ダイヤとスペードは白いもの?(タマゲッターハウス:空想科学の怪)
このお話は『小説を読もう!』『小説家になろう』の全20ジャンルに1話ずつ投稿する短編連作です。
舞台や登場人物は別ですが、全ての話に化け猫屋敷?が登場します。
大学生たち男女4人は、とあるアパートの一室でクリスマスパーティーのために集まっていた。
そのうちの二人は最近付き合い始めた初々しいカップルである。
しかし彼らには、とある問題が発生していた。
男性の方がストーカー被害をうけているらしい。
その犯人は化け猫屋敷に住んでいるようで……
このお話はXI様『真・恋愛企画』参加作品です。
既設の小説『クローバーとハートのお手伝いロボ』の登場人物が出ますが、前作を知らなくてもお楽しみいただけます。
「ほしがりません~……もらうまで~」
「茉莉ー。変な歌だねー」
あたしは歌いながら亜里香といっしょに料理をしていた。
向こうの部屋から、ヒロシのうれしそうな声がきこえた。
「おおっ。これは戦闘機のプロモデル。旧日本軍の試作機かっ!」
ヒロシはあたしが渡したクリスマスプレゼントの封をあけたみたいだ。
「その飛行機ってなんか変な形だね。浩史。カラスのクチバシみたいだけど」
同じ部屋にいる玄六の声も聞こえた。
あの戦闘機はゼロ戦とかと違って、プロペラが後ろにある独特の形状なんだ。
「茉莉ー。私にはプラモデルのことはよくわかんないけどー、浩史くんにはプレゼントを気に入ってもらったみたいだねー。同じ趣味があっていいよねー」
あたしと一緒にキッチンで食事の準備をしている亜里香が言った。
「玄六と亜里香もスポーツ自転車が趣味でしょ。サイクリングでデートってものいいと思うよ」
「そうなんだけどー。今は寒いからねー。サイクリングはそんなにはできないよー」
あたしと亜里香は作った料理をヒロシたちの部屋に運んだ。
その時、ヒロシと玄六は何か真面目そうな話をしているようだ。
「ふたりとも、どしたの? いつもより変な顔になってるよ。なんか難しい話?」
「ああ、玄六にきいたんだけど、こいつストーカーにつきまとわれているのかもって」
「えー? そうなの? 玄六が?」
あたしが聞くと、玄六は「まだ、そうとわかったわけじゃないけど……」っと言った。
そこに亜里香も続ける。
「玄六君のアパートの部屋にー、一輪のお花が届けられてたんだってー。それも毎日ー。初めはー、私が置いたと思ってたらしいのー。で、こないだ花のお礼を言われてー、何のことかわかんなかったのー」
「僕が大学に行っている間に届けられているんだよ。でも手紙も何もついてなくて、置いたのが誰だかわからなくて不気味なんだ」
ヒロシは少し考えて言った。
「もしかして宛先を間違えて届いたのかもな。俺たちの大学の講義がない時に見張ってればいいんじゃないか?」
「それがね。大学の後輩がたまたまアパートの前を通りかかって、僕の部屋の前から立ち去る人物を見ていたんだ」
聞いてみると、その後輩ってのがその人物のあとをこっそりつけていったそうだ。
その人物は町のはずれの森の中に入って、古い洋館の方までいったそうだ。
「あそこって化け猫屋敷って言われているよな。俺はあそこは無人だと思っていたけど」
「そう。その屋敷なんだよ。僕の後輩も、怖くなって屋敷の近くまでは行ってないんだ。でも、森のそこの道は屋敷にしか通じてないと思う」
「玄六。おまえの後輩が見たその人物ってどういう感じの人? 男? 女?」
ヒロシがきくと、玄六は少し首をかしげた。
「身体つきや歩き方は女性っぽかったそうだ。黒いコートに黒いフードをかぶってて、顔は見えなかったって。でも、前髪が茶髪か金髪だって。もちろん僕もそういう人に心当たりはないよ」
「外人なのか染めているのかわかんないな。うちの大学には茶髪の男子はいるけど、女子ではいないと思うぞ。なぁ、こんど俺たちみんなで行ってみるか? 化け猫屋敷」
