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第36話 水着? 私服?

 生徒会の面子が大体揃ったと思われた頃に、ようやくヘイトをまき散らした当人である甲塚がやってきた……というか、ずっとそこに居た、みたいな雰囲気で佇んでいた。


 夏とは言っても、こいつの見てくれは最後に見た時とそう変わりない。すすき色の綺麗な金髪は後ろで纏めて、右のこめかみはツーブロック。勿論ピアスも忘れていない。強いて連休前と変わった点を挙げるとすれば、いつも着ていた制服のブレザーを脱いでシャツ姿だということぐらいか。


 俺は甲塚の姿を見つけると、ショウタロウと郁の周りに集まりだした生徒を掻き分けて出た。


「甲塚。珍しいな」


「……何が?」

 

「お前が一番遅れてやってくるなんてさ。いつもは部室に一番乗りじゃないか」


「近くの日陰で待っていたのよ。こんな炎天下の中待ちぼうけてたら熱中症になっちゃうでしょ」


「近くの日陰って……日陰ならここにもあるだろ? さっさと来れば良いのに」


「苦手なのよ……人混み」


 あ。


 そういえば、甲塚って弱みを知らない人間に対しては極度に人見知りするんだっけ。……本人は否定しているけど。


 今の今まで忘れていたが、生徒会の連中全員の秘密を甲塚が握っているとは到底思えないし、もしかして今回は結構なストレスを強いられる二日間になるんじゃないか。


「こういう時は俺のとこに来れば良いんだよ。話相手くらいにはなってやる」


「何で私がわざわざ佐竹に話相手をして貰わないといけないのよ」


 ……そうそう。もう一つ付け加えることがあった。


 甲塚って結構面倒臭い奴なんだ。

 

「分かった。それじゃあ、今度からこういうときは俺のところに来てくれないか。話相手が欲しいんだ。知らない人間の中でぼっちってのは中々辛いんだぞ」


「仕方ないわね。次からそうしてあげる」


 俺が下手に出ると、あっさりと快諾する。そろそろ俺も甲塚の扱いに慣れてきた――慣れてしまった。


「今回の合宿の目的。忘れていないでしょうね」


「憶えてるよ。確か、東京のビーチでゴミ拾いすんだろ」


「それは生徒会が勝手に言ってるやつでしょ……! 私達の主目的は臼井の交際相手を聞き出すこと……それには、同室で夜を過ごす佐竹のコミュ力に掛かってるんだからね」


「あのさあ。男子高校生が夜更かしして恋バナするような生き物だと本気で思ってるのか? せいぜい花が咲くにしてもゲームの話とか滅茶苦茶未来の話とか宇宙の星々の話になると思うぞ。女子じゃないんだからよ」


 甲塚は痛いところを突かれたような顔を一瞬した。が、すぐに平静を取り戻す。


「だから佐竹のコミュ力に掛かってるって言ってるんじゃないっ。夜のテンションなら話さえ切り出せばきっと付いてくるわよ」


 そんなことを言われると、俺はますます不安になってしまう。


「俺が切り出すって言ってもさ、こっちは素手で挑むわけだよ。俺みたいな男が恋愛経験の一つでもあると思うのか……?」


「そこは、……そうね。ねつ造しなさい」


「それはキツいぞ!? 色んな意味で!」


「キツくてもいい。雰囲気で臼井に話をさせたらこっちのもんよ」


 はあ。……ま、なんとかやるしかないか。


「ところで主目的って言ったけど、他に目的なんかあったのか?」


「『ボランティア活動に参加する人々と交流し、彼らの活動を観察し、自らの生活を向上させる』」甲塚がそれっぽいことを諳んじながら、鞄から小ぶりなカメラを取り出した。「要するに、人間観察部としての活動記録を付けるってわけ。生徒会の前だし、ついでにまともな活動をアピールしておこうと思ってね」


「へえ……。結構真面目に考えてんだな。そういうこと」


 それにしても、カメラを持ってうろついていたんじゃ人間観察部というより写真部とかと間違われそうなもんだが……まあ、部活の活動内容なんて元々ふにゃふにゃしてるし、いい……のか?


