゃん』と『みっちゃん』と呼び合うほど仲良くなった。
俺、マジでいい仕事したな。二人が付き合うのも時間の問題じゃね? と心の中で悦に浸っていた。
そんな時だった。
三上さんに放課後屋上に呼び出されたのは。
※※※※
「久保くんのことが好きです」
「へ?」
突然の告白に、俺は馬鹿みたいにポカーンと口を開けていた。三上さんは真っ赤になりながら話を続ける。
「いつも金ちゃんと楽しそうにアニメの話している久保くんのこと、ずっと見てました。よ、良かったら私とお付き合いしてください」
え!?
三上さんって俺のこと見てたの!? 金田じゃなくて!?
馬鹿みたいな勘違いに気付き、俺の体温がぐわーっと上昇した。
し、心臓がうるせー。このままでは死んでしまいそうだ。
「お、俺……。その……」
緊張のあまり言葉が出てこない。情けねーぞ、俺! 男ならビシッと返事してやれ!
改めて三上さんを見る。
パッチリした二重の目に、肩まであるサラサラの髪。
唇が油を塗ったみたいにテラテラしていて、なぜだかドキドキした。
み、三上さんって可愛いじゃん。こんな美少女に告白された俺……。え? マジで? 夢じゃねーの? これ。俺は今の状況が信じられなくて頰をつねった。
そんな俺を不思議そうな表情で三上さんが見ている。
「どうしたの? 久保くん?」
「い、いや……。なんでもない……」
頰も痛いし夢じゃねーんだ……。
マジか……。
ど、どうしよう。この状況、どうしよう。
俺は極限まで緊張して訳が分からなくなった。
恋愛博士が聞いて呆れるぜ。
人の恋愛には嬉々として首を突っ込む癖に、自分のことになるとこんなにも無能になるとはな。
三上さんが不安そうな表情をしている。
そろそろ返事をしなければ。
俺はカラカラになった喉を唾で潤すと、裏返ったような声を出した。
「よ、宜しくお願いします!」
俺の返事を聞いて、三上さんは花が咲いたように微笑んだ。その顔が眩しくて、俺はボケーっと見惚れていたのだった。
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