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第35話 嘘

 それにしても、夏休み直前の生徒会人事でショウタロウが生徒会に入っていたとは驚いた。


 前に中学の頃は野球部で坊主頭だった、みたいなことを耳にしていたので体育会系のイメージだったのだが、まさか高校では帰宅部だったのか?……奴の顔の広さはとても帰宅部のものとは思えないけど。


 それに、生徒会に入るというのも、どうも俺が抱いていたイメージとずれてるんだよな……。


 ああ見えてショウタロウも並の男子高校生のように変化を求めているということなのだろうか。


「やあ、蓮。なんか、夏休みに制服で顔合わせると久しぶりって感じがするね」


 知らない男子と連れ添って歩くショウタロウは、女子の目線や声に動じず真っ直ぐ俺が涼んでいる日陰にやってきた。


「感じじゃなくて、実際に久しぶりだろ。……最後に会ったの、二、三週間くらい前だっけ?」


「君が佐竹蓮か……」


 突如、ショウタロウと一緒に歩いていた男子が俺の前に出てきた。ショウタロウの存在感の影に隠れていたが、こうしてきちんと見てみると負けず劣らずの美男子じゃないか。


 髪の毛は若干茶色掛かった黒髪といったところで、多分色素が薄い地毛なんだろう。前髪は七三で別れているがサイドから後頭部に掛けて刈り上げているから真面目すぎる印象も無く、清潔感のある男子高校生って感じだ。


 しかし、そんなルックスだというのに存在感が薄いというか、添え物感があるというか、……郁の趣味ではないが、恋愛シミュレーションゲームで主人公に女子の好感度を教えてくれる便利な友人――バッドエンドで友情を深めるタイプの男、という感じもする。


「あんたは?」


 知らない男子は断りも無く俺の隣に座った。


「俺は氷室勇気。漢字は多分、今頭に思い浮かんだやつで合ってるよ」


 じゃあ、氷室勇気か。


「俺は佐竹蓮。……ショウタロウと一緒に来たってことは、あんたも生徒会か。ていうか、俺の名前って生徒会じゃそんなに有名なのか? 人間観察部だからって……」


「それも、まああるけどな」氷室は苦笑して言った。「俺の立場的に、今回のボランティアの参加者の名前は大体覚えてなきゃならんのよ。勿論ニンブの他の面子も覚えているよ。部長の甲塚希子さん、宮島郁さん。それと、東海道先生。で、合ってるだろ?」


 爽やかな笑顔で言う。


「合ってる……。ていうか、立場的にって……?」


 俺が聞くと、今度はショウタロウも笑いながら俺の隣に座り込んできた。


「蓮。この人うちの生徒会長なんだ」

 

「えっ!?……」


 この男が、生徒会長?


「ていうか、氷室もあんたの先輩だし。二年E組の氷室会長。ショウタロウ君もなんかタメ口で喋っちゃってるけどさ……」


 目の前で突っ立ったままの一ノ瀬先輩が補足する。


 二年の、氷室会長……。


 学校の集会とかで生徒会長の姿は見ていない筈が無いのに、全然顔に見覚えが無い。


 俺がまじまじと氷室会長の顔を見ていると、全然ショックを受けていない様子で苦笑して見せた。


「ま、俺が生徒会長に就任したのなんてほんの一週間程前なんだ。一応生徒の前で挨拶したけど、顔憶えてない人の方が多いよな」


「そんなこと言ってさ。どんどん顔売って行けよ、氷室。ショウタロウ君に会長の座取られても知らないんだから」


「そんな下剋上みたいな制度無いだろ」


「敬語ォ!!」


 俺がツッコむと、一ノ瀬先輩はまた地団駄を踏んで怒りだす。


 こんなヒステリックな奴を書記にしちゃって、生徒会の議事録はもうしっちゃかめっちゃかなんじゃないだろうか。


「取り敢えず一ノ瀬先輩、座りません?」


「ショウタロウ君! えへへへ……」


 ショウタロウが宥めると、あっさり機嫌を直してショウタロウの横にちょこんと座る。


 俺が言うのもなんだが、生徒会も結構変な面子が揃ってるな。


「ま、取り敢えずニンブには顔が売れる予定だよ。今回のボランティアでさ」


「ニンブになんか顔を売ったって何の得もないし! どうせならバスケ部とか吹奏楽部とかさあ……」


「それより、蓮と宮島さんが同じ部活に入ったって聞いてびっくりしたよ、僕」ショウタロウがやや真剣な顔付きになって言う。「もしかして、宮島さんと付き合っていたり……?」


