4---魔法の力---
---不思議な夢を見た。
その夢の中ではアリスが描いた絵本がそのまま現実に現れる。
動物達の街の様に人化した動物の絵を描けばそれが立体に膨れ上がり、歩き出した。
お腹が空いたなと思い豪華な食事を描いたらそれが目の前に現れた。
そして、憧れの王子様を描けばそれに愛の言葉を囁かれ、お姫様抱っこをされた。
そんな夢の様な---いや、実際に夢を見ていた---
ハッと目が覚めた。
そこは昨日寝た老婆の家のベッドの上。
老婆は大きな釜の前で薬の調合を行なっている様だった。
アリスは老婆に挨拶した後、どうしても絵本を描きたくて老婆に一冊のノートと色鉛筆を貰い、描き始めた。
すると、どうだろう。夢で見たことが現実となった。
描いた生き物が動き出したのだ。
「ほほぅ、これは興味深い」
老婆は言った。
「あんた、魔法の力に目覚めたみたいだねぇ」
「魔法の力?」
そんなものが現実にあり得るのだろうか。
しかし、実際に描いたものが動き出している。
「そうじゃ、実はあたしの薬にゃちょっとした副作用があるのよ。それであんたの才能が開花したのねぇ」
老婆は誇らしげにそう言った。
「これが私の力?」
「えぇ、ただし使い方を間違えてはいけないよ。魔法の力は便利であると共に危険な力でもあるからねぇ」
そう言って老婆はそそくさと部屋の奥へと消えていった。
アリスはついつい楽しくなって次々と色んな動物を描いていった。
動物の街はアリスの描く動物によってますます賑やかになった。
次に老婆へのお礼を兼ねて豪華な食事を描き老婆に振る舞った。
そして、憧れの王子様を描いた。
いや、描けなかった。
あんなに思い描いていたのに何故かそれだけは描けなかった。
理由はわからない。
しかし、描こうとしてもどうしても鉛筆が止まってしまうのだった。
そうして、数日が経過した。
今では動物達と仲良くなり、楽しい毎日を過ごしていた。
「うわーん、風船がぁ・・・」
子豚のルルの手から離れた風船が木の枝に引っかかっていた。
アリスは手早くノートと色鉛筆を取り出してマジックハンドを描いて風船を取ってあげた。
「ありがとう!アリスのお姉ちゃん!」
「もう離しちゃダメよ」
子豚のルルは手を振り、嬉しそうに去っていった。
「いや、実に楽しそうですな」
ふと、声がし、視線を移すとあの懐中時計を持っていたウサギがいた。
「しかし、お友達作りで時間を無駄にするより、もっと有効的な活用法があるでしょう?」
ウサギが言う。
「やっぱり、この街にいたのね!さあ、お金ならあるわ!懐中時計を返して!」
アリスは手にしたノートに溢れんばかりの金貨を出して見せる。
「なるほど、これは素晴らしい。約束通りこれはお返ししましょう」
アリスは嬉々とした顔を覗かせた。
ようやく、父の肩身の懐中時計が戻ってくる。
しかし、それとは裏腹にウサギはこう付け足した。
「しかし、返すのは今ではありません。その時が来たらちゃんと貴方へお返しするとお約束しましょう」
「その時っていつ?」
アリスは先ほどとは打って変わって不機嫌な表情を見せる。
「もうすぐですよ。---ほら、破滅の音が聞こえてきた」
音に耳を澄ますと何やらたくさんの足音が聞こえてくる。
まさか、これは・・・
そう思った瞬間、ウサギはアリスの目の前から忽然と消えていた。
そして、近づいてくる破滅の音が---