「ちょっと待ってー。浩史くん。その人がー、お花を届けたかどうかわからないんでしょー。後輩くんもー、アパートの部屋の前にいるのを見ただけだしー」
亜里香の言うことももっともかも。あの屋敷は無関係かもしれない。
それにあそこは色々な噂があってちょっと怖いしね。
夜中に窓ごしに目が光る猫が見えたとか、地面から屋根まで飛びあがる黒猫の影を見たとか……。
他にも、コウモリの羽が生えた猫がいたとかいう話もあった。
「やっぱり、玄六んちを見張るか? 俺も講義のない日なら大丈夫かも」
「いや、それがね。浩史。その後輩が目撃した日を最後に、次の日からは花は届かなくなったんだよ。不思議だよね」
後輩くんの話では、尾行に気づかれた感じではなかったらしい。
そもそも、今の話だとアパートにいた人物がお花を届けた人かどうかもわからないよね。
ストーカーかどうかもよくわかんない。
花を届けたのは単に玄六のファンなのかも。
あ、もしかして……。
「玄六。こないだ自転車のイベントに参加したって言ってなかった? そこでファンができたとか」
「それ、僕と亜里香と行ったイベントで、湖を一周するものだよ。別に競争とかじゃないんだけど」
「イベントでのクロモリロードバイクの玄六くん、かっこよかったよー。ファンができてもおかしくないと思うなー。でも、茶髪とか金髪の女の子はいなかったと思うよー。みんなヘルメットかぶってたからー、よくわかんないけどー」
そういいながら、亜里香が玄六の肩にポンと手を置いた。
「心配することでもないじゃないかなー。きっと宛先の間違いに気づいてー、別のところに届けるようになったんだよー」
「いや、僕が心配しているのは、亜里香に僕の浮気を疑われてないかなって」
「ないない。玄六くんがそんなことするはずないでしょー」
「ありがとう、亜里香。僕には亜里香だけだよ」
「私ー、玄六だけだよー。玄六くんのこと、信じているもんねー」
「なあ、榊原。こいつらまた二人だけの世界に入ってないか」
「いつものことでしょ。あたしとヒロシも入ってみる? ふたりの世界」
「どうだろ……。あんまり、そーいうノリになれないんだよなぁ。俺達って」
「だよねぇ……」
周りから見ると、あたしとヒロシって付き合っているように思われてるんだけどね。
でもヒロシはいまだに、あたしのことを名字の榊原で呼ぶんだ。
あ、玄六と亜里香が我に返ったようにあたふたしだした。
これもいつもどおりだ。
ヒロシが玄六に話しかけた。
「なぁ、玄六。届けられた花って、そのままでポストに入れられていたの?」
「透明なラップみたいなので巻かれてたよ。手巻き寿司とかクレープみたいな感じで。ああ、そういえばそのラップに白いマークが刻印されてたな。ひし形の中にスペードっぽいマーク」
「その形……もしかして、まほろばコーポーレーションの系列のやつかな。ほら、これ」
ヒロシがスマートフォンを操作して、ある企業のWebサイトを出した。
インテリアを扱っている会社で、最近は新技術を使った造花を売り出しているようだ。
「うん。たしかにこのマークだった。ってことは、僕の家に届いたのは造花かな?」
「私ー、玄六くんの部屋でそのお花を見たけどー。ちゃんと花の香りがしたよー。あれって本物でしょー?」
「まって、亜里香。この造花って、匂いも再現しているみたいだよ」
あたしはヒロシのスマートフォンの紹介記事を指した。
特殊な触媒が使われており、花瓶に水といっしょにいれておくと花の香りがでるそうだ。
部屋の加湿と消臭、それに減菌の効果もあるらしい。
「もうちょっとしたら、ライムちゃんが来るから聞いてみようか。まほろばコーポーレーションのことなら何かわかるかも」
「茉莉ー。そのライムちゃんってー。まほろばコーポーレーションのロボットだっけー?」
「そ。少し前にここに手伝いに来てたメイド型ロボットなんだ」
「懸賞に当たって、うちに来ていたんだよ」