「いや、ちが――」


「ギャハハハ!!」


 俺が否定しかけたところで一ノ瀬先輩……いや、もう一ノ瀬でいいや。一ノ瀬が下品な笑い声を挙げた。


「宮っちがこんなんと付き合う!? 無い無い!!」


 宮っちて。


 郁のやつそんなダサいあだ名で呼ばれてるのかよ……。まあ郁が俺みたいな奴と付き合うわけが無いってのは同意だが。


「郁とはただの幼馴染みだから。別に付き合ってるとかそういうんじゃない」

 

「ほらね! ギャハハハ!!」


「でも、蓮と宮島さんは全く同じ日に入部申請を出した――」


 一ノ瀬の馬鹿笑いの中、氷室先輩がひやっとした声色でそんなことを言い出した。


「これは偶然、じゃないよな」


「いや、それは――」


 何かを否定しようとして、それが否定することが出来ない事実だと気づき口ごもってしまった。


 そもそも俺の入部届は甲塚が勝手にねつ造して提出したものだし、郁が提出したものもきちんと整ったものだったのか知らないが……よく考えたら、事実を整理するとそうなってしまうのか。


「こんにちはー!! 人間観察部の宮島郁でーす!!」


 その時、いつの間にか目の前の横断歩道を渡ってきていた郁が大声で挨拶した。すると、郁の友人らしい女子たちがあっという間に彼女を取り囲んで話を始める。


「おーっ! 宮っち来た! 宮っちー!」


 一ノ瀬が大声を挙げて郁においでおいでの仕草をした。すると郁がまんまとこちらへ駆け寄ってくる。


 郁とは……夏休み直前の終業式以来会っていない。


 あれから大体一週間が経過しているわけだが……この変わりようは何だ!?


「あ~っ!! 蓮!!」


「お。おお……」


 健康的な肌色だったとはいえ、まだ白いと言えた肌はすっかり小麦色に焼き上がり、肩に掛かるまで伸ばしていた髪は後ろで纏め上げてポニーテールにしている。


「たった数日で何でそんなに肌が焼けるんだ、お前……?」


 こいつ、夏休み始まってから一体どんな生活してたんだ。


「そんなことより、何で勝手に先行っちゃうかな!? 私家で待ってたんだけど!?」


「勝手も何も、別に今朝は一緒に出る約束なんかしてないだろ。それも、家の中で待ってるって……何で俺が迎えに行かなきゃならないんだ」


「だって、いつも私が迎えに行ってるんじゃフェアじゃないし!」


「お前は道路で俺を待ち構えているだけだろが!」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って待って」


 俺と郁の間に一ノ瀬が割って入る。


「……え? 何で宮っちがこんなのとそんな話してるわけ? え?……付き合ってるんじゃ、ないんだよね?」


「…………」


 一ノ瀬の冷や水のような言葉に、何故か郁が沈黙を返す。


「おい、何でそこで黙るんだよ。マジっぽい雰囲気になるだろ」


 慌てて俺が言葉を挟むと、郁がカラッと笑った。


「……冗談冗談! うち、蓮の家とすごい近所なんだよね。だから登校するときいっつも顔合わせてるんだ」


「だっ……だよね~! あー、びっくりした……」


 ――登校するときに、いつも顔を合わす?


 俺と郁は顔を合わすどころか、最近は一緒に朝出て、束の間の時間にゲームの話をしているんだが……それは郁の中では「顔を合わせる」ということになっているのか? これまでの時間で考えれば、確かに「顔を合わせる」……それどころか、「気付かないふりをする」時間の方が圧倒的に長いとはいえ。


 ……いや、そんなはずはない、よな。


 郁は――嘘を吐いたのか。


 多くの友人に囲まれる郁を横目に、俺はじわじわと嫌な感情が拡がるのを自覚せざるを得なかった。


 確かに、郁からすれば俺みたいな男子と一緒に登校しているなんてあまり人に突かれたくない話かもしれない。言うなれば、これは彼女に取ってのスキャンダルなのだ。


 俺とていたずらに郁の学園生活を脅かしたいわけではない。


 ……この合宿中、郁とはなるべく距離を置いた方が良いかもな。


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