 そんな話をしていると、いつの間にか俺と甲塚の横に幽霊みたいな女が立っていることに気が付いてギョッとした。


 大袈裟でも何でも無く髪をジャパニーズホラーの女幽霊のようにぼうぼうと伸ばしていて、僅かに出来た髪の隙間から片目を覗かせている……が、胴体を見ると一応うちの高校の制服を着ているようだし、生きている人間なんだろう。


「ひっ……」


 早速甲塚が人間不信の悲鳴を挙げて俺の背後に隠れた。――いや、今回は目の前の女の見てくれにビビったのか。


「人間観察部は、これで全員?」


 前髪で覆われた女の口の辺りから、思いのほか綺麗な女性の声が出てきた。よく見ると、手元に今回の合宿に参加する生徒の名簿のようなものを持っているし、多分生徒会の人間なんだろう。加えて、こんなにショッキングな見た目の女は一年のフロアで見た覚えは無いから多分先輩だ。


「こっちが甲塚希子で、俺が佐竹蓮。向こうで囲まれてるのが宮島郁。これで全員ですよ」


幽霊女は名簿にチェックを付けると、再び尋ねてきた。

 

「東海道先生は?」


 東海道先生?


 そういえば、姿が見えていないが……。


 今回、引率は生徒会側から大室というおじいちゃん先生が、人間観察部からは東海道先生が参加することになっている。俺は勝手にバスと一緒に来るものだと思っていたが、校門前には既に汗一つかかない大室先生が立っているではないか。


 バスが来るまでもう八分くらいだと言うのに、まさか遅刻か?


 ……と、俺たちの目の前に止まったタクシーから東海道先生が降りてきた。


「みなさま、ごきげんよう!」


「東海道先生、遅いです」


 幽霊女が冷たく言い放つと、タクシーから慌てて鞄を取り出して駆けてくる。


「ごめんなさ~い!! 仕度に手間取ってしまって!」


「ふう。これで参加者は全員確認と……」


 幽霊女はぶつぶつ言いながら集団の方へ歩いて行ってしまった。


 東海道先生は勿論私服なのだが、今日着ている服は全力フルスイングというか……やけに「気合いが入っている」感じがする。メインになっているのは素肌まで透き通るような白いワンピースなのだが、二の腕の部分とスカートの裾部分がシースルーになっている。それにウエストの辺りに青い紐みたいなのを緩く巻いていて、靴は厚底のサンダル。日よけにはツバの広い麦わら帽子を被っているが、これは……。


 どう見てもゴミ拾う格好じゃねえな……。


「あの、先生。その格好でゴミ拾うんですか?」


 俺が尋ねると、東海道先生はパチパチと目を瞬いた。


「ゴミ拾いの時は、水着になるのではありませんの?」


 そういえば、甲塚に見せて貰ったポスターでは何故か水着の男女がトングを持って笑ってたな。


「……」


 冷静に考えると意味が分からないぞ。


 普通に私服で良いだろ。何で遊ぶわけでもないのに水着なんだ?


「えーと……どうなんでしょう? 甲塚、知ってる?」


「知らない。私は私服でやるもんだと思ってたけど……言われて見れば、謎ね」


「あら。困りましたわね」東海道先生は唇の端に人差し指を立てて言う。「まあ、いいですわ。わたくし、水着でゴミを拾います」


 何の宣言だよ。


 しかし、事前の周知事項に書いてあった「当日の持ち物」の項目に「水着」が入っていたのは確かなのだ。だとすれば、どこかで水着を使う予定があるということなんだろうが……。


 そこまで考えてハッと気が付いた。


 ということは、少なくとも俺たち男子は女子の水着を見る機会に恵まれる、ということかなのか?


 郁や甲塚の水着も? それどころか東海道先生の水着も?


 ――なるほど。


「そういうことかぁ!」


「何よっ!? いきなり大声出して、びっくりするじゃない」


「このボランティアの倍率が高い理由が分かったんだ」


「は……?」

 

 いつの間にか校門前にリムジンバスが到着していた。



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