ヒロシは、懸賞ハガキを取り出した。ライムちゃんに返してもらったやつだね。
以前、まほろばコーポーレーションで募集していたメイド型ロボットのモニターの懸賞に当選したんだ。
そこでヒロシの部屋の家事手伝いに来たのがライムちゃんだ。
一週間の仕事期間が終わったあとも友達になって、ちょくちょく遊びにきているんだ。
「その懸賞ハガキ、僕も出してたけど外れたみたいだね。ほしかったなぁ。和牛セット……」
「ははは……。榊原も和牛セットを狙ってハガキを出したんだよ。俺の名前でね。それでライムが来たんだ」
話をしていると、玄関からピンポーンとチャイムが鳴った。
あたしとヒロシが玄関に出ると、予想通りライムちゃんだった。
冬らしく黒いコートを羽織っていた。寒いのは平気だっていってたけどね。
「お邪魔いたしますの。浩史様、茉莉様」
「あははは。ライムちゃん、相変わらず固いね。ただいまって言えばいいのに」
「茉莉様。モニター期間が終わりましたので、さすがにそれはよくないと思いますの」
あたしたちはライムを部屋に通して、玄六と亜里香を紹介した。
するとライムは少し首をかしげる。
「長嶋玄六様ですか。もしかして、先日までお花のデリバリーサービスを利用されていた方でしょうか?」
ライムの声に玄六は頭に疑問符を浮かべた。
たぶん、あたしの頭の上にも『?』が浮かんでいるんだろう。
「え? ライムさん、ちょっと待って。僕は花なんて頼んだ覚えはないんだ。いったい誰が依頼したんだ?」
「長嶋様ご自身が懸賞で応募されていて、当選したんですの」
それを聞いて、ヒロシが「あっ」と言ってさっきの応募ハガキを出した。
「よく見るとこの懸賞って1等がメイド型ロボの家事代行サービス、2等が花のデリバリーだったんだ」
あたしも応募ハガキを見た。
あ、ほんとだ。新技術の造花が2等の景品だったんだ。
「なるほど。あたし達、3等の和牛セットしか見てなかったよ。和牛より上ってすごい花なんだね。じゃあ、もしかして玄六んちに花を届けてたのはライムちゃんだったとか?」
「はいですの。今の勤務先のお屋敷が長嶋様のお住まいの近くということもあって、わたくしが配達を担当しましたの」
「そうだったんだー。玄六くんがー、ストーカーに狙われてなくてよかったよー」
亜里香が安心したように言った。
ライムちゃんいわく、玄六のところには事前にお知らせのハガキが送られているとのことだった。
不運だったのは、その頃にあたし達の大学で『当選サギ』の注意喚起があったことだ。
『当選おめでとうございます』という偽物の手紙が届いて個人情報を取られるものらしい。
玄六は、花のデリバリーを知らせる手紙を『当選おめでとうございます』をかかれているのを見て、よく読まずに捨ててしまったのだ。
同じ理由で、ヒロシも一等賞の当選ハガキをちゃんと読まなかったので、ライムちゃんが初めて来た時に驚いたものだった。
「ちょっと待て、ライム。今のライムの勤務先って、森の古屋敷か? あそこは無人の空き屋じゃないの?」
ヒロシがきいた。それ、あたしも気になる。
ライムちゃん、あの化け猫屋敷に住んで大丈夫なの?
「おばあさまが独り暮らしをしていますの。まほろばコーポーレーションの技術顧問をなさっている方で、今でも研究をされていますよ。ロボットのネコとか……」
「なるほど……。化け猫じゃなくてロボ猫だったのか」
なんかストーカーの問題も化け猫屋敷の問題も一気に解決しちゃったかな。
「それじゃあ、ライムちゃんも来たし、メンバーもそろったね。クリスマスパーティーを始めよっか」
「そうだね。あ、ライム。あとでみんなでプラモデルを作ろうっか。榊原に戦闘機のやつをもらったんだ」
「はいですのっ。よろこんでっ」
ライムはコートを脱ぎながらにっこりと笑った。
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